マウス実験で「偽の記憶」形成に成功 日米研究

安全な青い箱に入ったあと、赤い箱の中で青い箱の記憶を光刺激で読み出して足に電気刺激を与える。青い箱に戻すと怖がる 提供=COLLECTIVE NEXT

2013.07.26 Fri posted at 14:44 JST

(CNN) 日本の理化学研究所と米マサチューセッツ工科大(MIT)などの研究チームが、マウスの脳細胞を操作することによって偽の記憶(過誤記憶)が形成されることを初めて実証したとして、米科学誌サイエンスの今週号に研究結果を発表した。人の記憶の仕組みを解明する手がかりになると同時に、記憶がいかに当てにならないかを示すものだと指摘している。

この研究は理研脳科学総合研究センターの利根川進センター長が、MITなどの研究者と共同で実施した。

研究チームはまず、個々の脳細胞を光で操る「オプトジェネティクス(光遺伝学)」という技術を使って、脳の海馬の中の特定の記憶が刻まれた細胞に光に反応するタンパク質を合成し、この細胞に青い光を当てると活性化される仕組みを作り出した。

この技術をマウスに応用。マウスを箱に入れて足に刺激を与え、刺激を与えられた記憶が刻まれた脳細胞を遺伝子的に操作して、光に反応するようにした。

その後、別の箱に入れられたマウスは怖がる様子を見せなかったが、遺伝子操作を加えた細胞に青い光を当てると、最初の箱での記憶がよみがえって怖がる反応を示した。

次は1歩進んで、実際には起きていないことを経験したと思い込ませる実験を実施。まずマウスを安全な環境の「A箱」に入れ、この箱の中の体験を記憶している脳細胞に手を加えて光で反応するようにした。

翌日、「B箱」に入れて足に軽い刺激を与えると同時に、前日の脳細胞に光を当ててA箱での記憶を活性化させ、A箱での記憶とB箱での刺激を結び付けた。

3日目にマウスをA箱に戻したところ、この箱では刺激を経験していないにもかかわらず、怖がる反応を見せた。やがて偽の記憶と関連付けられた細胞を人為的に活性化しなくても、怖がる様子を見せるようになったという。

偽の記憶がよみがえる脳の仕組みは、実際の記憶を司る仕組みと非常によく似ていると研究チームは指摘する。実際に経験していないことを現実のように思い込んでしまうことがあるのも、それで説明がつくといい、偽の記憶が作られるのは単なる混乱や想像ではなく、脳の働きによるものだと解説している。

この研究は、例えば統合失調症などで幻覚を見るような患者の治療法解明につながることが期待される。

また、記憶に基づく証言を犯罪捜査の証拠とすることには極めて慎重になるべきだと利根川氏は指摘している。

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