(CNN) アジア太平洋地域で今後20年、航空産業のさらなる拡大が予想される中、パイロットや整備士など運航スタッフ不足が深刻な問題となりつつある。航空各社はアジアへの投資を強化しているが、現場の人員養成が追いついていないのが現状だ。
シンガポールに拠点を置き航空会社向けに人材訓練を行うミルコム・エアロスペース・グループの副社長ボニー・シャーマ氏も、こうした事態を「最大の課題」と指摘する。航空各社が機体購入に大金を投じた結果、パイロットや技術者の訓練にまで資金を回す余裕がないのが現状だという。
こうした人材難が特に顕著なのが、近年アジアで急増中の格安航空会社(LCC)だ。
ベトナムの格安航空会社ベトジェットエアは2月、欧州航空機大手エアバスからA320単通路航空機63機の購入などを含む64億ドルの大型契約を結んで話題となったが、やはりパイロット不足に悩まされている。野心が先行し、肝心の人材確保が追いついていない格好だ。
外国人パイロットに依存しきったベトナムの現状を打破するため、ミルコムは2月、シンガポールで行われた「シンガポール航空ショー2014」で現地企業と覚書を交換、ベトナムにパイロット育成専門の訓練学校を設立することで合意した。
しかし、それでもなおシャーマ氏は「訓練学校が明日すぐ100校新たに開設したとしても、まだ足りない。人材不足はそれほど深刻だ」と話す。
航空機製造最大手の米ボーイングが昨年8月に発表した市場予測によれば、2032年までの20年間で50万人近い民間航空機パイロットが必要になるという。特にアジア太平洋地域ではパイロット需要が急激に拡大する見込みで、19万2300人のパイロットが新たに必要になるとされる。
同社はすでに問題解決に向けて動き出しており、提携する航空各社とも協力して、世界各国でパイロット訓練学校を運営している。
アジア市場を巡ってボーイングと争うのが欧州航空機大手エアバスだが、同社とシンガポール航空は先ごろ、シンガポールに飛行訓練センターを設立すると発表。パイロット育成の分野でも競争を展開する。
ただ、パイロット不足以上に懸念されているのが、整備士など地上スタッフの人材難だ。
先のボーイングの予想によると、アジア太平洋地域では、2032年までの20年間で、21万5300人の整備士が必要になるとされる。
厳しい労働環境で昼夜を問わず働かねばならない整備士の職が敬遠されているのが人材難の一因だが、育成に時間がかかるのも悩みの種。航空アナリストによると、パイロット新規育成は通常18カ月ですむが、整備士の資格取得には5年かかる。
ここでもやはり、経験者を引き抜ぬけない格安航空社が問題を抱える。
もっとも、パイロットや整備士の不足は今に始まった問題ではなく、航空業界は過去にもこうした難局を乗り越えてきた。
今回、人材難打開の糸口として新たに期待されるのは、フロリダに本拠を構えるDiSTI社が開発した、機体整備訓練のソフトウエアだ。従来は高価なハードウエアに頼り切りだった機体整備をソフトウエア上で行うことで、訓練が容易になった。
パイロット訓練用のシミュレーターのように、情報化時代の航空産業を支える鍵となれるか期待が寄せられている。