世界の舞台で健闘、タスマニア産ウイスキー

タスマン国立公園のはずれで小規模な蒸留所を営むウイリアム・マクヘンリー氏は品質にこだわる。「武器」は、マウントアーサーから湧き出る新鮮な湧き水だ

2014.05.10 Sat posted at 09:00 JST

(CNN) スコットランドのハイランド、スペイサイド地方、米国のケンタッキー、テネシー、日本のサントリー山崎蒸留所、白州蒸留所、プレミアムモルトウイスキーを求める旅先として代表的な場所だ。しかし世界クラスの蒸留所として、新たな地域が仲間入りしそうだ。

タスマニア産ウイスキー

オーストラリア連邦タスマニア州の州都ホバートのジェーン・オーフレイム氏(26)は、18歳の時から主に生産者としてウイスキーのテイスティングを行ってきた。

ジェーン氏とその父、ケーシー・オーフレイム氏は、自宅のガレージで、世界最高級のシングル・モルト・ウイスキー「オーフレイム」を造っている。

オーフレイムは、世界的に知られる英国のウイスキー評論家ジム・マーレイ氏が毎年発表している「ウイスキー・バイブル」で、100点満点中94点以上を獲得したウイスキーにのみ与えられる「リキッド・ゴールド賞」を受賞した。

タスマニアは、新鮮な水、風味豊かな醸造用大麦、高地の泥炭(ピート)、醸造に適した気候など、ウイスキー作りの条件がそろっており、これまで、タスマニアで生産された多くのシングル・モルト・ウイスキーがリキッド・ゴールド賞を獲得してきた。

オーフレイムの他にも、ラーク、ナント、サリヴァンズ・コーヴ、ヘリヤーズ・ロードといったタスマニア産ウイスキーが世界の舞台で成功したことで、まだ少数ながら熱心なウイスキー愛好家がタスマニアの蒸留所を訪れ、そこで造られたウイスキーを味わい、その特徴について生産者たちと直接議論するようになった。

ジェーン・オーフレイム氏は、ホバートにあるオーフレイム蒸留所で、18歳の時からウイスキーのテイスティングを行ってきた

かつてシングル・モルト・ウイスキーと言えば55歳を過ぎた男性の領域だったが、最近は1本150ドルのプレミアムウイスキーを購入する若者や女性も増えてきた。

「8年前にウイスキーショーに初めて参加した時、女性の参加者は私1人だったが、今は男性と女性の割合は半々という感じ」とオーフレイム氏は語る。

世界で最も南に位置する蒸留所

タスマン国立公園のはずれ、マウントアーサーにウイリアム・マクヘンリー氏が経営する世界で最も南に位置する蒸留所、ウイリアム・マクヘンリー・アンド・サンズ蒸留所がある。南緯43度に位置するこの蒸留所と南極の間にあるのは広大な南洋だけだ。

北部の港湾都市バーニーにあるヘリヤーズ・ロード蒸留所、中部ボスウエルのナント蒸留所、ホバートのウォーターフロントにあるラーク蒸留所など、タスマニアの一部の蒸留所にはしっかりとした案内所やテイスティングが行えるバーがあるが、その他の蒸留所を訪問する際は事前にアポを取った方がいいだろう。

ケンプトンの近くにあるベルグローブ蒸留所は、本業は牧羊業者と砂の彫刻家だが、たまにウイスキーを造るというピーター・ビッグネル氏が1人で経営している蒸留所で、オーストラリア唯一のライ・ウイスキーを月に100リットルのペースで生産している。

ビッグネル氏は、ライ麦の栽培から、麦芽処理、発酵、蒸留、瓶詰めに至るまで、すべてこの蒸留所で行っているため、輸送費がかからず、麦芽を乾燥させるための熱の浪費もなく、水の使用も最小限で済む。

サリヴァンズ・コーヴ蒸留所の主任ディスティラーのパトリック・マグワイア氏は、「品質の維持こそが適切な態度。成長しても巨大な蒸留所になることはない」と語る

タスマニア産ウイスキーの先駆者ビル・ラーク氏いわく、シングル・モルト・ウイスキー造りは科学、芸術、情熱の融合だ。

ラーク氏が、「Lark Distillers Selection」ブランドのウイスキーで使用する油を豊富に含んだ大型の大麦は、ウイスキーに香ばしさと香りを与える。同ウイスキーは2009年にオーストラリアのベスト・シングル・モルト・ウイスキーに選ばれた。

拡大する世界のウイスキー需要

ホバート郊外のケンブリッジにあるサリヴァンズ・コーヴ蒸留所は、ジム・マーレイ氏の「ウイスキー・バイブル」で96.5点以上を獲得するなど、これまで数々の賞や称賛を得てきた。

しかし、同蒸留所の年間生産量はわずか2万リットルしかなく、主任ディスティラーのパトリック・マグワイア氏によると、オーストラリア国内の需要を満たすのも難しく、まして中国やインドからの大量の問い合わせには全く対応できない状況だという。

マグワイア氏は「品質の維持こそが我々の適切な態度だ」とし、「我々は成長しているが、巨大な蒸留所になることはない」と付け加えた。

オーストラリアで唯一、水力製粉機で大麦を製粉しているナント蒸留所のオーナー、キース・バット氏の目標は、ウイスキーバーのネットワークを通じてナントを世界的ブランドに育てることだ。

バット氏は「現在、5つのウイスキーバーを所有しており、ブリスベンに2店、シドニー、メルボルン、ホバートにそれぞれ1店ずつある。間もなくロンドンに新たなバーをオープンする」と述べ、さらに「5年以内にニューヨークなど、世界中の都市に70店のバーを開くのが目標」と付け加えた。

ラーク蒸留所のツアーマネジャー、マーク・ニコルソン氏によると、上質のウイスキーを造る秘訣は、機械を動かしているコンピュータではなく、人間の味覚にあるという

「我々は今、ワクワクしている」と語るのは、バス海峡を見渡すオーストラリア最大のウイスキー蒸留所、ヘリヤーズ・ロード蒸留所を経営するマーク・リトラー氏だ。

リトラー氏は、「数カ月前、パリで開催されたウイスキー・ライブのブラインド・テイスティングで、われわれのウイスキーが『ベスト・ニューワールド・シングル・モルト・ウイスキー賞』を獲得した」と語る。

ヘリヤーズ・ロード蒸留所には毎年2万5000人が訪れ、蒸留所見学ツアーの参加者は、自分のボトルにウイスキーを入れて持ち帰ることができる。

ウイリアム・マクヘンリー・アンド・サンズ蒸留所のウイリアム・マクヘンリー氏の武器は、マウントアーサーから湧き出る湧き水だ。

マクヘンリー氏は「スピリッツ(蒸留酒)を冷やすための純粋な水を求めてここに来た」と述べ、「非常に小規模な経営なので、望みを高く持つ必要がある」と付け加えた。

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