監視付き取材で垣間見た、北朝鮮の市民生活の実態

鮮戦争休戦60年記念行事で打ち上がった花火

2013.08.02 Fri posted at 15:33 JST

平壌(CNN) 愛国歌を流し続ける国営航空、歴代の指導者を礼賛する市民や子どもたち、炎天下の軍事パレードの後に疲れ切って倒れ込む人たち――。CNN取材陣はこのほど朝鮮戦争休戦60年記念行事に招かれて北朝鮮を訪れ、厳重な監視の下で垣間見た平壌の人々の姿を取材した。

取材は北朝鮮の国営航空、高麗航空への搭乗から始まった。機内では乗客が搭乗した瞬間から降りるまでの間、ずっと愛国歌が流れ続ける。大音響の音楽はイヤホンをしても遮断できず、トイレの中でさえ、流しの横のスピーカーから音楽を聞かされ続けた。

5日間にわたった平壌滞在中、行動の自由はほとんどなく、念入りに演出されたツアーに参加する以外は、一般市民の生活を取材する機会は与えられなかった。外国人ジャーナリストにとって、それは小さな鍵穴からのぞき見するようなもので、扉の向こう側の世界は想像するほかない。

朝鮮戦争休戦60年記念行事には、各国のテレビの取材班数十人が招かれた。北朝鮮はこの戦争について、「祖国解放戦争において米帝国主義に対する偉大な勝利」を収めたと形容する。記念式典では軍事パレードが果てしなく続き、金正恩(キムジョンウン)第1書記の人気が大々的にアピールされた。

その華やかな表舞台とは対照的に、国連食糧計画は先月、北朝鮮の乳幼児とその母親の急性栄養失調を防ぐため、240万人分の食糧援助を呼びかけている。これは北朝鮮の人口の約10%に当たる。北朝鮮の経済が破綻(はたん)しかけた1990年代には100万人が餓死したとみられている。

鍬、筆、槌が旅行者の目を引く

取材班は、政府のバスに乗って外出する以外は宿泊先のホテルを出ることを許されず、CNNの取材陣には常に専属の政府要員2人が付き添った。空港への往復を除き、取材バスで移動した範囲は5日間を通じて平壌中心部から約13キロ以内にとどまった。

市内は各所に金一族の記念碑が立ち並び、旧ソ連のような集合住宅、車両の往来がほとんどない小ぎれいな通り、手入れの行き届いた芝生の光景が続く。電力の供給は不足しているとみられ、夜になると市内は闇に包まれた。

写真や映像の自由な撮影は許されず、移動中のバスの窓から通行人を撮影することも禁じられた。

5日間の滞在中、取材陣は退役軍人墓地開園の式典やマスゲームといった行事に案内された。かつての指導者の名を付けた「金正日花」「金日成花」のフェスティバルでは、会場に花のパビリオンが建設され、花に彩られた2人の指導者の写真に加えてミサイルや戦車といった兵器の写真が飾られていた。

フェスティバルの公式ガイドを務めた21歳の女性は、「この花々を見ると、私たちの指導者への強い思慕を感じます」と語り、どちらの花の方が好きかと尋ねると、即座に「両方とも大好きです」と答えた。

金日成および金正日の遺体を保存している錦繡山太陽宮殿に頭を下げる学生ら

残念ながら、北朝鮮の人と率直な会話を交わす機会は一度もなかった。退役軍人やパレード見物人の取材では、米帝国主義を批判する言葉が返ってくるのみで、すぐに監視人が割って入った。

子どもたちからは、海で泳いだりローラーブレードをしたりするのが好きという声も聞かれた。しかし12歳の少年に好きなテレビ番組を尋ねたところ、答えは「漫画と金日成主席のドキュメンタリー番組」だった。

ただ、中には北朝鮮指導者以外の人物に関心のある人もいるようだ。21歳の監視人は、地ビールと冷たいそばの昼食をとりながら、自分は米俳優ブラッド・ピットのファンだと話してくれた。大学の英語の授業では、歴史映画「トロイ」「グラディエーター」「サウンド・オブ・ミュージック」などのほか、サスペンス映画「セブン」、コメディーの「ビッグ・ダディ」なども見たという。

この若者が最もうれしそうな様子を見せたのは、記者のスマートフォン「iPhone」を貸した時だった。使い方も知っていて、すぐにゲームに没頭した。ただ、記者が撮ったこの若者の写真を本人に電子メールで送ることはできなかった。北朝鮮では一部が携帯電話を持つことを許されているが、一般人がインターネットや電子メールを使ったり、国際電話をかけたりすることはできない。

記念行事に参加する人々

休戦記念の軍事パレードが行われた7月27日は非常に気温が高く、蒸し暑い日だった。制服姿の軍人たちは、照り付ける太陽の下で何時間も待機し、広場を見下ろす屋根付きの観覧席に金正恩氏が姿を見せると、兵士や市民が何時間にもわたって行進やパフォーマンスを披露した。

正午ごろにようやく金氏が立ち去ると、その瞬間、パレード参加者も観客も地面に倒れ込んだ。多くが熱中症や極度の疲労に見舞われているのは明らかだった。意識を失いかけた兵士や、あえぎながら座り込む年配の退役兵もいた。

CNNのカメラマンは、苦しそうな様子で横たわる民間人の女性に駆け寄って水を差し出した。女性は水を受け取り、友人2人に抱えられて立ち去った。一見したところ、パフォーマンスが行われた広場には水分が補給できる場所はなさそうだった。

その夜にも外国からの賓客を集めて式典が行われた。金正恩氏は集まった人たちを数時間待たせた後に登場。主賓である中国国家副主席の隣に座り、オープンしたばかりの戦争博物館の上空に上がる花火を鑑賞した。

観衆を見渡すと、ほぼすべての列の中に、疲れ切って居眠りをする人が少なくとも1人は見つかった。目の前で展開される戦勝記念の花火に関心はなさそうだった。

CNN記者が見た北朝鮮

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