(CNN) 上司と部下という関係の境界線はかつては明確なものだった。上司は離れた場所いて命令を下す恐怖の存在だった。一方、部下は言われたことを実行する立場にいた。
しかし、職場の文化は変化し、行動規則も変容した。仕事と私生活の区別は曖昧(あいまい)になり、上級幹部の多くが部下と、より親密で正直な関係を求めるようになった。スタッフとの理想的な関係を「家族的」と表現する経営幹部もいる。家族というものは、相手を思いやり、相手に要求し、所有物や思い出などを共有するものであり、そうしたことを通じて、不安なく働くことができるようになれば、生産性も向上するというわけだ。
自分の上司を家族だと混同する人はめったにいないだろう。しかし、上司が友人だと勘違いしないようにもしなけれならない。
上司との関係が問題になるとき、被雇用者は常に不平等な立場に立たされる。あらゆる過ちがキャリアを破滅させる結果を招きかねない。そう考えると、職場における「地雷原」を突破してまで上司と個人的に仲の良い関係性を築こうとするのは、はたして良い考えなのだろうか。
英ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院のヨヘン・メンゲス博士によれば、上司と仲の良い関係を築くかどうかを決定するのに考慮すべき重要な要素のひとつは、上司を尊敬できるかどうかだという。
メンゲス博士は「上司が模範的な人物なら、仲良くなることは常に自分の利益にもつながる」と指摘。さらにそれは会社にとっても好影響を与えるという。部下が有益な指導を受け、関係が深まれば、会社の問題についても安心して、正直にあるいは批判的に話し合うことができるだろう。
英クランフィールド大学のクランフィールド・スクール・オブ・マネジメントで職場の人間関係について研究しているパトリシア・プライス氏は、職場の中で影響力を持った人物と社会的な関係を築くことで、昇進において優位な立場に立てる可能性があると指摘する。
多くの職場には、公式の組織の序列とは関係なく、非公式ながら影響力がある人脈が存在し、それが、企業幹部の指名といった重要な判断を下すのに大きな役割を果たす場合もある。
こうした人間関係は、パブやスポーツイベントなど仕事場以外の場所でつながっていることもある。プライス氏は、そういった場に参加すれば、「決断を下す人々に対して存在感を示すことができるかもしれず、そうすることで出世への道を早めることにもつながるかもしれない」との見方を示す。
ロンドン・ビジネス・スクールでキャリアサービス部門の責任者を務めるフィオナ・サンドフォード氏によれば、個人的な問題についてアルコールを飲みながら上司と話し合うことで、職業人生の隠れた一面を理解するのに役立つかもしれないと指摘する。サンドフォード氏は、上司が受けているプレッシャーや仕事に対する価値観を知ることで、より効果的に働けるようになるかもしれないと指摘。「だからといって全てをさらけ出すという意味ではない。上司の前で酔っ払ったり、見せたくない一面を見せたりするのは大きな失敗につながる可能性もある」と釘を刺した。
クランフィールド大のアンドリュー・カカバドセ教授は、親密になることで上手くいく人もいれば、上手くいかな人もいるとした上で、「重要なのは、仕事に必要な頭脳を備えているかどうかだ」と述べた。