「発禁本」で稼ぐ香港の書店 大陸から千客万来

香港の書店「人民公社」で中国政治に関する本に読みふける人々

2012.08.14 Tue posted at 11:50 JST

香港(CNN) 香港の繁華街「コーズウェーベイ(銅鑼湾)」の片隅に中国大陸からの旅行客を引きつけてやまない書店がある。客の目当ては、共産党の厳しいメディア規制によって本土では読むことのできない「発禁本」の数々だ。

コーズウェーベイの書店「人民公社」を訪れた北京からの旅行客は、北京で禁止されている本が売られているといううわさが本当かどうか確かめに来たと語った。自宅にその本を持ち帰ることは違法だとして匿名を条件に語った男性は「共産党の内幕を知りたかった。個人的な関係はないが、こういった書籍を中国内部で手に入れる方法がない」と話す。

中国本土では共産党がマスメディアに対して厳しい規制を敷いており、政治的な分析や、中国の歴史に関して意見の分かれる記事を国内で見つけることはほとんど不可能だ。

香港には、英国から中国に返還された後も高度な自治が認められる「一国二制度」が導入されており、同地の企業家はこれを利用して多くの旅行客を本土から引き寄せ、一財産を築いている。

人民公社のような書店には、1989年の天安門事件や、重慶市の書記だった薄熙来(ポーシーライ)氏のスキャンダルなどを扱った書籍が並ぶ。

書店のオーナーによれば、中国本土から香港への個人旅行が解禁された2003年の開店以来、本土から訪れる買い物客は膨れ上がり、客の95%は本土から来ているという。

香港観光当局の統計によれば、2006年には1360万人だった本土からの観光客は、2011年には2810万人と倍増した。

人民公社は、中国版ツイッターのウェイボー(新浪微博)にアカウントを開設し、入荷した書籍の情報提供や注文の受け付けを行っている。顧客の大部分は、北京や上海、広州といった大都市に住んでいる。年齢は30~40歳で、学者や企業人が多いという。販売点数は1カ月あたり200~300冊に上る。

中には中国政府の職員や警察幹部もいる。オーナーのデン氏によれば、政府関係者だと証明するために警察の身分証明書を見せたものもいるという。

デン氏は「中国本土は、香港と比べると、情報や表現の自由が少ない。書籍が、本土の中国人にとって魅力的なものになると考えた」と説明する。買った本が見つかれば没収される危険もあるが、多くの客がリピーターになるという。

香港中文大学のジョウ教授(政治学)は、本土からの買い物客を引きつけている理由の一つとして、そういった書籍を読むことで読者は、ただの無力な傍観者ではなく政治に参加していると感じられるからではないかとの見方を示す。

これは、逆に、香港市民がこうした書店に注目していないことの説明にもなる。

北京から来た買い物客は「こうした本を読むからといって、共産党に反対しているわけではない」と語る。この男性は、人々を不幸にするようなものでない限り、国が情報を封じ込める理由が分からないと述べ、政治雑誌を何冊か購入して店を出て行った。

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