再登板の安倍首相、日本と自身の復活に取り組む

安倍晋三氏

2013.01.31 Thu posted at 09:41 JST

東京(CNN) 今月、初の外遊先としてベトナム、タイ、インドネシアを選んだ安倍首相の歴訪は、東南アジア諸国連合(ASEAN)が日本のアジア外交の基盤であることを強調するものとなった。

首相は歴訪中、公海は公有財産であるとしてASEANと協調して守ることや、国際社会における中国の責任ある行動の必要性などを訴えた。

尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権を巡り中国との緊張が高まる中、今回の歴訪は日本の立場を強化する目論みがあったようにみえる。

2007年に首相として東南アジアを訪問したとき、安倍政権は各国の協力関係強化をうたった「自由と繁栄の弧」構想を掲げていた。中国を抑えようとしたその構想は当時受けが悪かったが、いまや中国の軍事力は同地域の共通の脅威となっている。

中国は、周辺国との領土問題に対する強硬姿勢により、地域の緊張を高め外交的に孤立している。一方、日本は中国とは異なり、地域の安定への脅威とは見なされていない。ASEAN諸国は日本の第2次世界大戦時の歴史問題に関する安倍首相の見直しの姿勢には警戒感を持っているが、平和や経済発展に対する日本の貢献は評価している。

本記事はテンプル大学のアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・キングストン教授によるものです。記事における意見や見解はすべてキングストン氏個人のものです。

中国海軍が保有する潜水艦。周辺海域における領有権問題で各国との緊張が高まっている

安倍首相は日本経済の再生、今夏の参議院議員選挙での勝利、軍備の制約となっている憲法の改正実現などを目指している。6年前の第1次政権では政局の行き詰まりや経済対策に対する失望が広がった経験を踏まえ、今回は日本の復活に向けてしっかりとした取り組みをみせている。日本銀行に対しては2%のインフレ目標設定を要求し、国の支出で10兆3000億円規模の緊急経済対策も発表した。外交では、外相らによる東南アジアや豪州の歴訪や、韓国の朴新政権に向けた特使の派遣を行った。

このような相次ぐ外交攻勢は経済と安全保障上の懸念から行われている。日本企業は東南アジアの成長を見込んで多額の投資を行ってきた。安倍首相はパートナーの国々に対して、日本は引き続き世界の主要なプレーヤーであると安心させようと模索している。09年に政権を獲得した民主党の鳩山首相は、中国に対し融和的な姿勢で臨んだが戦略的には失敗だった。

尖閣諸島を巡る緊張は、安全保障上の懸念を高めるだけではなく、中国の急成長に大きな役割を果たしてきた両国の経済関係も冷え込ませた。

東シナ海の尖閣諸島での中国による海と空からの活動は、日中間の安全保障上の懸念を増大させ、経済的な関係も破壊してきた。日本企業はこれまで中国の経済成長に大きな役割を果たし、今後もそれは予想される。だが現在の両国関係を見ると、それは以前よりも小さなスケールになるだろう。この点、ASEANは域内総生産で中国の3分の1以下だが、資源は豊富で成長余力も大きく、日本にとっては中国における政治リスクに対する保険となり得る。

本記事はテンプル大学のアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・キングストン教授によるものです。記事における意見や見解はすべてキングストン氏個人のものです。

安倍首相

オバマ米大統領も経済成長見込みと安全保障上のリスクがともに最も大きいアジアに、軍事力の再配備を含む戦略的な軸足を移している。中国と協調に向けた対話を行う一方で、同国の封じ込めや孤立化も狙っているようにみえる。

安倍政権もまた、防衛費増額、沖縄の防衛力強化、海上保安庁の能力強化や再編などを打ち出し、米軍との協力関係強化のため「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)の見直しも目指している。

夏の参議院選で勝利し、与党が衆参両院の多数を占める状況になれば、日本の軍備を制約している憲法の改正も実現する可能性も生まれる。国内や周辺諸国では論議を呼ぶだろうが、米政府は日本による防衛分担拡大の観点から歓迎するだろう。

強大化しても脅威とはならないとしていた中国の「ほほ笑み外交」は崩壊し孤立しているが、安倍政権による右寄りの政策転換も対外関係悪化や緊張の高まりに終わる可能性もある。

現状の対決姿勢や威嚇(いかく)ではなく、冷静な外交を行うために冷却期間を置くことが、尖閣諸島を巡る重大な対応の誤りを避けるためには良いのだろう。アジア地域で第2次世界大戦後に日本が成功と尊敬を勝ち得たのは、軍事力による問題解決を放棄したことが大きい。

本記事はテンプル大学のアジア研究学科ディレクター、ジェフリー・キングストン教授によるものです。記事における意見や見解はすべてキングストン氏個人のものです。

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