プーチン大統領による中南米歴訪、その狙いは

ロシアのプーチン大統領(右から2番目)の中南米歴訪の狙いは

2014.09.08 Mon posted at 17:31 JST

(CNN) ウクライナ上空で親ロシア派勢力によりマレーシア航空機が撃墜されたとされる事件で、ロシアの支援が果たした役割を巡り、臆測が飛び交う状況が続いている。こうした状況で、1つの疑問が浮かんでくるのは避けられない。それは、ロシアは国際的に孤立しつつあるのだろうかというものだ。

国際社会の注目が米欧によるさらなる経済制裁に集まるなか、ロシアの国益や影響力が欧州の国境のはるか向こうに拡大していることを思い起こすのは意味がある。

オバマ米大統領はロシアが単なる「地域大国」に過ぎないとの見方を示しているものの、実際のところ、プーチン・ロシア大統領による中南米歴訪が浮き彫りにしたのは、プーチン氏の関心が欧州の裏庭にとどまらないということだ。

プーチン大統領は7月11日から1週間にわたり、ブラジル、アルゼンチン、ニカアグラ、キューバの各国を訪問した。プーチン氏はこの間、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国でつくる「BRICS」の首脳会議に参加、BRICS独自の「新開発銀行(NDB)」を設立することで合意した。各国首脳との会談も精力的にこなしている。

こうした中南米歴訪の背景には、国際社会での孤立を回避し、欧米への対抗軸を結集しようとするロシアの狙いがあるとみられる。

ロシアは米国の対抗軸なろうとしているとの見方も

ロシア科学アカデミー中南米研究所のウラジミール・ダビドフ所長は「ロシアは米国の対抗軸になることを目指しているが、あくまで他国を巻き込んでいく形だ」と分析する。

南米訪問の目的のひとつは貿易拡大だ。ロシアとブラジルの貿易は過去2年間、低迷が続いていたが、報道によると今回、ロシアの大手国有石油会社ロスネフチなどがブラジル企業と間に協定を結んだ。

一方、キューバとアルゼンチンでは、ロシアのエネルギー各社が大型契約に署名。さらにロシア国営原子力企業のロスアトムも、アルゼンチンのアトーチャ原子力発電所に3号機を建設すべく、入札競争を展開している。

ベネズエラとの経済関係を深化させる姿勢も鮮明化している。プーチン大統領は今回、同国を訪問しなかったものの、マデュロ大統領とはブラジリアで会談。ロスネフチがエネルギー関連事業の拡大の一環として、ベネズエラにおける石油採掘事業や油田施設を買い取ることで合意した。

中南米におけるロシアの野心は貿易だけにとどまらない。プーチン大統領は今回の訪問中、米国に対抗して運用されているロシア版GPS(全地球測位システム)の「GLONASS(グロナス)」を盛んに売り込んだ。この結果、アルゼンチンとキューバがグロナスの高高度衛星ナビゲーションシステムを導入することに決まった。

クリミア併合などを受けて、ロシアに対する国際社会の風当たりは強くなりそうだ

さらに、ロシア紙コメルサントの報道によると、ロシアとキューバ両国は、2001年以来閉鎖されていたキューバ国内のルルデス電子情報基地を再開することで合意したという。これは旧ソ連時代に米国の監視を担っていた基地で、今回の再開に踏み切ったのは、米財務省が対ロシア経済制裁を決定したことへの反発だとみられている。

こうした動きから見えてくるのは、国際社会で味方を集めるため、ロシアが国を挙げての戦略を展開しているということだ。国連総会のような場でロシアは今後、クリミア併合やマレーシア機撃墜に関与したとされる親ロシア派勢力への支援を巡り、厳しい批判を浴びることが予想される。

これに対抗するためにも、国際社会でロシアの味方となる勢力が必要だ。また、米財務省が経済制裁強化を進める中、プーチン大統領としては、経済的利益のために、選択肢を増やしておきたいというのは間違いないだろう。

もちろん、プーチン大統領の中南米訪問が、米国の安全保障に対する直接の脅威となるわけではない。だが、米国の政策立案者は、ロシアという熊をおりの中に閉じ込めておくのは不可能だと改めて肝に命じておく必要があるだろう。

本記事は、米シンクタンク、ウィルソン・センターの研究員、ダイアナ・ビラーズ・ネグロポンテ氏よるものです。記事における意見や見解はすべてネグロポンテ氏個人のものです。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。