(CNN) 2012年の中国の映画興行成績で首位に立ったのは、中国制作のドタバタコメディー「Lost in Thailand(原題)」だった。しかし、上位10本をみると、大半をハリウッド映画が占めており、外国映画に対する検閲の緩和や、最新ヒット作への関心の高まりなどで外国映画の中国での存在感ははさらに大きくなりそうだ。
中国の12年の映画興行収入は30%増の170億人民元(約2550億円)となり、世界2位を記録している。
何が中国の観客の心を動かすのだろうか。CNNのクリスティー・ルー・スタウト特派員が浙江省東陽市にある横店撮影所を訪ね、DMGエンターテイメント・グループの最高経営責任者(CEO)ダン・ミンツ氏と、人気映画監督の金依萌(エヴァ・ジン)氏、陸川(ルー・チュアン)氏に話を聞いた。
3人は、成功へのシナリオは米国の場合と似ているように見えると口をそろえた。当局の発表では、米国映画が12年の興行収入トップ10のうち7つを占め、300本以上上映された映画のごく一部でしかない外国映画が、チケット売り上げの半分以上(52.4%)を占めている。
中国の女性映画監督として初めて興行収入1億元(約150億円)を突破した金氏によると、中国で映画の観客が求めているのは現実逃避だという。
金氏は、それまでは低予算・低人気だった恋愛コメディーの常識を破り、国際的スターの中国人女優、章子怡(チャン・ツィイー)が主演する「ソフィーの復讐(ふくしゅう)」を2009年に大ヒットさせた。
最近でも、生活苦の中で娯楽を求める人々の間ではドタバタ喜劇などが大人気だ。
それでも、米俳優ブルース・ウィリス主演のSF映画「ルーパー」は、トップ10入りはしなかったものの大ヒットとなった。作品の中には上海の景色などが取り入れている。DMGのミンツ氏は「中国本土の未来について触れるような作品はこれまでなかった。このことがルーパーをとても特別な作品にしたのだと思う」と指摘する。
ミンツ氏らによると、中国のスクリーンの数は1万2000を超え、さらに毎日8~10の割合で増え続けているという。気軽に通え、そして何よりも若者たちに毎週のように映画を見る習慣が広まっていることが観客増の要因となっている。
金監督は「若者の中には毎週映画に行く人たちもおり、作品が気に入れば3回鑑賞する場合もある」と若者の映画熱を説明する。
ただし、中国における映画ブームにも、政府の検閲をはじめとする障害は存在する。
陸氏は、検閲は不透明で時間がかかると指摘する。陸氏が手がけた「南京(なんきん)!南京!」は議論の多い南京事件を描き大きな評判を呼んだが、この映画の製作時は、検閲通過のために、脚本だけで1年近く、映画でさらに半年を要したと明かす。
DMGのミンツ氏は、表面的には網羅的な検閲規則だが、実際には映画ごとの解釈に依存し、決定が覆されることもあると指摘する。検閲は少しずつだが緩められており、前例の積み重ねでさらなる緩和を勝ち取ることも可能だろうという。
中国の映画館の外国映画上映数は年間20本と決められているが、昨年は3D版とIMAX版に限り14本追加できることになった。また、外国映画会社の収入の取り分も25%に引き上げられた。
映画市場の開放は、中国映画の海外マーケットへの進出にとっても重要だと映画関係者は指摘する。
これはまた、中国・米国双方の映画産業も望んでいることだ。中国共産党の習近平(シーチンピン)総書記は昨年の米国訪問時にハリウッドに立ち寄っている。米ドリームワークスと中国のメディア企業は、上海に合弁でアニメーション・スタジオの建設を計画している。
金監督は「今が間違いなく中国の映画関係者にとっては最高の時だ。多くの投資家が投資機会を狙っており、私たちにも非常に多くのチャンスがある」と語った。
発展する中国映画産業