サウジとイランが和解、それでもイエメンでの戦争終結はまだ先か

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イエメンの都市タイズで、数年に及ぶフーシの包囲攻撃に対する抗議デモを行う人々/Ahmad Al-Basha/AFP/Getty Images/File

イエメンの都市タイズで、数年に及ぶフーシの包囲攻撃に対する抗議デモを行う人々/Ahmad Al-Basha/AFP/Getty Images/File

UAE・アブダビ(CNN) 中東のライバル同士であるサウジアラビアとイランが今月、外交関係を正常化することで合意した。驚きをもって迎えられたこの合意は、サウジによるイエメンでの戦争の終結につながるかもしれないとの期待を生んだ。7年以上続くイエメン内戦では民間人数万人が死傷。国は荒廃している。

しかし専門家らは、たとえサウジが軍事作戦の終了に合意しても、イエメンでの戦争が終わるわけでは全くないと警鐘を鳴らす。むしろ一段と激しさを増す可能性もあるという。

イエメン国内の派閥間の争いから始まった内戦は2015年に全面戦争に発展。サウジの主導する有志連合が軍事介入し、追い詰められた政権側を支援するに至った。しかしその後はイランとサウジの代理戦争の様相を呈し、イエメンは中東での勢力拡大を狙う両国の争いの舞台と化した。イランはイエメンの反政府武装組織「フーシ」への軍事援助を行っているとされる。

だがここへ来て、サウジとイランの両政府は矛を収める意向を表明。関係正常化の合意には、イエメンでの対立緩和についての条項も含まれている可能性が高いと、専門家らは指摘する。

ベルギー・ブリュッセルを拠点とするシンクタンク、国際危機グループのイエメン担当上級アナリスト、アフメド・ナギ氏は、和解によりイエメンを巡る地域の相関関係は変化する可能性があるものの、国内の紛争が速やかに解決する公算はそう大きくないと分析する。

CNNの取材に答えた同氏は「紛争の地域的な要素に変化が見られるかもしれない」「しかし事態は局地的なレベルでより困難なものとなる可能性がある。この紛争は本質的に国内のものであって地域的なものではないからだ」と述べた。

その上で、国連は現在イエメンでの停戦延長に注力しているが、局地的な変化が紛争にもたらされるまでには長い時間がかかるかもしれないと付け加えた。停戦は10月の正式な更新は失敗に終わったものの、昨年4月からおおむね維持されている。

イエメンは10年以上にわたって内戦に苦しんでいる。12年、抗議デモによって当時のサレハ大統領が失脚。前年には民主化要求運動の「アラブの春」が中東全域を席巻していた。

14年にはイランの後ろ盾を受けるフーシが首都サヌアを制圧。ハディ大統領を退けると、翌年サウジ率いる有志連合が軍事介入し、国際的に承認されたハディ政権の復帰を図った。以来、フーシと有志連合は泥沼の膠着(こうちゃく)状態にはまり込んでいる。

ここまでフーシは、イエメンの派閥間の協議を主催しようとするサウジの申し出を拒んできた。サウジ政府は紛争の当事者であり、誠実な仲介役にはなり得ないというのが理由だ。しかし現在は交戦中の現地のグループを避けて、サウジ及び国連と直接対話している。国連は数年にわたり、和平合意の仲介を目指してきた。

アラブ首長国連邦(UAE)の支援を受け、イエメンの南部を支配下に置く分離独立派組織、南部暫定評議会(STC)はCNNの取材に声明で答え、自分たちは南部の問題に関してサウジとフーシのいかなる合意にも縛られることはないと主張。管轄や安全保障、資源分配をめぐる問題でもそれは変わらないとした。

その上で「サウジ政府はあらゆる利害関係者をこれらの協議から締め出した」としつつ、交渉が停戦の延長に限定され、サウジの安全保障上の懸念のみを扱うものになるならこれを支持するとも付け加えた。

UAEの当局者の一人はCNNへの声明で、フーシの民兵組織と直接関係を結ぼうとするサウジの取り組みを国として支持すると述べた。また国連の支援の下、イエメンの危機の政治的解決に向けた取り組みを進めるサウジの役割に感謝を表明した。

UAEはサウジ主導の有志連合のメンバーだが、19年にはイエメンから部隊の一部を撤退させた。

専門家の中では、サウジが直ちにイエメンから撤退すれば重武装したフーシが勢いづき、自由に勢力を拡大する可能性があるとの見方も出ている。

フーシが運営するニュースチャンネルで編集を務め、組織そのものにも近いタレブ・ハッサニ氏はCNNの取材に答え、フーシは「現在サウジとUAEがどのように紛争から離脱し得るかに注目している」と明かす。念頭にあるのはイエメンを有志連合による侵攻の前、つまりフーシが首都を制圧した当時の状態とすることだ。

ハッサニ氏によると、有志連合が撤退すれば、イエメンは中立派の支援を受けた「迅速な調停」を実現させるか、そうでない場合は再度内戦に陥ることになる。どちらに転んでも、フーシが勝者となる公算が大きいという。

国際危機グループのナギ氏もこの見解に同意。「フーシは自分たちが戦争に勝利すると感じている」と指摘する。

戦後のイエメンの姿は

国連は現在、イエメン全土での停戦に向けて動いている。足がかりとなるのは、包括的かつ持続的な政治決着へと向かう現行の勢いだ。

戦後のイエメンがどのような姿になるのかについては、複数のシナリオが浮上している。STCが望むのは、1990年の状況以前に戻ることだ。当時の同国は北イエメンと南イエメンに分かれていた。

分割の見通しを拒絶するフーシはイエメンの統一を主張。自分たちが首都を支配下に置くとしている。サウジとUAEはこのシナリオを受け入れない公算が大きく、戦争状態に逆戻りしかねないと専門家らはみている。

「サウジが賭けているのは、イラン並びにフーシと取り決めを交わせばイエメンから手を引けるだろうということだ。しかし、それはよく言っても近視眼的だ」と、米ワシントンのアラブ湾岸諸国研究所(AGSIW)の非常駐研究員、グレゴリー・ジョンソン氏は書いている。同氏は国連イエメン専門家パネルの元メンバーでもある。

「フーシにイエメンでの敵対勢力との戦いを止めるつもりはなく、サウジとどのような協定を結ぼうが問題にはならない」「そうした現実は(サウジ)王国にとって危険だ。気づいた時にはまたしてもイエメンでの紛争に引きずり込まれているという事態になりかねない」(ジョンソン氏)

前出のUAEの当局者は、「イエメンの統治と領土的一体性はイエメンの関係者自身が決定しなくてはならない問題だ」とした上で、「UAEは国際社会による和平に向けたあらゆる取り組みに尽力する。それらが政治的な手続きの再開につながる」との見解を示した。

王立国際問題研究所の中東・北アフリカプログラムで研究員を務めるファレア・ムスリミ氏はCNNの取材に答え、サウジの側にフーシに対する信頼はほぼないと指摘。フーシをイエメンにおける政治的なプレーヤーと認めたあげく、結局は全ての約束を反故(ほご)にされることを懸念している可能性があると述べた。

「当然ながら、戦争は始めるよりもやめる方が格段に難しい」(ムスリミ氏)

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