W杯控えたリオのコカイン街、救済に教会動く

W杯直前のリオデジャネイロにコカイン常用者が毎夜集まる「クラックランド」がある

2014.05.12 Mon posted at 17:29 JST

ブラジル・リオデジャネイロ(CNN) 薄暗い通りでテントの下の地面にかがみこむ大勢の人たち。ショートパンツ姿の若い女性がベビーカーに大量のがらくたを乗せて通りかかる。至る所にプラスチックコップが積み上げられ、コカイン吸引用の即席パイプとして使われていた。

サッカー・ワールドカップ(W杯)の開催を6月に控えたブラジル・リオデジャネイロには、コカイン常用者が集まる「クラックランド」と呼ばれる一角がある。当局はW杯を前にコカイン撲滅キャンペーンを展開しているが、思うような成果は出ていない。

サンパウロ連邦大学によると、ブラジルのクラックコカイン消費量は米国を抜いて世界一になった。国境を接するコロンビアやペルー、ボリビアは、世界有数のコカイン原産国。経済成長によって可処分所得が増えるに従い、麻薬に手を出す人も増えた。

コップに火を付けていた男性は、「クラックは死のドラッグだと言う人もいるが、そんなことはない。私はもう8年も吸っている」と笑う。

クラックと引き換えに売春しているという女性は、ここから抜け出したいかという質問に首を振り、ライターを持っているかと記者に尋ねた。

コカイン常用者支援のボランティア活動をしている教会に人々が集まる

W杯はブラジルの12都市で開催予定。各都市を結ぶ幹線道路には「クラック、自由か死か」という広告が設置されている。しかし当局のコカイン撲滅キャンペーンに対しては、狙いは街の美化にあり、問題の根本的な解決や、常用者の救済は意図していないという批判もある。

こうした中、クラックランドに毎週1回ワゴン車で出かけ、常用者支援のボランティア活動をしている教会がある。

ボランティアの1人、ロブソンさんは、麻薬を断って3カ月になる。警備員の仕事を持ち、結婚して子どもも生まれたが、10年間の麻薬使用の末にクラックコカインに手を出して中毒になり、この地に行き着いた。

「(コカインは)最初は素晴らしいものに思えるが、やがて自分の人格も、存在そのものも奪われる。ここにいる人たちはみんな、生活も家族もあったのに、麻薬にとらわれる身になった」とロブソンさんは言う。

活動では毎回、更生を目指す人たちを何人か連れて戻る。常習者たちは教会が運営するリハビリ施設で狭い部屋に寝泊まりし、自炊しながら共同生活を送っている。夕べの礼拝が終わると近くのサッカー場に出かけて2時間ほど汗を流す。

リハビリ施設を運営するリカルド牧師

教会を創設したセリオ・リカルド牧師は、自らが15歳の時からコカインを常用していた経験を持つ。宗教と出会ったおかげでようやく立ち直ることができたといい、「泣いたことのある者にしか涙は理解できない。私には彼らの弱さが分かる」と力を込める。

教会では更生を目指す人やその家族たちが、リカルド牧師の情熱的な説教に耳を傾ける。魂を奪われたように体を震わせ、床に倒れる男性もいる。

依存状態から抜け出すために、リカルド牧師は少なくとも9カ月は更生施設に滞在するよう勧めている。しかし実際には、また元の状態に戻ってしまう人が3分の2を占めるという。

「それでもその気になれば、ここの場所は知っている。どこへ行けば助けてもらえるかが分かっている」とリカルド牧師。

ロブソンさんも同施設への入所は2度目になる。しかし今回限りにするという決意は固い。娘の15歳の誕生日までには立ち直りたいと話し、「初めて娘と一緒にケーキの前に立てるかな」と明るい笑顔を見せた。

W杯控えたリオのコカイン街

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