高級食材「フグ」の本場、下関

皿の模様が透けて見えるほど薄く切って盛り付けられたフグ=下関市提供

2014.09.27 Sat posted at 09:00 JST

(CNN) 本州最西端の山口県下関市は値段の高さと猛毒で知られる美味なる食材、フグの「本場」だ。その下関にある南風泊市場は、日本で唯一のフグ専門の卸売市場と言われる。

同市場ではフグ漁のシーズンである9月から翌年春まで、週6日、早朝から取引が行われる。ある朝にCNN取材班が訪れると、明るい光に照らされた海水まみれの市場の床には、さまざまな価格、体長、肉付きの約15匹のフグがそれぞれ入った20の箱が並んでいた。

フグは競り人の責任者を務める男性の「ええか、ええか」のかけ声とともに、競りにかけられる。ここでは伝統的に、「袋ぜり」と呼ばれる独特の方法で競りを行う。同市場で15年間競り人を務める男性が黒い布袋に手を入れて差し出すと、仲買人たちは袋の反対側から手を入れ、競り人の手や指を握って値段交渉を行う。

競りが終わると、競り落とされたフグはポリスチレンの箱に詰められ、下関市内の10カ所の処理工場に運ばれる。これらの工場はすべてフグ処理の許可を受けており、法令で定めた基準に従って除毒処理を行う。

毎年2月開催の「ふくの日まつり」では、料理教室が開かれたり鍋が振る舞われたりする=同市提供

フグの毒はシアン化合物の数百倍に達し、肝だけでも男性5人を死に至らしめるだけの毒が含まれている。西オーストラリア州漁業省によると、フグは世界のすべての脊椎(せきつい)動物の中で、モウドクフキヤガエルに次いで毒性が強いという。そのため除毒処理は極めて重要になる。

卵巣、腎臓なども肝同様に猛毒であるため、処理後はすべて焼却処分される。フグに含まれるテトロドトキシンは、わずか1ミリグラムでも口にすると、1時間以内死に至るほどの猛毒だ。

それでも、トラフグは日本の典型的な高級グルメ料理だ。東京の外食好きの人々は、「臼杵ふぐ 山田屋」や「とらふぐ亭」などのふぐ料理店に足しげく通い、大金を惜しげもなく支払う。

以前、魚の養殖業者がフグに与える餌を制限することにより、毒を持たないフグの開発に成功したと報じられたことがあった。だが、毒を持つ従来のフグの人気も衰えていない。恐らく、この死の恐怖もフグの魅力の1つであることを示しているのだろう。

市内には巨大なフグの石像も=同市提供

古代エジプトの墓でフグの絵が発見されたと教えてくれたのは、下関でフグの卸売業を営む男性。この男性によると、古代エジプト人はフグを使ってボウリングの原型となる遊びを楽しんでいたという。

また、英国の海洋探検家クック船長がニューカレドニアの原住民からフグを購入したが、それを船長の豚が食べて死亡したこと、1975年に歌舞伎役者で人間国宝の8代目坂東三津五郎が4人前のふぐを食べて死亡したことなども男性は話してくれた。

この男性によると、フグは伝統的に、模様が付いた磁器皿の上に、皿の模様が透けて見えるほど薄く切って盛り付けるという。腕のいい料理人は、薄く切ったフグを菊の花びらや富士山、さらにクジャク、亀、チョウといった動物の形に並べる。フグを盛った皿はどれも芸術品であり、職人技だと男性は言う。

われわれは男性が経営する工場を訪れ、従業員らがフグを洗い、処理する様子を見学した。

本物のフグの皮で作ったフグちょうちん=同市提供

フグの中でも一番はトラフグだ、と男性は語る。トラフグの価格は1キロ当たり4万円に達することもあり、1キロで30人分だという。現在男性はトラフグをニューヨークに輸出しているが、1988年まで米国へのフグの輸出は許されていなかったという。

しかし男性は、トラフグを食べるなら下関が一番だと語る。大阪や東京でトラフグを注文すると1人前は8切れほどだが、下関の料亭では同じ価格で20切れほど食べられるという。

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