フィリピン・ルソン島(CNN) 南シナ海の領有権をめぐって中国とフィリピンの対立が激化するなか、漁場から締め出された地元の漁師やその家族が生活の危機に直面している。
フィリピン・ルソン島西岸の漁村、マシンロック。ここの住民は長年、約200キロ西方にある南シナ海のスカボロー礁(フィリピン名・パナタグ礁、中国名・黄岩島)で漁をして生計を立ててきた。エフレン・フォロネスさん(52)もその1人。妻との間に6人の子どもがいて、一番下はまだ4歳だ。
つい1年前まで、一度漁に出れば3トン半の魚が取れ、毎月15~20キロの米が買えた。子どもたちのうち少なくとも1人は大学に行かせてやれるはずだった。だが最近の漁獲は多くて400キロ。これでは月に1~2キロの米を買うのがやっとで、子どもの教育など論外だ。
スカボロー礁で漁ができなくなったのは、昨年4月に中国との対立が激化してからだ。フィリピン海軍が中国漁船の立ち入り検査を実施したのに対して、中国側も監視船を送り込み、フィリピンの漁船を締め出した。フィリピン政府は国際司法機関による仲裁を模索したいが、中国はこれを拒否し、現在も監視活動を続けている。
「スカボロー礁の領有権は当然こちらにあるのに、中国が取り上げようとしている。政府が何とかするべきだ。政府だけで対応できなければ、米国の助けを求めるべきだ」と、フォロネスさんは主張する。
今のところ、一家はこの土地にとどまるしかない。ほかに行くあてがないからだ。妻と2人で海に潜って貝を取れば1日5ドルほどの収入になり、家族が食べていくことだけはできそうだという。
マシンロックから南へ約88キロ離れたスービックでも、漁師らが同様の危機に直面している。1991年まで米海軍の基地があった街だ。スカボロー礁に漁船が近づけなくなってから、郊外の魚市場では取引が半減した。
マシンロックやスービックを離れ、別の仕事を始める人もいる。フォロネスさんのいとこ(58)は30年続けた漁師を辞めて、バイクタクシーの運転手になった。1日の収入は多い時で2ドル前後。漁師時代は貯金もできていたが、今は毎日の生活がやっとだ。
たまに海へ出ることもあるが、妻は「撃たれたらどうするの」と心配する。スカボロー礁数カ月前までフィリピンと中国の漁師が共存していた。「それがどうして今は追い出されるのか、私には分からない。米軍が中国を追い払ってくれるなら、復活を支持したい」と、妻は話す。
国際司法機関での審理も含め、領有権問題の解決には長い年月がかかりそうだ。その間には多くの漁師たちが長年営んできた生活をあきらめ、ゼロからのスタートを強いられることになるだろう。