世界的人気シェフ、アンソニー・ボーデインが見た東京

2013.11.08 Fri posted at 17:20 JST

(CNN) 私は東京が大好きだ。もし残りの人生、1都市の食事しか食べられないとしたら、迷わず東京を選ぶ。私の知るシェフ仲間の大半が、そう答えるだろう。変化し続け、好奇心をあおり、物事や香り、味、習慣が幾重にも折り重なって、永遠にすべてを理解することの出来ない予測不可能な場所、それが東京だ。もし残りの人生を東京で過ごしたとして、言葉を学びながら、わけも分からず、それでもハッピーに人生を終えることが出来るだろう。

人口過密で、奇想天外で、素晴らしく、恐ろしく、すべてが不可解なゾクゾクする場所。魅惑的で脅威的。混沌として、混乱していて、強烈で、そして何より、美しい。

CNNとの新番組で取り上げた他の場所同様に、撮影したのは東京だが、この番組は場所に関することではない。

この回で紹介するのは、大いに異なる2つの物語だ。

尊敬する「すしマスター」安田直道

安田直道は、すしに関する私のマスターであり、メンターであり、そして友人だ。過去20年にわたり、かの有名なニューヨークの店「Sushi Yasuda」を切り盛りし、米国において最初の、一番の、そして最も注目すべきすし職人となった人物だ。彼の店で出される多くの類まれな食を通して、私はすしに関するあらゆることを学んだ。どのように食べるのか。食材はどこからくるのか。魚とお米、どちらが重要なのか。新鮮なことは必ずしも良いことではないのか。そういったすべてだ。

彼はまた、クラシック映画のファンであり、知的で、ものに思いを巡らせ、かつ極真空手の熟練者であり、公式な試合もすれば、アンダーグラウンドな試合もおこなっているようだ。

彼の大きな拳と、長年ブロック塀に打ち付け巨大化した指関節、ゾッとするような前腕は、控えめに言っても、すし職人としては普通じゃない。

ほかの部分でも普通じゃない。彼は、保守的な人たちが掲げる「女性の手はすしを扱うには熱すぎる」などといわれた時代に、女性のすし職人を初めて採用したうちの1人だ。彼は、本場のすし職人として、西洋人のすし職人をバーカウンターに受け入れた初めての人物でもある。そして、私が知る限り、彼のすしに使う魚が冷凍物であることを、誇りを持って認めた初めてのすし職人である(すしネタの多くは実際、どこかの段階で一度冷凍されている)。彼は魚を、医療用冷凍庫の急速冷凍で「治療」し、一度寝かせることで、最高の状態にしている。事実、多くの魚は冷凍することでより美味になることを、彼は教えてくれた。

そんな中で一番型破りだったのは、姿を消したことだ。数年前のこと、常に満員で、おそらくニューヨークで最高峰に君臨していたすしバーにより業界でトップに立っていたが、彼は突如、50代にして、日本に戻り一からやり直すと言った。彼は一から、小さく質素で、謙虚なすしバーを東京に構え、ニューヨークで達成したことを、日本でも出来ることを証明するというのだ。

「Sushi Yasuda」はニューヨークで今も順調に営業を続けている。まだ彼の名前を使っているし、今も素晴らしいレストランだ。

しかし、安田は、その店とはもう関わっていないと言う。

彼は、魅力的な人物で、人を夢中にさせる物語を持った素晴らしいシェフだ。この番組では、彼のことをもう少し知り、その独特のスタイルはどこから来るのかを探る。空手とすし職人という全く異なるものの繋がりとは何か。その答えに、あなたは驚くかもしれない。

エキセントリックでクレイジー、そしてファンタジーな都市東京

日本や日本食、日本文化に魅了された多くの外国人同様、日本の持つセンセーショナルな世界観やポップカルチャー、フェティシズムな欲望に、私はいつも興奮し、ギョっとし、混乱する。漫画、おもちゃ、映画、広告やあらゆるエンターテイメントを覆い尽くすものの中には、ボンデージに身を包んだり、過剰な性的イメージで覆いつくされた女子学生、レイプ、同性愛、デーモンや触手による暴力的な描写や、さらにその先まである(総じて『ヘンタイ』と呼ばれる)。騒々しい新宿エリアは、エキセントリックなものから身の毛もよだつものまで、まさに銀河の先へと続く快楽が待っている。

これは一体どういうことなのか。単純に、日本人は、私たちよりクレイジーで風変わりなのか。旧約聖書に出てくる退廃的な都市ソドムとゴモラに几帳面さが加わったようなこの場所が、一体どうやって、変化に富んだ素晴らしく完璧な食文化を生み出しているのか。そして、それらすべての狂気の中で、おいしい思いをしているのは誰なのか。

日本人は、性に対してオープンで、中立で、比較的寛容な一面を持っているように思う。しかし一方で、仕事場や社会における女性の扱いは、まだまだ古くからの慣習を引きずっているようだ。厳格で伝統的な一面と、クレイジーでパーティー野郎な一面も持つ日本は、常に外界の人間を戸惑わせる。この地を訪れてもなお。

興味深いことに、最近の英紙ロンドン・オブザーバーの記事によると、日本の独身男性の61%と、独身女性の49%が、恋愛関係にある相手がいないのだという。そして、日本人女性の45%は、性行為に興味が無い、または避けると答えているのだという。

外界との接触を諦めアバターを通したバーチャル世界を生きる「ひきこもり」や、30代になっても両親との同居を続ける独身者の増加、またオタク文化の躍進などを見ても、若い世代はますます現実の恋愛関係から遠ざかり、独自のファンタジーな世界を生きているようだ。バーチャル・ガールフレンド、カスタムデザインのリアルな人形、寂しいときに抱きつく「抱き枕」など、そのすべてが、寂しさと欲望を満たす役割を担っている。

拒絶されることを恐れ、複雑な人間関係を避け、日本人の多くは、単純に戯れられ、確実に楽しめ、特別扱いを受けられる「ホステス・バー」と呼ばれる実際の性交渉がない場所に、大金をつぎ込むという。

つまり、この放送回のテーマはファンタジーであり、それ以外のすべてである。

この番組を見て気分を害するかもしれない人の気持ちを少しでも和らげ、気休めになることを願って言う。なぜなら、この回は大人向けで、攻撃的な要素が多く含まれているからだ。

この回は、手ごわいものになった。この番組によって、地球上でも極めて魅力的で、楽しい場所を訪れ、体験することをためらううことはしないでほしい。

この「東京」の回は、我々が制作してきた中で、一番素晴らしい作品のひとつであることは間違いない。「鉄男」や「東京フィスト」を手がけた塚本晋也監督に喚起され、我々制作クルーは、度肝を抜くような作品を完成させた。

もし編集無しの素材を見たら、あなたの脳みそは爆発するだろう。

記事における意見や見解は世界的シェフでベストセラー作家のアンソニー・ボーデイン氏個人のものです。

ボーデイン氏とCNNの新番組「アンソニー・ボーデイン世界紀行(Parts Unknwon)」。9日(土)午前0時放送回では、アンソニーお気に入りの場所、東京のダークな1面を見ていく

「東京」の放送時間:9日(土)午前0時、10日(日)午前5時、午前11時

※緊急ニュースなどにより、番組および番組内容は予告なく変更されることがあります。

アンソニー・ボーデインがすしを食す

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