CIAの拷問は「成果なし」 実態調査で分かったポイント

米中央情報局がブッシュ前政権下でテロ容疑者らに過酷な尋問を行っていた問題についての報告書が公表された

2014.12.10 Wed posted at 12:38 JST

ワシントン(CNN) 米上院情報特別委員会は9日、米中央情報局(CIA)が2001年の同時多発テロ以降、ブッシュ前政権下でテロ容疑者らに過酷な尋問を行っていた問題についての報告書を公表した。報告書は拷問が横行していたことを指摘し、その実態を明かしたうえで、CIAが主張してきた成果を否定している。

同委員会は「強化尋問」と呼ばれた手法を検証するため、5年間かけて630万ページ以上に及ぶCIA文書を分析し、約6000ページの報告書をまとめた。今回公表されたのは、その内容を要約した525ページの文書。この中で明かされた事実や結論のうち、重要なポイント8点を整理する。

1.「強化尋問」には拷問が含まれていた

同委員会のダイアン・ファインスタイン委員長は報告書の中で、CIAに拘束されたテロ容疑者らが02年以降、強化尋問と称する「拷問」を受けていたことが確認されたと述べ、その手法は「残酷、非人間的、屈辱的」だったと指摘。こうした事実は「議論の余地のない、圧倒的な証拠」によって裏付けられたとの見方を示した。

ベトナム戦争で拷問された経験を持つマケイン上院議員も9日の議会で、報告書の内容は拷問に相当すると言明した。

CIAは厳しい尋問手法が「命を救った」と主張してきたが、報告書はこれを真っ向から否定している。

2.拷問はあまり効果がなかった

「CIAの強化尋問は正確な情報を入手するうえで有効ではなかった」と報告書は指摘する。

オサマ・ビンラディン容疑者の死亡を伝える新聞。報告書は同容疑者の発見に必要な情報は拷問でなくても入手できたとしている

CIAは強化尋問が効果を挙げたとする20件の例を掲げているが、報告書はそれぞれの例について「根本的な誤り」が見つかったと主張。こうした手法で得られた虚偽の供述をたどった結果、テロ捜査が行き詰まることもあった。CIAが拷問などによって入手した情報は容疑者らの作り話か、すでに他方面から入っていた内容ばかりだったという。

これに対してCIAは9日、当時入手した情報は「敵への戦略的、戦術的な理解」を深めるのに役立ち、現在に至るまでテロ対策に活用されていると反論した。

3.ビンラディン容疑者の発見は拷問の成果ではない

国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン容疑者を捕らえた作戦に、強制的な手法は不可欠だったというのがCIAの主張だ。

これに対して報告書は、同容疑者の発見につながった最も正確な手掛かりは、04年にイラクで拘束されたハッサン・グルという人物が拷問を受ける前の段階で明かしていたと指摘。拷問がなくても必要な情報は得られたとの見方を示す。

4.拷問の末、低体温症で死亡したとみられる拘束者もいた

CIAは拘束者らを消耗させるために、眠らせないという手法を取った。最長180時間も立たせたまま、あるいは手を頭の上で縛るなど無理な姿勢を維持させて睡眠を妨害した。

ブッシュ前大統領

肛門から水を注入したり、氷水の風呂につからせたりする手法や、母親への性的暴行などを予告する脅迫手段も使われた。

排せつ用のバケツだけを置いた真っ暗な部屋に拘束者を閉じ込め、大音量の音楽を流す拷問もあった。

02年11月には、コンクリートの床に鎖でつながれ、半裸の状態で放置されていた拘束者が死亡した。死因は低体温症だったとみられる。

こうした尋問を経験した拘束者たちはその後、幻覚や妄想、不眠症、自傷行為などの症状を示したという。

同時多発テロの首謀者、ハリド・シェイク・モハメド容疑者は少なくとも183回、水責めの拷問を受けた。

アルカイダ幹部のアブ・ズバイダ容疑者が水責めで一時、意識不明の状態に陥ったとの報告もある。同容疑者に対する水責めを撮影した映像は、CIAの記録から消えていた。

5.CIAはホワイトハウスや議会を欺いていた

CIAの記録によれば、ブッシュ前大統領は06年4月まで強化尋問の具体的な内容を知らされていなかった。強化尋問の対象とされた39人のうち、前大統領が説明を受けた時点で、38人がすでに尋問を受けていたとみられる。CIAに残された記録はなく、これよりさらに多くの拘束者が対象となっていた可能性もある。

報告書について説明する上院情報特別委員会のファインスタイン委員長=Senate TV

報告書によると、CIAはホワイトハウスや国家安全保障チームに対し、強化尋問の成果を誇張、ねつ造するなど「不正確かつ不完全な大量の情報」を流していた。司法省が強化尋問を認めた覚書も、虚偽の証拠に基づいて出されたという。

6.担当者は十分な監督や訓練を受けていなかった

収容施設の監督は経験のない若手に任され、尋問は正式な訓練を受けていないCIA職員が監視役もいない状態で行っていた。

報告書によれば、CIA本部の許可なしで強化尋問を受けた拘束者は少なくとも17人に上った。腹部を平手打ちしたり、冷たい水を浴びせたりする手法は司法省の承認を受けていなかった。ある収容施設で少なくとも2回行なわれた「処刑ごっこ」について、CIA本部は認識さえしていなかった。

7.同時テロ首謀者への水責めは効果がなかった

CIAは同時テロを首謀したモハメド容疑者から、水責めによって情報を引き出したと主張する。しかし当時の尋問担当者によれば、同容疑者は水責めに動じる様子をみせなかった。水責めを終わらせるために作り話の供述をしたこともあるという。

8.尋問手法を立案した心理学者らは大きな利益をあげた

強化尋問の手法開発に協力した2人の心理学者は05年、尋問プロジェクトを運営する企業を設立し、09年までに政府から8100万ドル(現在のレートで約97億円)の報酬を受け取った。

2人ともアルカイダやテロ対策の背景、関連する文化、言語などの知識については素人だったという。

拷問の「成果」を否定 上院報告書

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