悪名高い「労働教養制度」、改革は本当に進むのか 中国

習近平(シーチンピン)総書記は改革の「深化」を唱えるが

2013.01.28 Mon posted at 18:10 JST

(CNN) 強大な権限を持ち警察・司法機関を総括する中国共産党中央政法委員会トップの孟建柱書記が今年に入り、悪名高い「労働教養制度」の2013年末までの廃止を表明したと報じられた。同制度の下では、刑事罰には相当しないとされる約16万人が、裁判を経ずに最長で4年間拘禁されている。

しかし、廃止が表明された会議の出席者の話としてメディアがこの報道を確認した後、この決定を伝えた元の記事はインターネットから消えてしまった。

その後の中国国営新華社通信による報道はトーンダウンし、孟書記の発表が「労働教養制度の改革を進める」というものだったと伝えた。この制度改革については、以前から表明されてはいるものの、いまだに実現してはいない。

今回の件は、中国の人権状況を巡る以下の3つの現実を際立させるものだった。

1つ目は、ニュースが、特に政府の重要な決定が絡む場合には、最初に目にしたものとは異なることが往々にしてあるということ。2つ目は、新指導部は、人民からの改革の要求への対処に苦慮しているということ。3つ目が、労働教養制度の改革も結局、表面的なものに終わり、人権侵害を生んでいる制度に変化はない可能性があるということだ。

政治改革を求める声が高まり、共産党政府の正当性が揺らぐ中で新指導部が就任したため、習近平(シーチンピン)総書記は繰り返し「改革の深化」を宣言している。同時に、地方政府の役人が、一般大衆の正義を求める声や政府批判を封じるために労働教養制度を濫用(らんよう)しているとの不満も高まっている。

同制度の下で権力を振るってきた公安部の政治的影響力は新指導部の下では低下しているように見えるが、習総書記が制度改革に踏み切るのかは不透明だ。

2012年8月には、4つの都市における試験的な労働教養制度改革が発表された。しかし、制度名が「教育と矯正」に変えられたのと、警察による同制度適用に多少の制約が加えられたことが分かっているだけで、結局、現行制度の微修正に終わる可能性もある。

最近の中国内外における労働教養制度を巡る議論は、2003年の「収容遣送制度」を巡る議論の繰り返しのようだ。

同制度は、中国の戸籍制度「戸口」により公式に認められた居住地以外に住む人々を行政組織が拘禁するものだったが、制度の濫用が頻発し信頼を失った結果、廃止された。

収容遣送制度の廃止は、胡錦濤(フーチンタオ)国家主席と温家宝(ウェンチアパオ)首相が率いる当時の新指導部が決定したため、改革へ向かうサインとも受け取られた。しかし、他の地域からの移住者は解放されたものの、恣意的な拘禁制度が全面的には廃止されなかったため同制度廃止の影響は限定的であった。

例えば、地方政府の役人の不正を上級組織に訴えようとする請願者たちは、地方政府が違法に設置した「黒監獄」に収容遣送所に代わって収容されるようになった。中央政府も、黒監獄の存在を黙認しており、恣意的拘禁を全廃する気はない模様だ。

しかし、真の改革のため新指導部には、労働教養制度の廃止と、中華人民共和国憲法や国際社会での人権擁護義務にも合致する軽犯罪処罰の新制度制定が求められ、今年3月の全国人民代表大会において必要な法律を制定すべきである。

警察ではなく司法組織が、起訴、有罪・無罪の決定や量刑について責任を負うべきで、被告には、告発者を尋問する能力や、弁護士を雇う権利、公正な裁判が保証されなければならない。そうでなければ、一般大衆の「改革の深化」への渇望は満たされないだろう。

本記事は、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア部門(香港)の研究者で、中国の人権問題の専門家であるマヤ・ワン氏によるものです。

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