UAEに涼もたらす「風の塔」、現代風にアレンジ

UAEのアブダビ郊外にある研究所に立つ現代版「風の塔」

2014.03.07 Fri posted at 09:43 JST

(CNN) ドバイはおそらく世界で最もエアコンが効いている都市の一つだ。夏の屋外の気温は50度近くに達するが、猛烈にエアコンが効いた公共施設の内部はジャケットを羽織る必要があるほど涼しい。映画館では、毛布を貸し出す施設まである。

一方で、増え続けるエネルギー消費は地域の悩みの種になってきた。世界銀行の調べでは、アラブ首長国連邦(UAE)の1人当たりのエネルギー消費量は、世界でも最大規模に達した。特に夏場はエアコン使用によるエネルギー消費が全体の7割を占めている。

だが、解決策は意外と身近なところにありそうだ。

鍵となるのは、「風の塔」と呼ばれる中東の伝統建築。ゼロエネルギーでの室内冷却を模索する技術者らが今、約1千年前から存在するこの塔に熱視線を注いでいる。

英リーズ大学准教授で建築物理学専門のベン・ヒューズ氏は、実に簡潔で効率的な解決策だとして、「風の塔」を絶賛する。

増え続けるエネルギー消費は地域の悩みの種になっている

同氏の解説によると、「風の塔」の仕組みは次のようなものだ。まず、なるべく高い「風採り塔」を建て、上空にある速い気流を取り込んで塔の内壁に沿って風を下方に押し流す。建物内外に気圧差から屋内のよどんだ空気が外部に向けて一掃され、換気と冷却を図る仕掛けだという。

ヒューズ氏は「風の塔は素晴らしい。このように自然に換気された空間を体験すれば、エアコンで冷却された室内などよりはるかに健康的だと感じるはずだ」と話す。エアコンは一瞬にして快適な温度をもたらす利点がある。一方で「風の塔」は室内にたまった二酸化炭素を除去し、空気の淀みを軽減する機能を備えているという。

ヒューズ氏が特許を取得した現代版「風の塔」は、高さ1メートルの箱形装置で、上部から建物内に冷気を送り込むもの。冷却用の液体も利用して、室内温度を12度も下げることに成功したという。同氏のコンパクトなデザインは、巨大な塔を建てる際の建物に与える構造的な負荷を回避し費用を軽減するための策だ。

「風の塔」の他にも伝統様式を生かして室温上昇を避ける取り組みが進んでいる

欧州ではこの10~15年、エネルギーコストの高騰を受けて、アラブ流の「風の塔」を現代風にアレンジしたデザインが流行してきた。これを受けて、エアコン一辺倒だったドバイでも近年、伝統的な空調方法を見直す動きが広がっている。「風の塔」のデザインは、欧州経由で再び中東に回帰しつつあるのだ。

UAEのアブダビ郊外にあるマスダール科学技術研究所(MIST)には、このような現代版「風の塔」があり、目を奪うような壮観を呈している。高さ45メートルにおよぶタワーの一部に地元の伝統的な様式を組み込んでおり、これによってキャンパスの共有空間を冷却、換気している。

エネルギー消費の増加に頭を悩ませる中東だが、その答えは足元にあった。ヒューズ氏は、最小の費用で空間を快適に保とうとすれば、「風の塔」を採用することになるだろうと語る。

同氏は「エネルギー価格が高騰しどこに金を使うかの意思決定が難しくなる中、快適な環境を提供するためには、従来とは全く異なる発想が求められる。だからこそ、伝統的なテクノロジーを再び駆使して21世紀に持ち込むのだ」と胸を張った。

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