靖国参拝――戦没者の追悼と近隣諸国からの非難と

2013.10.27 Sun posted at 18:09 JST

(CNN) 日本の政治家による靖国神社参拝が、今秋も中国や韓国から批判を浴びている。戦没者慰霊のために同神社を参拝することは、過去の「侵略戦争」を肯定することにつながるとの認識からだ。

先ごろ執り行われた靖国神社の秋季例大祭に合わせ、安倍晋三首相の実弟である岸信夫外務副大臣や超党派の国会議員150人以上が参拝した。安倍首相自身は参拝を見送り、神前への供え物を奉納した。

中国共産党機関紙、人民日報系の情報紙、環球時報はこれを批判する論説を掲載。中韓両国は理性、感性いずれの面でも靖国神社を受け入れることができないと、反感をあらわにした。日本との貿易がいかに拡大し、経済の相互依存関係がいかに深まろうと、政治家の集団参拝がすべてを打ち消してしまうと力説した。

一方、議員団は参拝が外国メディアに誤解されていると主張。靖国は日本人が平和を願う場であり、各国が戦没者をどのように追悼するかは固有の文化や伝統によって決めることだと述べた。

日本の首相ら政治指導者による靖国参拝はこれまでも、靖国を日本の軍国主義の象徴とみなす中国や南北朝鮮からの強い反発を招いてきた。A級戦犯14人が合祀(ごうし)された靖国に参拝することは、戦犯を崇拝し、日本軍によるアジアでの残虐行為を否定することにも等しいと非難される。

安倍首相

テンプル大学ジャパンキャンパス・アジア研究学科のジェフリー・キングストン教授は、靖国神社を「戦争を反省しない歴史観」の守り神が宿る「グラウンド・ゼロ」と呼び、「ただ戦没者に敬意を払うためにだけ靖国を訪れるというのは、正直な説明ではない」との見方を示す。

「保守派が参拝を支持するのは、それが日本の戦争犯罪は正当化できるという意見を象徴しているだからだ。反対に一部の新聞が参拝を批判するのは、まさに参拝の意図する政治的ダメージを懸念するからだ」と、同教授は語る。

朝日新聞は社説で、安倍首相に「多くの国民が心静かに思いを捧げることができ、外交的な摩擦を招くことがないような、新たな戦没者追悼のあり方」を検討すべきだと呼び掛け、首相らの靖国参拝に「賛成することはできない」と言明した。

20日に参拝した古屋圭司国家公安委員長兼拉致問題担当相は、「近隣諸国を刺激しようなどという意図は全くない」と語る一方、「国のために命をささげた英霊に哀悼の誠をささげ、平和への誓いを改めて表することは国会議員としての当然の責務だ」と述べた。

中国当局は、駐中国日本大使を呼んで抗議した。韓国外務省の報道官も「深い懸念と遺憾」を表明した。政治家の参拝とそれに対する外国からの抗議は、これまで何度も繰り返されている。

「中国や韓国の政府が抗議すれば、参拝した政治家に注目が集まるともいえる。そして政治家は有権者に、日本はいじめられている、内政干渉だと訴えることができる」と、キングストン教授は指摘。外国からの非難が政治家の追い風になるという、ある意味奇妙な現象がここに生じるという。

南山宗教文化研究所の奥山倫明所長によると、靖国神社は日本国民の約半数に支持されている。最近の東アジア情勢を反映したナショナリズムの高まりで支持者はさらに増えている可能性があり、その場合は靖国参拝が再選の助けになると考える政治家もいるだろうと、奥山所長は指摘する。

今月日本を訪れた米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官は、靖国神社ではなく、近くの千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れて献花した。同墓苑には、日本国外での無名戦没者の遺骨が埋葬されている。両長官の献花は、靖国参拝に代わる戦没者追悼の形を提案したと受け止められた。

「安倍首相はそのメッセージを受け取ったようだ」と、キングストン教授は語る。「首相は春、夏、秋とも靖国参拝を見送った。参拝すれば近隣諸国との関係だけでなく、最も重要な同盟国である米国との関係まで悪化させてしまうことが、首相にも分かっているのだろう」というのが、同教授の見解だ。

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