ニューデリー(CNN) インドの首都ニューデリーのスラム街に住む人々は毎朝、線路脇に集まり、ほとんどの人が隠れて行うことをする――用を足すのである。
水入りボトルを手にやって来て、身を隠そうとする人もいれば、あまり気にしていない人もいる。通過する列車のごう音や警笛に動じる人は少ない。これを40年来の朝の日課とする商店主のムクヘシュさんにとっても、恥ずかしいことだが他に方法は無いのである。
世界保健機関(WHO)によると、推定で6億2500万人のインド人が屋内トイレを利用できずにいる。インド政府の国勢調査によると、インド人の53.2%は携帯電話を持っているが、その一方で、トイレ付の家に住んでいるのは46.9%と半分を下回る。
農村開発相兼飲料水衛生相のジャイラム・ラメシュ氏は、インドのライフラインとも呼ばれる大規模な鉄道網は「世界最大の屋外トイレ」であり、屋外で排便する世界の人口の60%近くはインド人だと嘆く。
24歳の女性、カライセルビさんは、より良い生活を求めてインド南部の村を離れ、1年前にニューデリーにやってきたが、この国の首都で、最も基本的な設備を探すのに苦労するとは思いもよらなかった。
男女が隣り合って用を足すことは、カライセルビさんにとって本当に恥ずかしく苦痛であるため、午前4時以前と午後7~8時以降の暗い時間にしか用を足さない。
ムクヘシュさんもカライセルビさんも、大型スタジアムや有名な最高級ホテルから数分の距離にある、3000人規模の典型的なインドのスラム街に住んでいる。隣近所では、1部屋の小さい家に、衛星テレビや冷蔵庫、エアコンなどの最新機器が詰め込まれているが、トイレがある家は1軒も無い。
カライセルビさんがトイレを設置したくとも不可能だ。彼女が住む地区には下水施設が無いのだから。
下水処理施設があるインドの都市はごくわずかだと指摘するのは、低コストで環境にもやさしいトイレをインドの貧困層に40年以上にわたり提供しているNGO(非政府組織)「スラブ・インターナショナル」の創設者、ビンデシュワール・パタック氏だ。
パタック氏は、「スラブ・トイレ」と呼ばれる、斬新かつシンプルな簡易水洗トイレによって何百万人ものインド人の生活を改善してきた。これは、1つの便器に2つの貯留槽がつながり、その1つを使用中に、もう1つでは排泄物を堆肥化する構造となっている。
建築にコンクリートは不要で、排泄物は時間の経過と共に肥料となる。15ドル程度で建築可能で、流すのに必要な水は1リットルに過ぎない。
スラブ・インターナショナルは、120万の家庭用トイレと8000の公衆トイレをインド全土に設置している。パタック氏によると、スラブ・トイレは、インド政府により5000万基が整備されており、14のアフリカ諸国でも導入されている。
ニューデリーから約100キロの北部ハリヤナ州メワット県の村では、スラブ・インターナショナルが全ての住居にスラブ・トイレを設置した。村の住人シャクンタラさんは、密林に用を足しに行き、蚊やハエにかまれて病気になることもあった生活は劇的に改善されたと喜びを語った。
村人たちには、誇りや進歩したとの実感ももたらされた。シャクンタラさんは、「携帯電話は非常に便利だが、トイレのおかげで私たちは、以前よりも尊厳を持てるようになった。携帯電話は1台しか持ってないが、トイレは2基設置してある」と胸を張った。