(CNN) ファーストクラスとビジネスクラスには料金に大きな差がある。
例えば、全日空(ANA)か日本航空(JAL)で東京発ロンドン行き直行便ファーストクラスのプライベート・スイートを利用すると、料金は2万7000ドル(約250万円)かかる。しかし、ANAのビジネスクラスなら料金は9000ドル(約85万円)ほどで済む。
また、プライベートにあまりこだわらないなら、イギリスの航空会社ヴァージン・アトランティック航空の直行便ビジネスクラスを利用する手もある。こちらは東京、ロンドン間がわずか4900ドル(約46万円)で、サービスも充実している。
直行便でなくてもいいから、どうしてもファーストクラスがいいという人は、中国南方航空ならわずか1万1465ドル(約107万円)でファーストクラスに乗れる。
果たしてファーストクラスには高額な料金を支払うだけのメリットはあるのだろうか。
目に見えない差
「開放的なスイート」のファーストクラスにしても、フルフラットシートのビジネスクラスにしても、直行便か乗継便かや、空と地上で受けられるサービスによって料金は大きく異なる。
人気のニューヨーク、フランクフルト間のルートがいい例だ。
フランクフルト発ニューヨーク行き直行便ファーストクラスの利用者は、機内だけでなく地上でも多くのサービスを受けられる。
ルフトハンザ航空は、フランクフルト国際空港にファーストクラスの乗客専用のラウンジを設置しているほか、深夜のフライトで、機内で食事を取らずに寝たいという乗客に、搭乗前にフルコースのディナーを提供している。
またファーストクラス専用ラウンジは、ベッド、シャワー、オフィススペースを備え、乗客は専用のセキュリティチェックを受けた後、運転手付きのリムジンで飛行機に向かう。
ただし、ルフトハンザ航空がこのサービスを提供しているのはフランクフルト空港のみで、他の都市では提供していない。
しかし飛行機に乗ってしまうと、ファーストクラスとビジネスクラスの違いを見出すのは難しいかもしれない。明確な違いと言えば、フルフラットシートのビジネスクラスに対し、ファーストクラスはスイートでスペースも広い。また食事の量は豊富で、アルコールも飲み放題だ。
ルフトハンザの北米地区販売担当マネジングディレクター、ドン・バッケンバーグ氏によると、ビジネスクラスにはないファーストクラスの価値は、広いスペースとプライバシー、より大きく、長く、幅の広いシート、そして乗客一人ひとりに追加の乗務員が付くことだという。
また、ファーストクラスの客室乗務員は特別な訓練を受けており、乗客ごとに異なる対応が可能なほか、ワインや食事に関する正確な知識を有しているという。
ファーストクラスはいずれなくなる?
航空旅客体験(APEX)の雑誌およびブログの編集長を務めるメアリー・カービー氏は、ファーストクラスのバリュー・プロポジション(価値提案)は低下しており、ファーストクラスは5年以内に消滅すると考えている。
カービー氏によると、最近、ビジネスクラスにフルフラットシートを導入する動きが広がり、ビジネスクラスでもファーストクラスと同様の快適さを味わえることから、相対的にファーストクラスの価値が低下しているという。
これに対し、ルフトハンザのバッケンバーグ氏は、今でもプライバシーが確保されたスイートを希望する顧客層は存在すると主張する。
バッケンバーグ氏によると、企業幹部や投資家、ハリウッドスターなどは、料金が高くても、機内と空港で充実したサービスを受けられるファーストクラスを選ぶという。
バッケンバーグ氏は、「ルフトハンザはファーストクラスの維持に多額の資金を投じてきた。多くの航空会社が、採算が取れないという理由でファーストクラスを廃止しているためだ」と述べ、「たとえ料金が高くてもファーストクラスに乗りたいという客は存在する。まだ需要はある。ただ、どこにでもあるわけではない」と付け加えた。
あいまいになりつつあるファーストクラスとビジネスクラスの境界線
英国の航空会社ヴァージン・アトランティック航空は、創業以来ファーストクラスを提供していない。
しかし、「アッパークラス」と呼ばれる同社のビジネスクラスは、ビジネスクラスの料金でファーストクラス並みのサービスが受けられる、と同社の広報担当アンナ・キャッチポール氏は語る。
キャッチポール氏は「アッパークラスのスイートは、最も快適なベッドと最も快適なシートの両方の役割を果たす設計になっている」と述べ、さらに次のように続けた。
「ヴァージン・アトランティックのシートは、シートを伸ばしてベッドにするのではなく、ゆっくりとくつろげる革張りの高級アームチェアが、ボタン操作1つで水平なフルフラットベッドになる」
またアッパークラスは、ボーイング747の初期のサービスを思わせるバー・エリアも備える。これらすべての設備やサービスが、他の航空会社のファーストクラスよりもはるかに安い価格で利用できるのだ。
また一部の空港にはアッパークラスの乗客専用のサービスや設備がある。例えば、ロンドンのヒースロー空港では、リムジンや、アッパークラス専用ラウンジ「クラブハウス」から歩いてすぐの所にある専用のセキュリティ設備が利用可能だ。
ファーストクラスに高い料金を払うだけの価値があるのか。この究極の問いに対し、市場は、他の高級品やプレミアムサービスに対してと同様の反応を示しているようだ。すなわち、高い料金を支払えるだけの経済的余裕があり、なおかつその製品やサービスが「唯一無二」と認識されているのであれば、価値があるということだ。
しかし、旅行費用が切り詰められる中でビジネスクラスの快適さが向上し、さらに最近はプライベートジェットや社用ジェットも手頃な料金で利用できるようになっていることから、今後は高級志向の旅行者の間でも、「究極の喜び」より「ビジネス」を重視する傾向が高まりそうだ。