Architecture

「ロボットビル」の大規模改修、保護活動家らは強く非難 タイ

約40年間、バンコク商業地区のランドマークとして親しまれてきた「ロボットビル」

約40年間、バンコク商業地区のランドマークとして親しまれてきた「ロボットビル」/Bob Henry/UCG/Getty Images

(CNN) タイの首都バンコクには「ロボットビル」の愛称で知られる高層ビルがある。その漫画のような2つの瞳は、約40年にわたり、バンコクの商業地区サトーンの街並みを静かに見つめてきた。

しかし大規模な改修工事により、ビルの表面がはがされ、コンクリートの骨組みがむき出しになっており、ブロックを積み上げたような特徴的なシルエット以外、それがロボットビルだと認識できない状態だ。

このビルの所有者であるシンガポールのユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)のタイ支社は、この改修工事の目的は、本社ビルのエネルギー効率の向上を図ると同時に、従業員がより快適に過ごせるようにするためだと説明する。

一方、保存活動家や建築家たちは、東南アジアのポストモダニズムの象徴とも言えるこのビルを劇的に変えることについて遺憾の意を表明している。

1986年に完成したこのロボットビルには、当時、新しいコンピューター技術を取り入れつつあった銀行業界の変化を反映させる意図があった。

このビルを設計した建築家スメット・ジュムサイ氏(84)は、自分の息子が持っていたおもちゃのロボットからヒントを得た。ジュムサイ氏は、現代のタイ建築界の重要人物とされており、タイ政府から「国家芸術家」にも認定された。

すでに引退しているスメット氏は、CNN宛てのメールの中で、この改修工事は、スメット氏の作品であるロボットビルを「汚損」する行為であり、「大企業の無知と傲慢(ごうまん)さ」を露呈する「壊滅的な声明」だと非難した。

2022年に撮影された「ロボットビル」の外観/Chainwit./Wikimedia Commons
2022年に撮影された「ロボットビル」の外観/Chainwit./Wikimedia Commons

スメット氏は今年3月、UOBタイランドに手紙を書き、ロボットビルの2つの瞳など、「当初の象徴的特徴」が失われることへの懸念を示し、手遅れになる前に計画を再考するよう促した。

それに対しUOBは、ロボットビルが「重要なランドマーク」であることは認めつつも、計画されている改修は、「(ロボットビルの)伝統や歴史に敬意を表しつつ、ビルを新時代に導く」ためのものだと返答した。

同行はまた、改修後はビルのオリジナル版のレプリカを「ロビーの一角」に設置しておく方針だと言い添えた。

ロボットビルはもともとアジア銀行のために設計されたが、2005年にUOBタイランドが取得した。UOBによると、今回の改修では、「環境の持続可能性の促進」と「従業員の福祉の向上」に重点を置いているという。ビルは25年に再オープンする予定。

UOBは、ビルの再設計により電力消費を最低15%削減するとしている。ビルのエクステリアをガラス張りにすることにより、人工照明の必要性を最小限に抑え、照明に関連する炭素排出量を減らすという。

「高度な」デザイン

20階建てのロボットビルは、上の階に行くにつれて床面積が段階的に小さくなっており、この構造がこのビルの特徴的なジグザグの形状を生み出している。また象徴的なまぶたのある「瞳」は、上階に2室あるエグゼクティブ・スイートの窓として機能し、通信用や避雷針として使用されるアンテナや、ビルの側面を飾っている大きな金属製のナットが、ビル全体をおもちゃのように見せている。

ロボットビルは、バンコクの急速な都市開発の中で生き残った数少ないランドマークの一つだ。バンコクでは、1997年のアジア金融危機から回復した後、建築ブームが起こり、サトーンなど複数のエリアが様変わりした。タイ高層ビル・.都市居住協議会(CTBUH)によると、バンコクは世界の高層ビルの多い都市ランキングの14位で、高さ150メートル以上の高層ビルが112棟あるという。

改修開始後の外壁の様子=2023年8月撮影/Kocha Olarn/CNN
改修開始後の外壁の様子=2023年8月撮影/Kocha Olarn/CNN

現代建築の保存活動を行っている非営利組織ドコモモ・インターナショナルのタイ支部は、間もなく発表するタイの「最も優れた」建築物20選のリストの中にロボットビルが含まれていることを明らかにした。

ドコモモのポンクワン・ラサス会長は、4月に公開されたUOBタイランドに宛てた公開書簡の中で、ロボットビルは後期モダニズムからポストモダニズムへの移行を示す「歴史的指標」だと述べた。

ポストモダニズムとは、装飾が施されたファサード(建物の正面)、凝った装飾、さらに「形態は機能に従う」というモダニズム建築の信念を否定することで知られる建築界のムーブメントだ。

バンコクに拠点を置く映画製作者で、現在ロボットビルに関するドキュメンタリー映画を制作しているダナ・ブルワン氏は、保存活動家たちの嘆願もむなしく、ロボットビルは「その魂を失ってしまった」と嘆いた。

同氏はビデオ通話でCNNの取材に答え、「我々は、誰もが認識している以上に重要な何かを失ってしまった」と指摘した。

ロボットビルは、人々からは「奇抜な」建物と思われていたかもしれないが、当初のデザインは「高尚で洗練された感じがした」とブルワン氏は語る。

「無論、楽しさや奇抜さもあったが、とにかく美しかった」とブルワン氏は付け加えた。

「建てられた当時は(サトーン地区で)最も高いビルの一つだった」「現在では他と比べれば小さなものだ。遙(はる)かに高いガラスと鋼鉄の建物が周りを取り囲んでいる。それがまた一段とこのビルを特別な存在にしている」(ブルワン氏)

象徴的なまぶたのある「瞳」は、上階に2室あるエグゼクティブ・スイートの窓として機能する/John S Lander/LightRocket/Getty Images
象徴的なまぶたのある「瞳」は、上階に2室あるエグゼクティブ・スイートの窓として機能する/John S Lander/LightRocket/Getty Images

政府の態度にも変化

しかし、バンコクの多くの人々は、ロボットビルに対しブルワン氏ほどの愛着は持っていないかもしれない。今年4月からドコモモを含む複数の保存活動団体が嘆願署名活動を開始したが、この記事の執筆時点で1700弱の署名しか集まっていなかった。

一方、タイにおける保存に関する活動や法律は、主として国に古くからある遺産に向けられている。

活動家や建築家たちは、ロボットビルに関してはすでに手遅れかもしれないが、他の重要な現代建築が同様の運命を回避できるかもしれないと考えている。

ドコモモのポンクワン氏も、UOBタイランドに宛てた手紙の中で、「約20年間、努力を重ねた結果、政府セクターにも変化が見え始めている」と述べている。

一方、ブルワン氏は、バンコクの他のランドマークが保存されるとすれば、より広範な文化的変革が必要と考えている。

ブルワン氏は、新しさを受け入れた結果、ロボットビルのような象徴的な建物の一部が忘れ去られてしまったのは遺憾だと述べた。

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