相次ぐ火災で浮き彫り、クルーズ業界の現実とは

アラバマ州モービルの港に入港した「トライアンフ」=2月14日

2013.02.18 Mon posted at 17:06 JST

(CNN) メキシコ湾を航行中に火災を起こしたクルーズ船「カーニバル・トライアンフ」が、足かけ5日間にわたる漂流の末、ようやく米アラバマ州の港に入港した。ここ数年で相次ぐクルーズ船火災は、各国の規制の手が届かず、停電が起きれば乗客が厳しい環境に置かれる現実を見せつけている。

トライアンフは乗客乗員4200人を乗せて米テキサス州からメキシコに向かっていたが、10日にエンジンルームで火災が発生して航行不能になった。

米沿岸警備隊や曳航船の助けで14日夜、アラバマ州モービルの港に入港し、15日までにすべての乗客が下船。この間、船内の停電でトイレも使えなくなって床や廊下は汚物にまみれ、乗客は「海に浮かぶトイレ」(乗客)状態の中での生活を強いられた。

クルーズ船のエンジン火災はここ数年、後を絶たない状況だ。

2011年だけでもインド洋やフィリピン沿岸、メキシコ沖の太平洋を航行していた客船が火災を起こして漂流。同年9月にノルウェー沖を航行中の客船で起きたエンジンルーム火災では乗員2人が死亡、乗客207人全員が脱出を強いられた。

唯一の生きているコンセントをみんなで利用

エンジン火災が起きれば多くの場合、トライアンフのように船内が完全に停電するほか、食事や水が不足し、空調も冷蔵庫もストップする。エンジンが停止すれば船体の安定が保てなくなり、海が荒れれば大揺れして負傷者が出る恐れもある。曳航に何日もかかればこうした状況は悪化の一途をたどる。

現代のクルーズ船は、10~15階建ての構造を持ち、3000~4000人の乗客を乗せて大量の電力を消費する。

主電源を失った場合、補助電源があったとしても、供給できる量は必要量のごく一部のみ。トライアンフにも米沿岸警備隊が発電機を届けたが、ほとんど焼け石に水状態だった。

クルーズ業界は旅行代金が手頃になって一般の旅行者にも手が届きやすくなり、新規参入が相次いでいるという事情もある。2010年末時点の客室数は業界全体で21万5000室。そのほぼ半数をカーニバル社の系列が占める。

業界団体によれば、02年から11年にかけて乗船した乗員乗客延べ2億2300万人のうち、海上での死者は28人にとどまり、安全性は極めて高いという。

デッキに並んだ間に合わせのベッド

ただ、12年にイタリア沿岸で起きたコスタ・コンコルディアの座礁事故では32人が死亡した。

国際海事機関(IMO)は10年以降、全長120メートル以上の船舶を対象に新規制を導入した。しかしIMOの規制は大半が指針や提言にすぎず、取り締まりは各国の当局が担う。

だが、米テキサス州やマイアミなどを出港する客船は乗客のほとんどを米国人が占めるにもかかわらず、船籍が米国にあることはまれだ。例えばカーニバル社の客船は、多くがバミューダやバハマの船籍をもつ。

こうした実態に対して米国では、クルーズ会社が税逃れの目的で海外の船籍を利用しているとの批判もある。また、海外の船籍を使うことで米国の厳しい規制に従わずに済み、資格の不十分な乗員を海外で雇用できるという事情もありそうだ。しかし、運営会社側は、世界規模で運航を行っているからだとして、そうした慣行について弁明している。

トライアンフの事故原因などについての調査は、バハマの当局主導で行われる。

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