五輪金メダリスト松本薫、「柔道は日本人の心」

2013.10.03 Thu posted at 15:14 JST

(CNN) 「アサシン」「野獣」――これは2012年のロンドン五輪の柔道女子57キロ級で金メダルを獲得した日本の松本薫選手のニックネームだ。

だが松本選手が所属するフォーリーフジャパン柔道部の中橋治美監督に言わせれば、彼女は純粋な心を持つピーターパンのような人物だ。

ティンカー・ベルのような妖精が麦茶の入った容器から出てくるところを見たことがあると言い、ジャンクフードが大好物だという。そんな松本選手が一般的なアスリート像とかけ離れた人物なのは間違いない。そして彼女は、伝統的な柔道というスポーツにも新たな地平を切り拓こうとしている。

中橋監督は、過去のオリンピック柔道の金メダリストに松本選手のようなタイプはいなかったと語る。そして松本選手が壁を破ってくれたおかげで、柔道をやっている子どもたちも決まった型にはまる必要がなくなった――そう監督は考えているという。

松本選手は9月に26歳になったばかり。「野獣」と呼ばれるのはどう猛な試合スタイルだけでなく、本能的な試合運びのせいでもある。

日本には自分より柔道がうまい選手は山ほどいると松本選手は言う。だが「私は気持ちで戦う選手」で、気持ちだけは誰にも負けないと述べる。

試合中は本能の命じるままに動いていると松本選手は言う。雨が降ってくるとみんなが傘を差すように、状況に自然に反応しているだけなのだそうだ。

松本選手が柔道を始めたのは6歳のころ。礼に始まり礼に終わる柔道は「日本の伝統文化であるし、柔道は日本人の心そのものだと思う。日本人そのものを表しているのが柔道だと思う」と松本選手は語る。

柔道家なら誰もが目指すのが一本勝ちだ。「一本で完璧に勝てば、相手もこれだけきれいに投げられたのならと『負けた』と認めることができる」と松本選手は言う。それは自分と自分の弱さを認めることであり「美しいと思う」と彼女は語る。

松本選手自らが認める「弱点」の1つは食生活だ。最近では、相次ぐ故障を防止しようと有機野菜を努めて食べるなど、食生活の改善に取り組んでいるという。清涼飲料水やスナック菓子、チョコレートといったものに目がない松本選手だが、なるべく手をのばさないように努力しているという。

もっとも、故障が大切なものを教えてくれることもある。

2009年の世界選手権で指を骨折した時は、がむしゃらに攻めすぎて相手をきちんと見ていなかったことに気づかされた。松本選手は、かつての自分は闘志むき出しで冷静さに欠けていたと当時を振り返る。こうしてけがを通して学んだことが、翌年の優勝につながった。

松本選手は、2016年のリオデジャネイロ五輪で連覇を目指す。五輪での活躍は自分や柔道家を目指す子どもたちだけの夢ではない。

日本には夢のない子どもがたくさんいると松本選手は言う。自分も小学生のころには夢がなかったので、その不安は痛いほど分かると述べる。

だがオリンピックを通してスポーツを観戦することで、自分たちの夢を子どもたちと分かち合うことができる。そうすれば自分の夢を持てる子どもも増えるだろうと彼女は考える。

柔道一色の生活のなかで松本選手は、世界中のみんなが一度に微笑んだらどうなるだろうと考えていた時期があるという。

こんな夢を見る「野獣」には、世界中の誰もが笑いかけたくなるのではないだろうか。

柔道は「日本人の心」、金メダリスト松本薫

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