株式会社フェローテックホールディングス
代表取締役社長兼グループCEO
賀賢漢氏
半導体設備向け部品や半導体ウエハーを製造・販売するフェローテックホールディングスは、かねてより世界の市場を相手に急成長を遂げているグローバル企業だ。同社は欧米で培った開発技術を製品に落とし込み、中国で得た大量生産体制のノウハウで独自のビジネスモデルを確立し、半導体前工程向けのビッグサプライヤーとして、確固たるポジションを築いている。一方で、現在は「日本回帰」を掲げ、熊本をはじめとして国内拠点や製造工場の整備にも力を注いでいる。世界的に半導体の需要が急増するなか、国内でのサプライチェーン強化につながる同社の動きには、日本の半導体製造業界や半導体を活用する幅広い領域のメーカーからも期待が寄せられている。同社が日本回帰を目指す意図や今後のビジョンについて、フェローテックホールディングス 代表取締役社長兼グループCEOの賀賢漢氏に話を聞いた。
米国の親会社をTOBし、グローバルのニーズを取り込んで急成長を遂げる
――まずは、フェローテックホールディングスについて教えてください。
当社は1980年に米国企業であるフェローフルイディクス社の子会社として、日本で誕生しました。その後、1987年に米国親会社から独立し、日本国内に工場を建て、1992年には中国進出を果たしています。1996年に店頭登録銘柄となり、1999年に米NASDAQ市場の元親会社を友好的TOB(株式公開買付)により傘下に収めました。それに伴ってフェローテックグループとなり、2010年代中盤から現在の半導体領域にターゲットを定め、M&Aも実施して事業を拡大し、グローバル市場のニーズを取り込んで飛躍的な成長を遂げました。2017年4月からは現在の「株式会社フェローテックホールディングス」と社名を改め、持株会社体制に移行しています。売上高は2022年3月期が1338億円で、今年度は1950億円を見込んでおり、2031年3月期には5000億円を目指しています。
――具体的にどの分野で事業展開しているのでしょうか?
当社の事業を大別すると、「半導体等装置関連」と「電子デバイス」に分けられます。前者では、半導体製造装置向けの治具・消耗材に使用される石英・シリコン・セラミックス・CVD-SiCなどのマテリアル製品や真空シールの製造、金属加工、部品洗浄サービスなどがあります。後者では、温度管理デバイスであるサーモモジュールや業界の市場成長が著しいパワー半導体基板等を製造しています。これらの中で真空シールは約65%、サーモモジュールは約35%のシェアを持ち、世界トップシェアを誇ります。また、パワー半導体基板も参入してまだ数年ですが、すでに世界で2番目のシェアを獲得するまでに急成長しています。
当社の主な顧客層は、半導体製造装置、半導体デバイス、有機EL・液晶装置、エレクトロニクス、産業機器、自動車・自動車部品、医療機器を開発しているメーカーです。最終的に我々の技術を活用した製品群は、半導体分野ではスマートフォンやPC、データセンターや車載コンピューターなどに組み込まれ、サーモモジュールは自動車のシ-ト、医療分野の各種装置、エアコン・空気清浄機・ドライヤーなどの家電民生品、ネッククーラーなどの熱対策衣類など身近な製品に幅広く利用されています。
サーモモジュール
パワー半導体用基板
セラミックス製品
フェローテックが提供する製品
日本回帰のポイントは「市場」「基礎技術」「人材」
――フェローテックホールディングスは日本企業でありながら、中国での半導体内製化政策にも後押しされ急成長するなど、グローバルを舞台にビジネスを展開していると思います。なぜ、このタイミングで日本回帰を掲げているのでしょうか。
現在当社の売上の約8割が米国を中心とした海外で、製造も8割は中国の工場で行っています。一方、日本では長きに渡り半導体市場が低迷を続けていたこともあり、当社の投資も後回しになりがちでした。ただ、そもそも当社は日本企業ですし、改めてこのコロナ禍で日本と向き合った時に、3つの理由から回帰すべきだと思い至ったのです。
1つめは、日本の市場です。世界最大の半導体受託製造企業である台湾のTSMC社の工場誘致も決まり、半導体デバイス・装置メーカーが誘致拠点となる熊本に集まっている状況です。それに伴って政府も今後投資を強化し、市場もどんどん拡大していく見込みです。その際に当社は、欧米で得た優れた技術力、中国工場での生産力など世界中で培ったノウハウを用いて、日本で優位にビジネスを展開していくことができると考えました。
そして2つめは日本が持つ半導体関連の基礎技術・アイデアの部分で、3つめが人材です。日本は半導体市場を牽引していた時代もあり、今でも製造の前工程を中心に特定領域の技術力はかなり優れていて、優秀な人材も多く輩出しています。そういった日本の優れた技術や優秀な人材を、もっと当社の中に取り入れていきたいのです。
――日本回帰にあたって、具体的にどのような施策を打ち出そうとしているのでしょうか。
まず、TSMCの工場が建設される場所から車で10分程度に位置する熊本県大津町に、新しい拠点を建設します。すでに用地も購入済みで、来年3月に着工し、TSMCの工場が稼働開始する2024年に開設する見込みです。その他にも、石川の工場で11月に第二工場が稼働し、生産能力を増強します。千葉の工場も生産規模を拡大していく計画です。他にも当社は岡山、兵庫、山形に国内生産拠点があり、7月には関連する事業を行う大泉製作所と東洋刃物を子会社化しました。これらの施策によって日本でかつて行われていた「大量生産」の体制を取り戻し、国内へのデリバリー体制の強化を図ります。新たに拠点や工場を増やす地域では、採用も強化していきます。
デジタル経営とデジタルファクトリーのノウハウを国内展開
――国内回帰にあたっての注力分野や国内へどう貢献していくのかを教えてください。そしてその際に、フェローテックホールディングスの強みをどう打ち出していくのでしょうか?
半導体は今後もニーズが高く、国策としても注目されている成長分野です。米中摩擦の影響もあり世界的に半導体の調達が難しくなっていくなか、国内で大量生産をすることで当社自身も日本のお客様から要求される納期を遵守できるようになりますし、広い話では日本における半導体製造領域のサプライチェーン構築を支え、結果として社会や経済を支えていくことに寄与します。またTSMC誘致を皮切りに、熊本をはじめとする九州を半導体関連企業の集積地にするシリコンアイランド構想も動き始めていますが、そこにも参画して市場拡大に貢献できるでしょう。
当社では約30年にわたり中国で量産拠点作りをしてきて、そこで量産技術や工場の運営ノウハウを培ってきました。その1つが、デジタル経営です。2019年からERP(基幹業務)に加えて、MES(製造・実行)およびその下のQMS(品質管理)やWMS(倉庫管理)、PLM(製品ライフサイクル管理)などのITシステムを整備し、数値の見える化と標準化を進めています。また工場ではローカル5Gのインフラを敷設して、ロボットやAGV(無人搬送車)を活用して知能化や自動化を進めています。
デジタル化を進めることによって全社でデータを共有し、無駄をなくして無駄な仕事やコストを削減できます。ただこれは、かつてのOA化(事務作業の自動化)のようにリストラを目的とした話ではありません。デジタル化することによって単純作業をなくし、個々の社員がもっと自分の好きなこと、成長したい分野の仕事に集中でき、会社としても本来目指すべき新しい研究開発などの生産的な領域にリソースを多く振り分けることができるようになるのです。日本の工場にもすでに成功しているデジタル化を水平展開し、その上で日本の優秀な人材を確保していくことで、当社の事業を更に加速させていくことができると見込んでいます。
尊敬される企業、入社したい企業、入社して良かった企業を目指す
――会社の目指すべき姿と、フェローテックホールディングスへの入社を検討している方々へメッセージをお願いします。
フェローテックホールディングスでは、今回お伝えした日本回帰の取り組みも含めて、「顧客に満足を 地球にやさしさを 社会に夢と活力を」という企業理念を追求していきます。
ESG経営にも力を入れていて、企業活動を通じて新エネルギー産業で活用できる素材・製品などを開発して「環境(E)」に貢献するほか、多様な人財の活用・育成や従業員のエンゲージメント向上を通じた「社会(S)」、コンプライアンス順守やリスクマネジメント強化を通じた「ガバナンス(G)」に関する取り組みを進めて行きます。
我々は、半導体製造装置メーカーの皆さまが必要とする製造装置の中で必要とされる部材や消耗品、その延長線で行われるサービス、ウエハー製造までを一貫して提供する、他に類を見ない日本発のトランスナショナルカンパニーです。より高みを目指して数字を重ねるだけでなく、「尊敬される企業」「入社したい企業」「入社をしてよかった企業」を目指し、実践しています。意義のある仕事にチャレンジしたい人は、いつでも大歓迎します。
フェローテックホールディングス 事業紹介動画
プロフィール
賀 賢漢(が・けんかん)
上海財経大学卒業後、同大財政学部助講師。その後1993年に日本大学大学院経済学研究科修了、同年にフェローテックホールディングス入社。2001年取締役、2004年常務取締役、2006年事業統括担当常務取締役、2009年取締役兼常務執行役員事業統括担当、2011年代表取締役副社長兼執行役員事業統括担当。2020年7月代表取締役社長兼グループCEO 中国上海市出身。
(株)フェローテックホールディングス
詳しくはこちら https://www.ferrotec.co.jp/