検閲や暗黙のルール、独自のスピード感――中国の映画製作現場を訪ねて

中国の映画製作の現場には独自のスピード感があるという

2013.03.18 Mon posted at 18:00 JST

中国浙江省横店(CNN) 中国の映画製作現場は、ハリウッドよりはるかにめまぐるしく、乱雑な印象だ。当局の検閲をかわしながらその現場で活躍する監督ら3人に、CNNがインタビューした。

世界最大規模の野外撮影所として知られる浙江省の「横店影視城」。実物大の紫禁城のセットが目を引く。張芸謀(チャン・イーモウ)監督の「HERO」(2003年)をはじめ、数々の映画やテレビドラマの撮影に使われてきた。インタビュー収録の準備が始まると、機材係のスタッフがケーブルを放り投げ、メーク係が汚れたブラシで顔をはたきに来た。

新進女性監督、金依萌(エヴァ・ジン)氏の言葉を借りれば、ここではすべてが「中国スピード」で進んでいる。同氏は09年、人気女優・章子怡(チャン・ツーイー)が主演した「ソフィーの復讐(ふくしゅう)」で、中国の女性監督として初めて興行収入1億元(現在のレートで約15億円)を突破した。

「ハリウッドはとてもゆっくりしていて、構想期間が平均4年にも及ぶ。ところが中国では良い脚本を手にしたら翌日には費用が調達できて、数日後にセットが出来上がっている」と話す。ロマンチック・コメディーで知られる監督だけに、当局の検閲も難なく通り抜けてきた。

一方、体制に立ち向かう姿勢を貫く陸川(ルー・チュアン)監督にとって、検閲は頭の痛い問題だ。

世界最大規模の野外撮影所として知られる「横店影視城」で話を聞いた

日中戦争の時代を描いたヒット作「南京(なんきん)!南京!」(09年)は、日本軍兵士への同情的な視点がみられるとして注意を受けた。

そもそもこの作品が事前の検閲にかからなかったのはなぜだろう。「それは分からない」と、陸氏は話す。「脚本のチェックを受けるのにほぼ1年、作品を仕上げた後でビデオを提出してから半年もかかるのが普通。特定の人物のせいではなく、そういうシステムなのだ」という。

中国の映画会社、DMGエンターテイメントの最高経営責任者(CEO)で、ハリウッド映画の配給を手掛けてきたダン・ミンツ氏によれば、検閲ルールの運用にはあいまいな部分もある。「中国で上映されている作品を見ると、必ずしもルールに従っていないことが分かるはずだ」と、同氏は指摘する。

中国当局は国内での上映を禁止する映画の内容として「社会秩序を乱す」「社会道徳を脅かす」「カルトや迷信を広める」などの例を挙げている。

それなら、たとえば昨年の米SF映画「ルーパー」はどうだろう。タイムトラベルというテーマは「カルトや迷信」に相当するとの解釈も十分あり得る。だが実際には、この作品の一部は中国で撮影され、公開後も中国で大ヒットを記録した。

天安門の爆破シーンはタブー?

「出演者にも撮影所にもルールはある。ただ着実に物事を進めるだけだ。本当に価値のある作品なら必ず世に出るだろう」というのが、ミンツ氏の持論だ。

これに対して陸氏は、製作者が推測で動く現状は変えるべきだと主張。検閲システムの透明化を呼び掛けている。自分自身の作品のためだけでなく、観客もそれを望んでいるはずだと力説する。

「米国の映画では、ホワイトハウス爆破の場面を見せることもできる。だが中国の映画で天安門広場を爆破することは許されない」――これは決定的な違いだと、同氏は指摘する。「だが観客は映像からより大きな興奮を得ることを望んでいる。当局もそれを考慮するはずだ」という。

陸氏が思い描くのは、米SF映画「インデペンデンス・デイ」(96年)の中国版を製作できるような自由だ。ホワイトハウスがUFOに破壊される場面が大きな見せ場となった同作品。中国でも政治的圧力を心配することなく、どんな爆破シーンも撮影できる日が、近くやって来るのだろうか。

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