郵便物をデジタル化する新ビジネス、成功なるか 米

郵便物はアプリで確認

2013.03.16 Sat posted at 09:00 JST

サンフランシスコ(CNN) 車体の側面に大きなプラスチック製の赤い旗を装着した白のプリウスのドライバーが、起伏の多い米サンフランシスコの街を走りながら民家の郵便箱から郵便物を回収していく。

このドライバーは決して泥棒ではない。彼は、郵便物のデジタル化を手掛ける新興企業「アウトボックス」の社員だ。

「アンポストマン(郵便回収員)」と呼ばれるこのドライバーは週3回、顧客の家を訪問し、米郵政公社(USPS)の配達員が配達した手紙、請求書、雑誌、広告などを郵便箱から回収し、アウトボックスの倉庫に持ち帰る。そこで郵便物の開封、写真撮影を行い、そのデジタルファイルをアウトボックスのウェブサイトや、iPad、iPhone用アプリケーションを通じて顧客に「電子的に」送信する。

月額4.99ドル(約470円)で、郵便箱にたまった厄介な郵便物を誰かが消し去ってくれるというサービスだ。アウトボックスの顧客は、携帯端末やコンピュータを使って、ファイル内の郵便物を整理したり、それらを電子メールとして転送したりすることも可能だ。またダイレクトメールの送付中止の依頼や不要な郵便物の廃棄、さらに結婚式の招待状や絵葉書などの重要な郵便物の再配達を頼むこともできる。

アウトボックスはすでにテキサス州オースティンに600人以上の顧客を抱えて、間もなくサンフランシスコにも進出する。

効率面を考えれば、一度配達された郵便物を郵便箱から回収するより、郵便配達プロセスのより早い段階で回収するのがベターだろうが、現状ではそれは不可能だ。郵政公社はアウトボックスとの連携を拒否しており、アウトボックスの社員が地元の郵便局から直接郵便物を回収することを認めていない。

アウトボックスのサービスは合法か

顧客宅から手紙や請求書などを郵便箱から回収し、アウトボックスの倉庫に持ち帰る

アウトボックスに非協力的な郵政公社だが、アウトボックスの共同創設者ウィル・デービス氏は郵政公社に大きな敬意を抱いており、同公社との連携にも前向きだ。

しかし残念ながら、デービス氏の思いは郵政公社には届いていないようだ。

郵政公社は声明で、「郵政公社は米国民への奉仕を使命とし、国民に必要不可欠なサービスの提供に注力しているが、アウトボックスがその使命を支援しているとは思えない」と述べ、さらに次のように続けた。

「郵政公社は、(受取人が許可している場合でも)郵便物の破棄に関して懸念を抱いており、郵政公社のブランド、また郵便物の価値や安全を守るために今後も市場活動の監視を続ける」

アウトボックスはこれまで、郵政公社の監視の目をかいくぐりながら事業を行ってきた。しかし、郵便物に手を付けたり、手を加えることは犯罪行為だ。また、たとえ受取人の許可があっても、第三者が郵便箱から郵便物を持ち去ることの合法性にも疑問が残る。

この点についてデービス氏は、一度配達された郵便物は何ら規制のない単なる紙切れと同じで、アウトボックスの社員が顧客の許可を得て郵便箱から郵便物を持ち去る行為は、旅行中に隣人に郵便物を郵便箱から取って保管しておいてもらうのと何ら変わらないと主張する。

一方、米郵便局調査部は、アウトボックスの業務の適法性についてコメントを避けた。

回収した郵便物を開封して写真撮影を行い、デジタルファイルとして顧客に電子送信する

また財務情報や個人情報が書かれた郵便物を扱う企業にとっては、セキュリティーやプライバシーも懸念事項だ。この点、アウトボックスは社員を採用する際、郵政公社よりも厳格な身元調査を行っていると主張する。また、デジタル化された郵便物が所定の受取人以外の者の手に渡らないよう512ビット暗号やデバイス認識を導入している。さらに不要な郵便物はシュレッダーにかけてリサイクルしている。

郵政公社は追いつけるか

一方、郵政公社は新たな技術の導入や適用が遅れている。その理由の1つとして、2006年に郵政公社の新規ビジネスへの参入禁止が立法化されるなど、郵政公社の事業に多くの制約があることが挙げられる。

また郵政公社は深刻な財政問題を抱えており、2012年には159億ドルの赤字を計上した。また2月には、この夏、土曜日の郵便配達を中止することにより20億ドルのコスト削減を図る計画を発表した。

郵政公社はまた、技術の進歩が長きにわたり自分たちの本業を徐々に侵食していく様子を目の当たりにしてきた。郵政公社の郵便物の取扱量は、2002年の2028億通から2012年には1599億通に減少した。各種料金の支払い、取引明細、宣伝広告がオンラインに移行しているのに伴い、郵便の取扱量が減っている。電子商取引の人気上昇により、商品の配送や荷物の取扱量が増えている点が唯一の明るい材料といえる。

郵便事業で利益を出す

郵政公社が従来の郵便事業で利益を上げていないからと言って、郵便事業が成り立たないわけではない。アウトボックスは月額4.99ドルの料金に加え、いずれ独自のアプリケーションを通じて広告配信を行う計画だ。この広告はバナー広告ではなく、電子化した郵便物のような形で配信される。

「アウトボックス」の車

またアウトボックスは、サービスの提供を通じて顧客がどのようなカタログ、チラシ、ブランドを好み、あるいは不要と判断するかを把握できるため、特定の統計データを必要とする企業に有料で情報を提供することも可能だ。

すでにチラシによる宣伝を行っている多くの企業が、チラシに代わる宣伝手段としてオンライン広告を試している。アウトボックスが十分な数の顧客を確保し、同社の広告に効果が出てくれば、ダイレクトメールやチラシに代わる新たな広告手段となりうる。

アウトボックスのデービス氏は、特定の地域に同社のサービスが浸透すれば、アマゾンのような電子商取引企業の即日配送サービスを請け負う上で非常に有利な立場に立つと考えている。また、いずれは段階的な料金体系の勤務先アドレス向けサービスや、個々の郵便物を別の住所に転送するサービスも提供していくという。

しかし、今はサービスやロジスティクスの質の向上に注力している。アウトボックスにはベンチャーキャピタリストのピーター・ティール氏のような大物の支援者が付いており、4月には「大規模な」2度目の資金調達を予定している。サンフランシスコを制覇した後は、ニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロサンゼルス、ワシントンにも進出する計画だ。

デービス氏は今のところライバル企業の心配はしていない。「我々と同じことをする変わり者はいないでしょう」と語った。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。