キャサリン妃入院先の看護師の死を受け、問われるメディアの倫理的境界線

病院の前には数多くの取材陣が

2012.12.08 Sat posted at 17:03 JST

(CNN) 豪ラジオ局のディスクジョッキー(DJ)がかけた偽電話にだまされ、勤務先の病院に入院中だった英王室キャサリン妃の情報を漏らしてしまった女性看護師が死亡しているのが発見された。

女性看護師は自殺を図ったとの報道受け、各メディアには怒りや悲しみ、2人のDJへの報復を求める声など、さまざまな意見が寄せられている。

2人のDJは4日、エリザベス女王とチャールズ皇太子になりすまし、英王室のキャサリン妃が入院していたキング・エドワード7世病院に電話をかけた。この電話を最初に受けたのが看護師のジャシンサ・サルダナさん(46)で、キャサリン妃のいる病棟に転送してしまった。サルダナさんはその3日後の7日に死亡しているのが発見された。

看護師の名前は死亡が確認されたあとに公表されたものの、多くのメディアでこの電話のやりとりの一部またはすべてが流された。インターネット上でも広まった。

DJ2人は「まさか本当に(英女王とチャールズ皇太子と)受け取られるとは思っていなかった」とし、その後謝罪している。同ラジオ局の親会社であるサザン・クロス・オーステレオの最高経営責任者(CEO)は、「違法な行為ではなかったと受け取っている」としたものの、「合理的に予測することができなかった痛ましい出来事」で、「非常に悲しい」としている。

サルダナさんの悲報は、ソーシャルメディアでも大きな反響を呼んだ。

投稿サイト「ツイッター」上では、「電話をかけた愚かな2人はまだ自分たちを面白いと思っているのだろうか」「人類のレベルがまた下がった」など、電話をかけたDJに対する怒りのコメントが多数寄せられた。

一方、少数ではあるが、「情緒不安定な女性の行動について2人のDJに責任はない」という意見や、いたずら電話などの悪ふざけはラジオやテレビのバラエティー番組では以前から行われており、その大半は当たり障りのないものだとし、ラジオ局を擁護する意見もあった。

しかし、いたずらや悪ふざけは思わぬ悲劇を招くこともある。

日刊紙「タンパベイ・タイムス」は11月30日、持続性性喚起症候群と呼ばれる珍しい性的障害を患う女性グレチェン・モラネンさん(39)に関する記事を掲載した。

同紙はモラネンさんと協力して記事を作成し、掲載前にモラネンさんに記事全文を読み聞かせた。モラネンさんは同紙に宛てた手紙の中で、自分の病気に興味を示してくれたことに感謝し、「この記事により、この病気が実際に存在する深刻な病気であることを人々に知ってもらい、この病気に苦しむ他の女性が医者に相談する勇気を持ってくれれば」と付け加えた。

しかし、モラネンさんは記事が掲載された翌日に自ら命を断った。ただ、モラネンさんにはその以前にも自殺を図っており、記事の掲載が自殺の原因か否かは定かではない。

また2010年には、ラトガース大学の男子生徒だったタイラー・クレメンテさん(18)が、別の男性と性行為をしている所をルームメートに盗撮され、その後しばらくして、ニューヨークの橋から投身自殺を図った。

ルームメートは録画した映像を他の友人らと共有し、さらにツイッター上でも暴露していた。

この事件では、ハイテクを使えば人のプライバシーをいとも簡単に記録、配布できること、自分の投稿が招きうる重大な結果について、特にソーシャルメディアの若いユーザーたちが十分に理解していないことなど、弱者をさらに危険な状況に追い込むさまざまな要因が結集していたようにみえる。

またこの事件は、米国で10代の若者による自殺が続発している問題を浮き彫りにした。そしてこの問題は、この年代の若者がソーシャルメディアや携帯メールに何時間も没頭するようになったことと無縁ではない。学校でのいじめは休みに入れば収まるが、ネット上のいじめは24時間、どこでも起こりうる。

これらの事件は一見、サルダナさんの事件とは無関係に思えるが、共通点は多い。

21世紀は、ソーシャルメディアや主流メディアの普及と、それらメディアに対する人々の欲求のせいで、個人的屈辱が短時間で世界中に広がる恐れがある。ちょっとした悪ふざけやうっかりミス、私的行動や一般人が抱えるさまざまな懸念が、ものの数時間で世界の隅々にまで広がる、あるいは広がるように見える。そして一部の人にとっては、自分がさらし者になることが、すぐに耐え難い苦しみとなる。

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