ニューヨーク(CNNMoney) 次代のITベンチャーの旗手は「塀の中」から生まれるかもしれない。米カリフォルニア州にあるサンクエンティン州立刑務所では自動車強盗や殺人を犯して服役する長期受刑者らを対象に起業家養成プログラム「ラストマイル」が行われている。
同刑務所では、1週間に2度、受刑者が集まり、テクノロジーやイノベーション(技術革新)について学ぶ。ラストマイルに参加するためには、学科プログラムを受講した上で、厳しい選抜試験を勝ち抜かなければならない。チームで働く能力を示すことも求められる。
受刑者を指導するのは、クリス・レドリッツ氏とその妻であるべバリー・パレンティー氏。夫婦が共同でこのプログラムを立ち上げた背景には、財政を圧迫する膨大な刑務所運営費用の問題がある。
パレンティ氏は「カリフォルニア州では高等教育よりも多額のお金が刑務所に費やされている。受刑者1人あたりにかかる平均コストは年間4万5000ドル(約450万円)。従って、受刑者の多くがサンクエンティンの刑務所から出所する時点で収監だけで100万ドル近くを投資されたことになる」と話す。
受刑者は6カ月におよぶプログラムを通じてビジネスプランを練る。最後には、ベンチャー投資家や支援者に向けて売り込みを行う。過去に披露されたアイデアは、貧困家庭への食料供給から低所得者層向けの肥満対策にいたるまで、多岐にわたる。
「つながる」ためのテクノロジーも学ばなければならない。刑務所が位置するのは、フェイスブックやツイッターといったテクノロジー大手の本社から車で1時間足らずの場所。それにもかかわらず、多くの受刑者は、交流サイト(SNS)に接続した経験もない。
社会から隔絶された環境にある受刑者にとって、ソーシャルメディアが果たす役割は大きい。
現在は運用エンジニアとして働くケニヤッタ・リール氏も、同プログラムで成功しチャンスをつかんだ1人だ。
リール氏が20年近く前に収監された当時、最新鋭の機器といえば折り畳み式の携帯電話だった。同氏は「私達は単なる犯罪者ではない。本当はどういう存在なのか、ソーシャルメディアが声をあげる場を与えてくれた」と話す。
同プログラムを修了して出所した受刑者の6人のうち5人は、ITベンチャーでインターンまたは職員として働いている。6人目はウェブ・コンサルタント企業を立ち上げた。
ラストマイルのプログラムは、出所後の仕事に悩む多くの受刑者にとって、社会復帰の第一歩だ。その成功は大きな注目を集めており、すでにロサンゼルス郡刑務所でも同様の試みが行われている。レドリッツ氏によると、似たようなプログラムが各地で進行中だという。