(CNN) 中国で草の根の社会運動が活性化している。中国共産党が上からの一党支配を維持する中、市民社会の側では地に足をつけた地道な活動が広まっているようだ。中国の社会運動の現場をよく知る3人に話を聞いた。
新しい社会運動の中心となっているのは非政府組織(NGO)だ。英誌エコノミストの中国支局長を務めるジェームズ・マイルズ氏によると、中国政府に登録しているNGOの数は約50万に上り、登録されていない独立系NGOも合わせると200万近い団体が活動している。
分野についても、労働問題や女性の人権から環境保護に至るまで、多岐にわたっている。
代表的なのはジャーナリストの鄧飛(ドン・フェイ)氏が始めた運動「子どものためのフリーランチ」だ。
同氏はかつて貴州省に取材に赴いた折、子どもたちが空腹に耐えながら登校する様子を目の当たりにして一念発起、2011年に運動のための団体を創設した。以来、23省で、9万2000人に及ぶ子どもに無料で食事を提供してきた実績を持つ。
草の根の活動の多くは、市民社会の側から自然発生的に広まったもの。
こうした自発的な社会運動の先駆け的けとなったのは、韓東方(ハン・ドンファン)氏だ。1989年の天安門事件の際、中国初の自主労働組合を結成して注目を集め、以来、香港を拠点に労働運動を展開している。
同氏は「残念ながら、正式な労働組合は自分たちを政府の役人とみなしており、労働者を代表しているという意識はない」と指摘。そのため、労働者個人が自身で声を上げなければならない状況だという。
そんな中、孤立しがちな労働者の声を結集させる上で大きな役割を果たしているがソーシャルメディアだ。じん肺で苦しむ炭鉱作業員のような人々は従来、沈黙を余儀なくされてきた。しかし、ソーシャルメディアの普及で状況は激変したという。
中国政府は依然、共産党の方針に批判的な投稿を削除するなど、厳しいインターネット検閲を敷いている。ただ、ネット上での抗議の声の高まりを受け、市民社会とのオンライン対話に乗り出さざるをえない状況だ。
さらに、ネット上の動きは、現実の政治にも変化をもたらそうとしている。
1989年、天安門事件勃発時に取材にあたったマイルズ氏は、当時と比べてもはるかに急速度で社会運動が組織されるようになってきたのを実感しているという。
社会的な事件にまつわる情報や運動を公にコントロールするのは難しくなっているが、それだけに当局は、NGOを登録下に置こうと躍起になっている。
中国政府によるこうした歩み寄りの動きについて、マイルズ氏は治安管理が目的ではないかとみている。その一方で、運動の当事者にとっては助けとなっている面もあるようだ。
「フリーランチ運動」の鄧氏は「財源をコントロールしているのは政府であり、どの学校に手を差し伸べることができるかどうかを決定するのも政府だ」と述べ、当局の支援の重要性を指摘した。
中国で育つ市民社会