「アラブの春」は今 5つの兆候が示す中東の変化

中東や北アフリカで広がった民主化運動「アラブの春」の今は

2013.05.05 Sun posted at 18:00 JST

ヨルダン・アンマン(CNN) 先入観は忘れ、固定観念も消し去ろう。少なくとも今は。

過去数十年間、中東の様々な国を訪れ、大昔に時計の針が止まったかのような場面を数多く見てきた。だが、以下に挙げる5つの兆候が示すように、長い歴史を持つ中東は今、驚くような変化を遂げつつあるのだ。

1.政治や宗教よりもラテンダンス

政治や宗教の影響は今でも非常に大きい。また、ヨルダンは、アラブでは近代化の先頭に立っている。それでも、イデオロギーや宗派間の対立よりも、タンゴやサルサといったラテンダンスの方が多くの人にとり重要だという事実は驚きだろう。

ヨルダンの首都アンマンのナイトクラブは夜になると、流行のファッションで身を包んだアラブ人の若者であふれるが、政治への関心が低い者も多い。

大きな音楽の中で、若者たちが巧みに踊り、ほおにキスをするあいさつを交わしながら男女が陽気に交流するナイトクラブのシーンは、一見政治とは無縁だ。しかし実際は、近代的で世俗的、さらには非宗教的な中東が切望されているというサインなのだ。

2.ユーモアが政治の強力な武器に

民主化運動「アラブの春」以降、中東では、イスラム組織「ムスリム同胞団」が主要選挙のほとんどで勝利を収めており、リベラル派には、有効な選挙運動の展開さえも困難なようだ。

「イスラエルが全ての悪」という考え方も米国陰謀論も退潮しつつあるようだ

しかし、近代化推進派は新しい戦術を発見した。イスラム原理主義者に選挙で勝てないならば、彼らを笑い飛ばせばいいのだ。

特にエジプトなどでは、効果的に対抗しているようだ。風刺作家やコメディアンが、宗教的権威を擁護する神聖な雰囲気を否定し、インターネット上のツイッターや動画投稿サイト「ユーチューブ」なども駆使して非常に大きな支持を集めており、聖職者や権力者にとり大きな脅威となっている。

そのために中東各国で抑圧され、イスラム教や大統領などを侮辱した容疑で逮捕されることもあるが、逮捕によりさらに人気が高まるという皮肉な結果にもなっている。

3.米大統領の訪問にも高まらない関心

オバマ米大統領が3月にアンマンを訪問したが、大半の人はほとんど関心を示さなかった。オバマ大統領を乗せた車列が街中を走っても、抗議する人もいなかった。レストランから好奇のまなざしで大統領を眺める人はいても、街の活気のなさについて大統領を責めるものはいなかっただろう。米国はもはや、良い意味でも悪い意味でも、かつてのように畏怖の念を抱かれる存在ではなくなった。

中東における「米国の陰謀」論や、シリアへの不介入やイスラエル寄りの姿勢への批判も存在はするが、強烈だった米国への関心が過去のものとなったのは明らかだ。

4.「イスラエルが諸悪の根源」という主張は後退

イスラエルに対する強い敵意はまだ広く残るが、イスラエルが、中東の問題の全ての原因だとはもう考えられてはいない。

改革を求める声はやまない

イスラエルへの責任転嫁に熱心だった独裁者たちが打倒されてから時間もたち、(望まれてはいるが)パレスチナ国家の樹立や、イスラエルの排除が、中東地域の諸問題の改善や宗派間対立の解消につながるとの見方は非常に少ない。

イスラム原理主義政党が呼びかけたアンマンでの「反イスラエル百万人大行進」に集まったのは300人程度だった。

5.国王も民主主義を求めている

アラブの春は、人々が望んでいたような展開とはなっていないし、一部の国では変革に対する圧力も弱まっている。それでも、改革を求める声はやんではいない。

ヨルダンなどのアラブの王制国家では、国王の側からも民主主義や立憲君主制へ向かう動きが出ている。

中東諸国は全て同じではなく、抗議活動が日常化する中で今後の変化は見通しにくい。しかし、これまでの固定観念や先入観は間違っているといえる。アンマンのナイトクラブでサルサを踊る若者に聞いてみればすぐに分かることだ。

本記事は、米マイアミ・ヘラルド紙などの国際問題コラムニストで、CNNのプロデューサーと記者の経験もあるフリーダ・ギティス氏によるものです。

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