(CNN) 氷でできた弦楽器や打楽器から、済んだ音色が響く――。スウェーデン北部の北極圏に近い町、ルーレオでは冬の間、氷のオーケストラによるコンサートが開かれている。
楽器製作を一手に引き受けるのは、米ニューメキシコ州出身の石彫家、ティム・リンハートさん(53)だ。15年前からスウェーデンのほか、米コロラド州やイタリア・アルプスでも氷のコンサートを開いてきた。
バイオリンもビオラ、チェロ、コントラバスも、弦や金属部品などを除けばすべて氷でできている。今年はカントリー音楽のアクセントにバンジョーも加えた。
6弦と12弦のギターはロック音楽で活躍する。木琴に似た「氷琴」は、自転車のタイヤチューブを共鳴管に使った。巨大な球形の「バブル・ドラム」は「骨に響く音」を出すと、リンハートさんは語る。
自宅の庭の作業場で、わずか6週間のうちに楽器を完成させ、ルーレオ郊外の自然公園に設けた特設ホールへ運ぶ。
ホールも氷のドームで、定員は170人。今年は4月初めまでの間に、ここで40回ほどコンサートを開く。
リンハートさんは10年前、ルーレオで進んでいた「氷のホテル」の建設に協力するために米国からやって来た。ここで出会った女性と結婚し、そのまま町に住みついたという。
ルーレオでは現在、インターネットの交流サイト(SNS)大手フェイスブックが米国外で初となるデータセンターの建設を進めている。冷房のコストを節約できる気候が決め手となったようだ。
リンハートさんによれば、氷の楽器の特長はまず製作期間が短いこと。傷が付いたらストローでとかし、水を加えて再び凍らせれば元通りだ。
光を通す美しさも特長のひとつ。コンサートでは楽器の中に熱を出さないLED(発光ダイオード)電球を入れ、色を変えて光らせる演出も取り入れている。
氷の楽器は演奏者の体温でとけないよう、天井から吊り下げて弾く。演奏者や観客の息がかかるため、1曲ごとにすべての楽器を調律し直す必要がある。
ホール内も暖めるわけにはいかない。常に細やかに手入れし続けても、春が来ればとけてしまう。
それでも観客を引きつける最大の特長は、独特の音色だ。氷は通常の材料より硬くてすべての振動を拾うため、聞いたこともないような澄み切った音色が出るという。
リンハートさんの夢は、演奏者が中に入って内側から弾けるような、氷ならではの新たな楽器をつくること。そして、氷でできた超軽量の飛行機を開発することだ。
上空は気温が低いので、とける心配はないだろう。うまくいけば。
氷が生み出す「澄み切った」音色