大統領選控えるブラジル、W杯がもたらした変化とは

2014.07.13 Sun posted at 18:09 JST

(CNN) サッカーワールドカップ(W杯)の自国開催にあたり、ブラジル国内ではお祭り騒ぎの様相を呈していた。その一方で、W杯開催そのものに疑問を投げかけるような動きもある。高騰するスタジアム建設費をめぐって抗議の声があがり、ストライキも頻発、ルセフ大統領への批判は日に日に激しさを増している。

背景には、ブラジルが現在、大きな過渡期を迎えているという事情がある。過去の成功モデルが疑問に付されているのだ。

この10年間、ブラジルが活況を呈してきたのは、中国をはじめとする海外市場に資源や農産物を高値で輸出できたためだ。また、ルラ前政権が革新的な社会政策を施行し、何百万という国民が貧困から抜け出したことも大きかった。

だがブラジルは、景気後退局面に備えた改革を怠った。この結果、輸出品への需要が低下し、コモディティー価格も下落した現在、2億人近い膨大な国民を支えきれなくなっている。

この15年で新たに登場してきた中産階級の要望に応えることも課題だ。中産階級はより良い教育やサービス、インフラの拡大を求めているが、肥大化したブラジルの国家機構は対応できていない。

試合中に「汚職反対」のスローガンを掲げるブラジル人サポーター

「大きな国家」モデルがこの10年余りの成長を促したのは事実だが、生産性や効率を高めるという意味では、もはや有効なモデルではないようだ。

ブラジルの未来をめぐるこうした議論はW杯の期間中、一時的に影を潜めるかもしれない。だが、猜疑(さいぎ)の念はすでにブラジル政治に深く染みこんでいる。8月初旬に大統領選に向けた選挙活動が始まれば、すぐに批判が再燃するはずだ。

実のところ、ブラジル国民のW杯への見方は冷め切っていた。

世論調査機関のピュー・リサーチ・センターが6月に行った調査によれば、61%の回答者は、公共サービスに投じられるべき財源を奪っているとしてW杯に反対。さらに、W杯は国外におけるブラジルのイメージ向上に資さない、むしろ悪影響だとする回答も62%に上った。

熱狂的なサッカーファンで知られるブラジル人がW杯に否定的になっている背景には、今回の大会が汚職まみれとみなされてきた経緯がある。肥大化するコストめぐる不満も後を絶たない。

大会の期間中、観光客が目にするのは、気前が良く優雅な、いつも通りのブラジル人の姿かもしれない。だが、W杯をめぐる議論は間違いなく大きな変化のきっかけとなった。

もちろん、ブラジルほど巨大な国で変化がすぐに起こるとは考えにくい。しかし、10月の大統領選の勝者は、国家の管理を緩め、民間セクターに製品やサービスを提供させる方向で改革を進める必要があるだろう。

国家は雇用やサービスの提供を行うのではなく、秩序を維持し成長を手助けするというより現代的な役割を果たすようになっていくことに、ブラジル国民も次第になれるだろう。そうなれば、海外からの投資を誘致するため、「ブラジル・コスト」として知られる重い税金や高額な輸入関税も縮小せざるを得ないだろう。

W杯はブラジル国内に新たな変革の力を解き放った。従来の国家モデルは疑問に付されている。ルセフ大統領の与党が無難に勝利するとみられていた選挙も、刺激的かつ重要な戦いになりそうだ。

ブラジルにおける市民社会対国家の戦い、ハーフタイムの時点では1-0で市民社会がリードする展開になるのではないだろうか。

本記事は、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのアイドリアン・アーシュト・ラテンアメリカセンターのディレクターを務めるピーター・シェクター氏によるものです。記事における意見や見解はすべてシェクター氏個人のものです。

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