グリーンランドの氷床から気候変動を読み解く 科学者の挑戦

グリーンランドの氷床が解けて池を作っている

2012.12.31 Mon posted at 14:29 JST

グリーンランド・カンゲルルスアーク(CNN) 何百年も前から探検家や科学者を魅了してきた北極圏の氷床。島の大部分が北極圏に属するグリーンランドで、CNNはデータを集める科学者チームに同行し、氷の下に眠るなぞに迫った。

グリーンランドを覆う氷の面積は、米テキサス州の2倍以上。氷の層は過去に降り積もった雪が圧縮されてできている。樹木の年輪と同じように、それは気象条件の推移を知る手がかりとなる。10万年以上前の気温や降水量、雲の様子を知ることができ、灰の降った跡があれば火山が噴火したことも分かる。「過去を知れば将来の気候変動もより正しく予測できる」と語るのは、コペンハーゲン大学の気象学者、トレボル・ポップ氏。「グリーンランドはそのプロセスを実際に経験するのに最適の場所」だという。

北極圏研究で最も権威ある組織のひとつ、独アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所(AWI)の観測にこのほどCNN取材班の参加が認められ、AWIの最新鋭機「ポーラー6」に同乗した。

ポーラー6は、米軍などが第2次世界大戦中や戦後に使った輸送機「DC3ダコタ」の機体に、新品のエンジンと最新型の装備を搭載したユニークな観測機だ。科学者チームは1週間以上かけてアンテナやコンピューターを積み込み、グリーンランドの玄関口、カンゲルルスアーク空港へ向かった。

レーダー調査に向かう途中、氷が解けてできた巨大な水たまりを発見

チームによれば、今回の観測の目的は2つ。上空からのレーダー観測と、着陸地点での掘削調査だ。レーダー観測では地表から100~200メートル下までの層の様子を把握し、ドリルで掘ることによってさらに正確な情報を得る。

空港を飛び立ったポーラー6はまず、レーダー観測区域へ向かった。上空から見る氷原には丘も谷もなく、雲との見分けがつかない。カナダ人の機長は「この極限状況は飛行を経験しなければ分からない。天候が変わりやすいので、常に注意しなければ」と話す。

ポーラー6には掘削用の重いドリルも積み込まれていた。通常はスノーモービルなどで、目的地まで何日もかけてドリルを運ぶが、空路なら数時間の移動で済む。

掘削作業を指揮するのは、30年の経験を持つAWIの専門家、セップ・キップツール氏だ。採取したサンプルは持ち帰り、何カ月もかけて分析する。だが同氏はその場で近年の気温上昇を示す兆候に気付いた。夏に気温が非常に高くなり、氷がいったん解けた層が際立って増えた。30年前の掘削では、これほど見られなかったという。

掘削準備にとりかかる研究者

これは米航空宇宙局(NASA)の人工衛星による観測結果とも一致する。グリーンランド内陸部の氷床では、溶解現象が見られるのは通常の夏では50%程度にとどまっていたが、今年の夏は約97%にも及んだという。

昼は氷の溶解が掘削の障害になるため、掘削作業は夜間を選んで7時間続けられた。

多くの科学者らと同様、キップツール氏は人間の活動が気候変動に及ぼす影響の大きさを根拠なく推定しようとはしない。ただ、人類は大きなリスクを取っていると指摘する。「私たちは、結果がどうなるかもわからずに、自分の住む地球で実験をやっているようなものだ。予測に向けて努力はしているが、変数が多すぎて予測が非常に難しい」と同氏は語る。

より正確な未来図を描こうとする科学者らの努力は続く。観測がひとつ終わるたびに少しずつ目標に近付く一方で、新たな疑問も浮かび上がる。それを解決するには、さらに数十年の歳月がかかるかもしれない。

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