ギリシャ、経済危機で生まれ変わった観光産業

2014.08.30 Sat posted at 09:00 JST

(CNN) ギリシャ・ロドス島のオールドタウンの入口にある堀の脇に、ランタンに照らされた観光客の一団が立っている。オールドタウンは、欧州で最も保存状態の良い中世都市の1つで、ユネスコの世界遺産リストにも登録されている。

聖ヨハネ騎士団の衣装を着たガイドが、このツアーの参加者に、オスマン帝国最盛期の皇帝スレイマン1世が1522年のロドス包囲戦で自軍の兵士の遺体を使ってその堀を渡ったエピソードなどを解説している。

意外なのは、このやや「上品さ」に欠けるツアーを主催しているのがロドス島でも最高級リゾートホテルの1つであるリンディアン・ヴィレッジという点だ。

リンディアン・ヴィレッジは今年、「Experience Greece」と題し、上記の堀ツアーのほかに、カイーク(伝統的な木製の漁船)で行く釣り旅行、ヨーグルト、はちみつ、レモンなどギリシャの特産品を使ったエステ、エーゲ海南東部に点在するドデカネス諸島にある小規模ブドウ園でのワイン試飲会など、ユニークなサービスの提供を開始した。

同ホテルの代表取締役社長を務めるマリザ・スビリアディスさんは、ギリシャを襲った6年に及ぶ経済危機の間にこのアイデアを思い付いたという。

ロドス島の多くのホテルが、すべて込みのパッケージを販売し、基本的に宿泊客をホテルの外に出さず、現金を緊急に必要としていた地元企業から遠ざける戦略を取る中、スビリアディスさんは正反対のアプローチを取る決断を下す。

スビリアディスさんは、「Experience Greece」プロジェクトを立ち上げ、宿泊客をホテルの外に連れ出し、観光地としての魅力がありながら長年見過ごされ、放置されてきた場所のプロモーションを開始した。

「ギリシャには見所が沢山ある。フェタチーズ(ギリシャ産のヤギのチーズ)だけではないということを示したかった」とスビリアディスさんは言う。

「経済危機により、われわれはそれまでの考え方を改め、創造力を発揮することを迫られた。経済危機以前は多少おごりがあったかもしれない。しかし今は、最善を尽くさなければならない」(スビリアディスさん)

危機感を抱いたのはスビリアディスさんだけではない。経済危機を機に、ギリシャ全土で旅行者向けのサービスが変わり、新たな傾向が生まれた。

「経済危機は私に起きた最高の出来事」と語るのは、旅行会社オルタナティブ・アテネの創業者ティナ・キリアキスさんだ。

キリアキスさんは多国籍企業でマーケティングの仕事をしていたが、2010年に解雇され、その2年後に自分の旅行会社を立ち上げた。

キリアキスさんもスビリアディスさんと同じく、アテネのツアー商品に行き詰まりを感じていた。「観光という視点からアテネに何があるかを考えた時、非常にありふれた、ステレオタイプの『古代アテネ』しかないことに気付いた」という。

キリアキスさんは「アテネには古代都市の側面以外にも多くの見所がある」と述べ、さらに次のように続けた。

「アテネは大変複雑な都市であるため、それを理解し、評価するためには都市の奥深くまで入り込む必要がある。それこそが私の会社のコンセプトだった」

キリアキスさんの会社では一風変わった徒歩ツアーを提供しており、中でも人気なのは街の壁に掛かれたグラフィティ・アートを見て回るツアーや、アテネ郊外にある「魔法の森」を散策するガイド付きツアーなどだ。また旅行者にアテネのグルメな住民を紹介し、住民が自分たちのアパートで旅行者のための夕食会を催すサービスも提供している。現在は1日2回のツアーを主催し、1回に最大25人の参加者を募集するという。

ミリア・マウンテン・リトリート(Milia Mountain Retreat)  クレタ島にある、環境に配慮したこの隠れ家的なロッジでは、島の伝統的な料理法に特化した5~7日間の料理セミナーを開催している。また地元養蜂場での養蜂・採蜜体験や、ネーチャーハイク、ビーチの散策、ブドウ園ツアーも楽しめる

キリアキスさんは、もしギリシャの経済危機がなかったら、ベンチャービジネスを始めようとは思わなかっただろう、と語る。

ギリシャには旅行業者が見落としている地域が沢山あるが、それらの地域も最近になって、少しずつ注目を集めるようになってきた。

ミロス島もその1つだ。ミロス島といえば、フィラコピ遺跡や鉱物資源が有名で、「ミロのヴィーナス」が発見された場所としても知られるが、これまで旅行業者、格安航空会社、旅行者からほとんど見過ごされてきた。

「ここはそういう(大規模なホテルが立ち並ぶ)観光地ではない。ここにあるのは、量よりもサービスや質を重視する家族経営の小規模なホテルだ」と語るのは、専門分野に特化した旅行代理店「Travel Me to Milos」を経営するアントニス・マリスさんだ。

マリスさんは、故郷のミロス島に帰るために保険会社を退職後、2011年に自分の会社を立ち上げた。

マリスさんは、ミロス島には、古代の温泉、水中洞窟、昔の海賊の隠れ家、3世紀に作られた地下墓地など、多くの観光資源があること、また、それらの観光資源を誰も宣伝しておらず、また旅行者が訪問できる体制が整っていないことに気付いたという。

マリスさんは「ネットで安い部屋を予約するのは簡単だが、目的地の詳しい情報を入手するのは容易ではない」とし、「われわれに連絡をいただければ、おすすめの観光スポットや、その日の風向きをお知らせする」と語る。

マリスさんが提供しているのは気象情報だけではない。マリスさんの専門は、ミロス島の見事な景色の一部が堪能できる考古学・地質学ツアーだが、他にも島の他の業者と協力してセーリングやハイキングのツアーを提供したり、最近は、島で生産したチーズや農産物を紹介する料理教室も始めた。

ミリア・マウンテン・リトリート(Milia Mountain Retreat)

その他のツアー

ギリシャには他では味わえないめずらしい体験ができるツアーが数多くあり、その多くは地元の企業がここ数年に始めたツアーだ。

ユーメリア(Eumelia)

フランギクソス・カレラスさんは、家族で経営していた農場を改造し、農業・観光サービスを提供するベンチャー企業を立ち上げた。ここでは、ヨガ、マウンテンバイク、オリーブ狩り、ワイン造りなど、さまざまな体験ができる。

ビオレア(Biolea)

この有機農場では、昔ながらの石臼を使用し、ギリシャで生産されている数少ないシングルエステートのオリーブオイルの1つを生産している。また、珍しいクレタ島の伝統的なオリーブオイル作りが見学できる無料のツアーも行っている(要予約)。

ビオポロス(Bioporos)

コルフ島の南西岸に位置するこの有機農場には、オーガニックレストランがあり、また農業体験や電気を使わない伝統的な料理法が学べる料理教室、さらに磁気治療によるデトックスなど、さまざまなアクティビティが楽しめる。

キンスターナ・ホテル(Kinsterna Hotel)

2010年にオープンしたこのホテルの周りには、オリーブ園、ブドウ園、かんきつ園が広がり、オリーブやブドウの収穫、釣り、せっけん・かご作りなどが楽しめる。

アブリ・ホテル(Avli Hotel)

クレタ島にあるこのホテルでは、宿泊客が朝の山の散策で集めたカタツムリを調理し、その日の昼食や夕食に出してくれる。

イカリアン・ワイナリー(Ikarian Winery)

家族経営でフレンドリーなイカリアン・ワイナリーでは、手頃な料金の料理・ワインセミナーを開催している。中には6日間のセミナーもあるが、場内には宿泊施設も用意されている。時間がない人はワインの試飲会(軽食付き)のみの参加も可能。

ミリア・マウンテン・リトリート(Milia Mountain Retreat)

クレタ島にある、環境に配慮したこの隠れ家的なロッジでは、島の伝統的な料理法に特化した5~7日間の料理セミナーを開催している。また地元養蜂場での養蜂・採蜜体験や、ネーチャーハイク、ビーチの散策、ブドウ園ツアーも楽しめる。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。