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ロシア寄りの経済圏BRICS、拡大で得をするのは誰か?

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2019年にブラジルで開かれた会議で記者団に手を振る、当時のBRICSの首脳ら/Kyodo News/Getty Images/File

2019年にブラジルで開かれた会議で記者団に手を振る、当時のBRICSの首脳ら/Kyodo News/Getty Images/File

(CNN) 南アフリカでは今週、新興5カ国(BRICS)の首脳会議が行われている。会議の流れ次第では、BRICSの今後の行方――ひいては世界秩序にどこまで対抗するかが決まってくるだろう。そうした秩序は西側諸国によって不当に支配されているというのがBRICSの主張だ。

ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国で構成されるBRICSは、国際社会でかつてないほど存在感を増してきている。だがBRICS自体も複雑な事情を抱えている。

ロシアの大統領は、出席すれば戦争犯罪の容疑で議長国の南アフリカから逮捕されるため、出席を断念。インドと中国の間では国境問題がくすぶる。また中国は依然として米国と対立する一方、インドは米国と緊密な関係を築いている。

けっして円満なファミリーとは言えない。にもかかわらず、BRICSの下にはおよそ20カ国から正式な加盟申請が寄せられている。

22日から3日間にわたって行われる協議では、新規加盟の受け入れを巡る話し合いが議題の上位に来るとみられている。ここでBRICS各首脳は――ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を除き――新型コロナのパンデミック(世界的大流行)以降初めて顔を合わせることになる。

プーチン大統領は、残忍なウクライナ侵攻に関して国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているため、オンラインで参加する。

20日、南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領はBRICS拡大への支持を表明。組織の拡大は「幅広い国々の声を代弁」することになると述べた。その上で、そうした国々は「均衡のとれた世界秩序という共通の願い」を共有しながら「ますます複雑化し、分断が進む」国際社会に存在していると語った。

拡大をめぐる議論で問われるのが、組織の方向性と独自性だ。拡大を望む加盟国の目には、この数十年で世界経済の主役が交代しているにもかかわらず、国際制度が西側諸国や主要7カ国(G7)に優位に働いていると映っている。

専門家いわく、BRICSはリスク覚悟で一段と地政学的な側面を打ち出し、グローバル勢力のバランスを取り戻そうとしている。特に中国とロシアには、この枠組みを利用して高まる西側諸国との緊張状態に対抗しようという意図がある。こうした姿勢はBRICS拡大にとって追い風になるかもしれない。

先週、中国の駐南アフリカ特命大使は首脳会議に先駆けて行われた記者会見で、「自国の正当な利益の保護のために」BRICS加盟を望む国が後を絶たないと発言した。

「一部の国が一方的な制裁という『圧力』を振りかざし、広範にわたる管轄権を行使する状況に直面している今、BRICS加盟国は公平な対話と議論を強く求める」。中国の米国政策批判ではおなじみの文言を交えながら、陳暁東(チェン・シャオドン)特使はこう発言した。

ヨハネスブルク大学で政治学と国際関係学を教えるバソ・ンゼンゼ准教授によれば、BRICS拡大の問題は「結成から約15年で最初に迎える試練」になるかもしれない。

加盟国が増えれば「BRICSの世界的影響力も拡大し」、西側諸国の政治的支配への対抗という大義にも支持が集まるだろうと同氏は言う。

だが拡大の是非については意見が割れており、「必ずしも新規加盟の受け入れを(加盟国)全員が支持するとは限らない」(ンゼンゼ准教授)

グループへの加入

プーチン大統領、中国の習近平(シーチンピン)国家主席、インドのナレンドラ・モディ首相、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領、そして議長国である南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が自分たちのグループへの新規加盟受け入れを決断するのか、またどのように候補国を選出するのか。結果次第では世界的にも重要な意味を持つと専門家は言う。

経済発展と国際舞台での加盟国の発言強化を目的とするBRICSは、これまで1度しか拡大を経験していない。

もともとBRICSという呼称は、米金融大手ゴールドマン・サックスのエコノミストだったジム・オニール氏が主要新興国への投資機会を言い表すために作った造語だ。以来、各国の政治体制や経済体制がまるで異なるにもかかわらず、BRICSは存続している。

2009年には4カ国間で第1回首脳会議が行われ、翌年に南アフリカが加盟。15年には新開発銀行が設立された。

南アフリカのアニル・スークラルBRICS大使が先月明らかにしたところによれば、現在では22カ国が正式にBRICS加盟を申請し、非公式の問い合わせも殺到しているという。

南アフリカ当局によると、正式に加盟を申請しているのはアルゼンチン、メキシコ、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ナイジェリア、バングラデシュ。

米タフツ大学「ライジングパワーアライアンス・プロジェクト」のミハエラ・パパ上級研究員によると、申請の理由は国によって様々だ。地域通貨への移行など具体的な経済活動への関心から「米国への対抗」まで多岐にわたる。

「そこへきて大国間の緊張状態や先行き不透明感を背景に、中国やその他BRICS諸国との関係を密にしたい、あるいは状況を制御する力を高めたいという国もある」と同氏は言い、加盟国にとっては「拡大決定はBRICSの今後の方向性を決めることに等しい」と付け加えた。

新たな国が加盟すれば、それを契機にBRICSが現在の国際勢力図を再構築する、またはそれに代わる体制を形成するかもしれない。

イランのように西側諸国への敵意をむき出しにする国を加盟させれば、BRICSがより反欧米路線に傾くことにもなりかねないと専門家は言う。

加盟国が増えれば、BRICS最大の加盟国である中国にも少なからずプラスの波及効果がもたらされるだろう。とりわけ習氏は、米国主導の国際制度が中国を封じ込めようとしているとみなし、中国を国際制度の抜本的改革の旗振り役に据えようとしている。

米シンクタンク「スティムソンセンター」の中国プログラムを率いるユン・ソン氏は、「加盟国が増えれば集団的発言権も強まり、最大の経済国である中国はますます主導権を握って、開発途上国の代弁者を自称するだろう」と語る。

BRICS加盟に各国が幅広い関心を抱いていることは、プーチン氏にとっても弾みになっている――西側社会から爪はじきされ、戦犯扱いされているプーチン氏だが、BRICSではいまだ歓迎されている。専門家も言うように、列をなしてBRICS加盟を待ちわびる国々と、反プーチンとウクライナ支援で結束する裕福な西側諸国とでは、優先事項に大きな開きがあることも明らかになった。

ベンガルール(バンガロール)を拠点に活動するアナリストのマノジ・ケバルラマニ氏は、開発途上国の視点をふまえてこう語る。「ロシアが戦争を引き起こしたことで不満の声も多い。だが(同時に)争いごとにはつねに当事者が2人いる。(戦争の勃発と長期化には)NATO(北大西洋条約機構)と米国にも非があるといえる」

こうした国々は戦争終結にどんな関心を寄せているのか。この点についてタクシャシラ研究所でインド太平洋研究を統括するケバルラマニ氏は、「ロシアの孤立が自分たちの得にはならないと考えるだろう」と語る。

「西側諸国が内へ閉じこもっていくように見える」ことから、多くの国々がBRICSに気候変動、資本やテクノロジーの入手困難といった問題の打開策を求め、歩み寄りを図っていると同氏は語った。

いくつもの分断線

だが習氏、モディ氏、ルラ氏、ラマポーザ氏、リモート参加のプーチン氏がヨハネスブルクで協議に臨んでいるとはいえ、5カ国間の意見の相違が思い切った拡大路線を阻む可能性もある。

各国首脳は加盟基準の見直しを行うものとみられている――おそらく、具体的な新加盟国の指名までには至らないだろう。

ロシア大統領のリモート参加こそが、加盟国間のぎこちなさを何よりも明白に示している――加盟国のうちブラジルはロシアのウクライナ侵攻を国連で非難し、中国、南アフリカ、インドは決議案採択を棄権した。

民間軍事会社ワグネルの指導者エフゲニー・プリゴジン氏の動画が投稿されると、アフリカにおけるロシアの影響力がさらに浮き彫りになった。6月にロシア国防省に対して暴動未遂を図ったプリゴジン氏は、世界各地でロシアの影響力を高めていくと語っていた。

各国はそれぞれの思惑から、BRICS拡大に慎重な構えを見せている。拡大問題が浮上したのは南アフリカが前回の議長国となった18年で、昨年中国が議長国を務めたリモート開催の首脳会議では、今後さらに検討を進めていくことで意見がまとまった。

中国と国境問題を抱えるインドは、強引な中国への懸念を共有する米国と次第に歩調を合わせていることから、大幅な反米路線への転換は望まないだろうと専門家は言う。

「気がつけば、インドは難しい立場に置かれている。BRICSのあり方が変わっていくことを望んでいないからだ」とケバルラマニ氏は言い、同国が昨年の首脳会議で拡大時期を遅らせる意向を示した点に言及した。この時インドが第一に求めていたのは、加盟基準の設定だった。

「しかし、果たしてどのぐらいの期間と範囲にわたって、また具体的にどんな効果を伴ってインドはBRICSの舵(かじ)取りを担えるだろうか……そう簡単にはいかないだろう。なぜなら最大の主体である中国が、ロシア寄りの姿勢を格段に強めているからだ」(ケバルラマニ氏)

BRICSが態勢強化ではなく拡張に走れば、加盟国間の立場の違いがますます鮮明になるだろう。「これまで以上に足並みがそろわず、機能しなくなる」可能性もあると同氏は付け加えた。

ブラジルを拠点とする国際関係研究センター「LABMUNDO」のコーディネーターを務めるルーベンス・デュアルテ氏いわく、ブラジルと南アフリカが拡大を支持する可能性もあるが、「露骨に反米路線を掲げる国の加盟には警戒感を強めるだろう」

そうした方向転換はBRICSとして望むものではないかもしれない。だが新規加盟の受け入れで、国際問題の協議に幅広い視点がもたらされる可能性もあると同氏は言う。

ただBRICSが拡大に踏み切り、国際社会での立場を強めていけば、欧米の国際的影響力を揺るがすさらに大きな変化を引き起こす事態も考えられる。

「BRICSが活発化するのに伴って、勢力を失う国も増えるだろう」(デュアルテ氏)

本稿はCNNのシモーン・マッカーシー記者による分析記事です。

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