チョコに世界のスパイスを 「ヴォージュ」創業者に聞く

マルコフさんはシカゴ在住で、2歳の息子がいる (C) Vosges Haut-Chocolat

2012.08.24 Fri posted at 15:00 JST

(CNN) 甘さだけでないぜいたくな味を楽しみながら、異国の文化に思いをはせて――。米国の高級チョコレート・ブランド「ヴォージュ・オー・ショコラ」の創業者、カトリーヌ・マルコフさん(38)が目指すのは、チョコを通した異文化交流だ。

異国の味をチョコに包むことで、多くの人に挑戦してほしい。そんな願いを込めて送り出したトリュフのシリーズには、日本のわさびやインドのカレーなど、世界各地のスパイスが使われている。人気が高いのはハンガリーのパプリカや中国のハッカク、南仏プロバンスのリキュール「パスティス」、フェンネルなどの味付けだ。

今でこそ唐辛子や海塩の入ったチョコも見かけるようになったが、マルコフさんが1998年、シカゴのデパートに初めて商品を持ち込み、材料を説明した時は「頭がおかしいんじゃないかという目で見られた」という。

それが世界に2000店舗、8カ所でブティックを展開する「チョコ帝国」に成長した。昨年の収益は前年比50%増の3000万ドル(約24億円)。今年はさらに、スーパー向けの手ごろなブランド「ワイルド・オフィーリア」も立ち上げた。ヴォージュのトリュフが1箱40ドルと高価なのに対し、こちらはビーフジャーキー味、バーベキューポテトチップ味など庶民的な味付けのチョコバーが、1本3ドル99セントだ。

最初に作ったチョコはココナツとカレーのトリュフ。インド先住民「ナガ」の名を付けた

マルコフさんはテネシー州のバンダービルト大学で化学と心理学を専攻し、卒業と同時に料理と菓子作りの修行を志してパリへ。有名シェフのフェラン・アドリア氏の助言を受けて、東南アジアやオーストラリアに旅をした。

チョコに興味を持つきっかけとなったのは、パリのヴォージュ広場にあるレストラン「ランブロワジー」で出会った味。チョコに生クリームなどを混ぜた「ガナッシュ」を凍らせ、衣を付けて揚げた菓子だった。ドーナツのような皮の中から、溶けたチョコがあふれ出す。その食感に感動したという。

帰国後、テキサス州ダラスでおじのカタログ販売会社に勤めたマルコフさんは、チョコの商品選びを担当して、品ぞろえの貧しさに驚く。砂糖や人工香料を放り込んだだけのつまらない商品ばかりだった。

マルコフさんの手元には、旅先で買い集めたスパイスや、インド先住民のナガ族が作ったトラの歯のネックレスがあった。ある夜、台所に立ったマルコフさんはカレーとココナツのトリュフを作り、それを「ナガ」と名付けた。その瞬間、目の前がぱっと開けて、「チョコレートを使って物語を伝えよう」という道すじが浮かび上がったという。

サフランとホワイトチョコ、砂糖の結晶でスペインの巨匠ガウディのモザイク作品を表現したり、パプリカとショウガを組み合わせたり――。旅の思い出を振り返りながら、その夜のうちに20種類のチョコを作り上げた。

商品は有機農場から再生可能エネルギーを使って生産し、包装には再生材料を活用している (C) Vosges Haut-Chocolat

マルコフさんは翌日、チョコを持って街に出た。保守的なダラスの人々は「カレー味なんて」と顔をしかめる。だが説得に応じて恐る恐る味見した女性は「おいしいじゃない」と笑顔になり、「わさびも食べさせて」と身を乗り出したという。

それ以来ずっと、国際的な視野がマルコフさんのテーマだ。今後数年間は中米のハイチでカカオ栽培に挑戦し、ベリーズにチョコレート作りを習えるロッジを開設する計画だという。

ビジネスに成功した女性として後輩たちに贈る言葉を尋ねると、マルコフさんはこう答えた。「重要なのは、自分の個性に自信を持つこと。こうあるべきという像に合わせるのではなく、自分自身の声を見つければ、人々は認めてくれる。内なる声に従って自分の持ち場を見つけ、一生懸命に進めば、成功は自然にやって来る」

この考え方は、直感重視の仕事ぶりにも現れている。「新商品を考える時、他の人の意見や消費者調査の結果には頼らない。ひとつひとつ段階を踏まずに何段か飛ばすこともある。土壇場になって変更することも多いけれど、その決断はたいてい正しい」――それが、マルコフさんの個性を生かす経営スタイルのようだ。

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