都市戸籍を取れない「農民工」の生活 成長する中国の裏側 

高層ビルのすぐ近くに「農民工」の人々の家がある

2013.01.14 Mon posted at 18:12 JST

北京(CNN) 北京郊外で暮らすグオ・ジーガンさん(30)の家は、薄汚れた隣室との壁がガムテープで貼り合わされ、ベッド1つと色あせたテーブル、イスが詰め込まれた、約5平方メートルの小さな部屋だ。トイレは20~30人の隣人と共用。グオさんはここで妻と息子と一緒に住んでいる。

質素な生活を送りながらもグオさんは、家族の生活は良くなっていると語る。

グオさんと妻のグォ・ヤルさん(26)は、農村部を離れ都市部に移住した約2億人の「農民工」と呼ばれる人々に含まれる。過去数十年の間に何億人もの労働者が、農村部から都市部へ移住し、職を得て貧困から脱出したという。

だが中国の戸籍制度である「戸口」制度の下では、農村戸籍の者が出身地の農村を離れると、医療、住宅、教育などの公共サービスを受けられなくなることが多い。仕事面でも、工場や建設現場、食堂などでの不安定なものが多く、農民工と都市戸籍の住民との間には大きな格差が存在する。

中国共産党機関紙の人民日報系「環球時報」は、農民工の窮状について、「自国に住んでいるのに不法移民のような状態だと言われている」と紹介した。

農民工が出身地の農村を離れると公共サービスの恩恵から外されることが多い

一部の学者は戸口制度を、以前、南アフリカで白人と比べ黒人の権利を厳しく制限していたアパルトヘイト(人種隔離)政策になぞらえる。戸口制度の下では、農民工は都市では一時的な居住権しか得られず、自治体の中には、その権利取得に多額の支払いを求めるところもある。

高層ビルの外壁塗装工として毎日10時間働き日焼けした顔のグオさんの将来の夢は、いつか店を持ち、今2歳の息子を中学にやることだ。自分たちは一生高い望みは持てそうにないので、子どもに夢を託すという。

グオさんの妻は第2子を妊娠中。中国の「一人っ子政策」に違反するものの、1500ドル(約13万円)の罰金を支払ってでも出産するつもりだ。

グオさんらの出身農村では、都市とは異なり、高齢になっても年金をもらったり老人ホームに入ったりすることはできないという。夫妻が第2子を望んでいるのは、子どもだけが老後の頼りとなるためだ。養育費の負担は増えても最低2人は必要だと夫婦は訴える。

農民工の子どもの多くが親と同じような仕事に就くという

農民工の不利な立場は教育でも現れる。農民工の子どもは、都市戸籍の子どもと同じ学校へは通えず、私立学校の学費負担を余儀なくされるという。

このような私立学校の一つで教鞭(きょうべん)をとっている作家のデビット・バンダスキー氏は、都市戸籍の子どもが通う学校との教育水準の差が大きく、「私立学校」と呼べるような代物ではないと憤る。

同氏は、教育や機会が与えられないため、農民工の子どもたちの多くが親と同じような仕事に就くという悪循環はほぼ4世代にわたり続いていると指摘。「この15~20年は、社会の流動性が低い」という。

こういった状況が中国社会の不安定要素となっている兆候もみられる。広東省では昨年来、当局の人間による農民工への暴行をきっかけに、農民工による暴動や都市住民との衝突が発生した。

一部の家庭では、子どもを大学へ進学させることでこの悪循環を脱しようと希望をつないでいる。だがバンダスキー氏によると、それが成功する可能性は非常に低いという。

グオさんは、「子どもたちにそんなに多くを望んでいるわけではない。学校へ行って一生懸命勉強してくれさえすればいい。自分たちと同じような仕事や生活はしてほしくないだけだ」と胸の内を明かした。

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