(CNN) 近い将来、コンピューターによって職が奪われるのではないかとの不安が広がっている。自分は安泰だろうという人には「ワトソン」の例を想起してほしい。米クイズ番組「ジョパディ!」で人間のチャンピオンに勝利した米IBM社のコンピューターだ。
クイズ番組で解答するのは複雑な仕事で、コンピューターは今や、人間の専売特許とされていた精妙な判断力も手にしたことになる。
折しも、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソンとアンドリュー・マカフィーの両氏は、時々刻々と進化するコンピューターとその影響について考察した「The Second Machine Age(原題)」を刊行した。
両氏がまず指摘するのは、近年のコンピューターのめざましい進歩だ。自動運転が可能になり、人間に話しかけることもできるようになった。ムーアの法則にもあるように、コンピューターの処理能力は約2年で倍増する。その進歩の速度は「指数関数的」だ。
指数関数的という表現をわかりやすく説明するには、チェスの発明にまつわる神話が面白い。
言い伝えによると、あるインド人がチェスを発明して献上したところ、王様はすっかり感心し、望む物を何でも褒美に取らせることにしたという。発明者の望みは一見、ごく控えめなものだった。
チェス盤の最初のマス目に米を1粒だけ置いた上で、64個のマス目すべてを埋めるまで、マス目ごとに米粒の数を倍増していってほしいと頼んだのである。
王様は当惑しながらも、財務担当の臣下に命じ、要望通りの褒美を与えた。
すると、最初は1粒だったのが2粒、4粒、8粒、16粒、32粒、64粒、128粒、256粒、512粒という風に倍々に増大し、チェス盤の半分にあたる32マス目に到達するころには、累計で40億粒以上となってしまった。これには臣下もひるんだが、倉庫にある米で足りるだろうと計算し、高をくくっていた。
だが、チェス盤には後半部が残っていた。そして、33マス目の40億粒から始まり、再び倍々にしていって最後の64マス目を迎えると、総計は1800京粒以上にまで膨れ上がったのである。世界中の米粒をかき集めても、まだ足りない。
この臣下は結局、王様によって処刑されたとも伝えられている。
今日のコンピューターの性能はいわば、チェス盤の後半部に入った段階だ。
米航空宇宙局(NASA)によれば、現在の携帯電話には、アポロ計画全体で使われたコンピューターの数倍の計算能力が備わっているという。しかも、今後も毎年のように強力になっていくのである。
コンピューターがこれほど強力になると、人間はどうなってしまうのだろうか。
両氏が同書で引き合いに出すのは、1997年にチェス世界王者を破ったIBMのコンピューター「ディープ・ブルー」の例だ。当時、もう人間では勝負にならないのでないかと悲観されたが、そんなことはなかった。
その後のトーナメントで人間とコンピューターが協力するようになると、最高性能のコンピューターにも対抗できることがわかったのである。2005年には、普通のノートパソコン1台を使うことで、チェス選手がスーパーコンピューターを破る快挙もあった。
人間とコンピューターが力を合わせるのが最も強力ということだ。
人間が活躍する余地はまだ残されている。コンピューターを使いつつ、人間ならではの創造性と洞察力を発揮することが、成功への鍵となるだろう。