ソーシャルメディアが人を「正直者」にする理由

2013.01.18 Fri posted at 09:00 JST

(CNN) 英有名作家のR・J・エロリーがインターネット上で他人になりすまして自分の作品を称賛していたことが発覚するなど、テクノロジーを使ったごまかしが話題になる昨今。日常生活のあらゆる場面にIT技術が浸透する中、ネットでうそをついているのは有名人に限らない。

事実に反して「今そっちに向かっている」と答えたり、すぐに返信する気が起きなかったメールについて、「ごめん、今届いた」と言い訳したり――。常時接続の世界の中で、自分に向けられた関心をさばきながら社会的関係を保つため、そんなうそをつくのは日常茶飯事になっている。

自分自身の実績を称賛する論評やコメントの投稿というごまかしが可能なのは、どんな人物にもなりすませてしまうインターネットの性質による。ただし、うそがばれた時には大きな代償を伴いかねない。

この現象が大規模になると、例えば中国で大勢のオンラインライターが少額の報酬を受け取って意見や論評を執筆したり、北米で特定の団体が報酬と引き換えに人々に自分たちの意見を支持させて、あたかも草の根運動のように装うといった行為に発展する。

本稿はコーネル大学の准教授、ジェフリー・ハンコック氏による特別寄稿です。

テクノロジーのせいでうそをつく習慣が広まったと結論付けるのは簡単だ。ところが実際は、インターネット技術が人を正直にさせていることを示す調査結果が多数ある。例えば米コーネル大学が実施した幾つかの調査でも、面と向かって話すより、電子メールの方が嘘が少ないという結果が出た。最もうそが多いのは、電話での会話だった。

交流サイト(SNS)の調査では、ビジネス向けSNS「リンクトイン」に掲載された履歴書は、従来型の紙の履歴書に比べて職務経歴やスキルについてのうそが少ないことが判明。別の調査でも、「フェイスブック」のプロフィールは人格が理想化されず、実際の人格が反映されている傾向があることが分かった。

偽りばかりと思われがちな出会い系サイトでさえも、確かに事実に反する部分はあるものの、大半はそれほど大きなうそではなかった。男性は身長や収入、学歴に関してちょっとしたうそをつき、女性は体重と容姿についてちょっとしたうそをつく。これはバーで男女が出会った時とほとんど変わらない。

インターネットはなぜ人を正直にするのか。最も重要な理由として、私たちは社会的進化の過程で驚くほど流動的な時代にいる。人類は5万~10万年前から言葉を交わすようになり、字を書くようになったのはわずか5000年前。しかも第2次世界大戦までは世界の人口の半分強は読み書きができなかった。つまり言葉とは口に出すそばから消えて行くものだった。

本稿はコーネル大学の准教授、ジェフリー・ハンコック氏による特別寄稿です。

そして今、平均的な北米人が1日分のメールに書く単語の数は、有史以来ほとんどの人類が生涯をかけて書き記してきた数を上回る。うそをつくという行為にとって、この意味は大きい。電子メールや携帯メール、ブログやフェイスブックのチャットは、半永久的な記録が残るからだ。

半面、研究者はこうした記録のおかげで、これまではほとんど見えなかった社会的行動が研究できるようになった。使われている文言をコンピューターで解析してパターンを見つけ出せば、うそを見抜くこともできる。例えばホテルについて論評する投稿を、実際に滞在した人が書いたのかどうかを見分けることも可能だ。

私たちは、その場限りの会話の時代と、デジタルの痕跡が残る時代との間で重大な変化の時を迎えている。この新しいコミュニケーションの時代に適応していく中で、人をだますという行為も、好むと好まざるとにかかわらず、確実に進化するだろう。うそつきの前途には、人類の前途と同様、大きな未来が広がっている。

本稿はコーネル大学の准教授、ジェフリー・ハンコック氏による特別寄稿です。

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