ANALYSIS

AUKUS、原子力潜水艦は中国の対抗手段として間に合うか?

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米サンディエゴで原子力潜水艦に関する協定を発表する米英豪の首脳ら/Eric Thayer/Bloomberg/Getty Images

米サンディエゴで原子力潜水艦に関する協定を発表する米英豪の首脳ら/Eric Thayer/Bloomberg/Getty Images

オーストラリア・キャンベラ(CNN) 秘密裏に進められてきた米英豪の潜水艦共同開発が公表されてから1年以上が経過した13日、3カ国は急速に軍事拡大を進める中国への野心的な対抗策の詳細を明らかにした。

数十年規模にわたるAUKUS(オーカス)協定により、3カ国は国内の技術・労働力・資金を結集して最上級モデルの原子力潜水艦艦隊を共同建造し、単独では実現不可能な規模の戦力をインド太平洋に配備する。

だが長期的日程と莫大(ばくだい)な費用から――オーストラリアだけでも数千億ドルにのぼる――数々の疑問が浮かび上がる。各国の政権、おそらくは最優先事項も変わる中、果たして関係国の計画は今後数十年で「最適な道筋」からどの程度逸脱するだろうか?

米国のジョー・バイデン大統領、オーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、英国のリシ・スナク首相は13日の共同声明で、「歴史的な」協定はこれまで3国が行ってきた「世界各地の平和と安定、繁栄の維持」に向けた努力を基盤とするものになると述べた。

計画では、まず年内にオーストラリア軍要員が米英の潜水艦および軍事基地で順次訓練を受け、約20年間以内にオーストラリア初の原子力潜水艦を機動させたい考えだ。

だが、サンディエゴ湾の合同会見で3カ国首脳が発表した一連の段階からもわかるように、実現するまで先は長い。

潜水艦の段階配備

オーストラリア兵の訓練と合わせて、2023年からは米国の原子力潜水艦がオーストラリアに寄港する回数も増える予定だ。さらに3年後には、英国所有の原子力潜水艦の寄港も増える。

27年には、数十億ドル規模の改修工事が予定されている西オーストラリア・パース近郊の軍港HMASスターリングに、米国と英国の潜水艦が持ち回りで停留する。

その後30年代初頭には、オーストラリアが議会の承認を得た上で、米国からバージニア級潜水艦を3隻購入。さらに2隻を追加購入するオプションも盛り込まれている。

同じく30年代には英国が、アスチュート級潜水艦に米国戦闘システムと兵器を組み込んだAUKUS共同開発の原子力潜水艦の建造に着手する予定だ。

それからほどなく40年代初頭には、オーストラリア製のAUKUS共同開発潜水艦第1号が同国海軍に引き渡される。

紙の上に示された重要ポイントだけ見れば、計画はいたって単純そうにみえる。

だが、計画は実に複雑な点が絡んでおり、3カ国間で前例のない規模の投資と情報共有が求められる。各国首脳の政治生命は、対抗相手として想定する人物、すなわち中国の習近平(シーチンピン)国家主席よりも短い。

先週、中国政界のエリートらは習氏の異例の3期目就任を支持し、習体制を確固たるものにした。これにより習氏は、1949年の建国以来もっとも長く共産中国の指導者を務めることになる。

当代でもっとも自己主張の強い中国指導者は、これまで軍事力を拡大し、インド太平洋の隅々に中国の影響力をいきわたらせようとして、西側大国に揺さぶりをかけてきた。

ニューサウスウェールズ大学のリチャード・ダンリー氏いわく、長年対策を講じてこなかったオーストラリアは対応を迫られていた。協定は、実行可能な計画を慌てて模索した印象が強いという。

「これは最後の賭けだ。オーストラリアはもっともらしい策をひねり出し、何とか難関を切り抜けた」

中国の軍隊を「鋼鉄の長城」にすると明言した習近平氏/CCTV
中国の軍隊を「鋼鉄の長城」にすると明言した習近平氏/CCTV

アジア地域の反応

13日の発表に先駆け、2021年の第1回発表の衝撃を避ける意味合いもあって、外交措置が急ピッチで進められた。当時オーストラリアのスコット・モリソン首相はフランス製潜水艦の購入をめぐる900億豪ドル(現在のレートで約7兆9000億円)相当の協定を反故(ほご)にし、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は首相から騙(だま)されたと非難した。

フランスとの協定ではもっと早いタイミングで新たな潜水艦が引き渡されたはずだが、こちらは従来のディーゼル型潜水艦で、最新型の原子力潜水艦ではない。

オーストラリアは当時の外交騒動の教訓から、アルバニージー首相も含む政府高官が同盟国や近隣諸国に60回前後も電話をかけ、発表前に計画を通達したとオーストラリアのリチャード・マールズ国防相は語った。

その中に中国は含まれていなかった。

バイデン氏は13日、習氏と近く会談するつもりだと報道陣に語ったが、具体的な時期については触れなかった。また、習氏がAUKUSの発表を攻撃ととらえる可能性は心配していないとも付け加えた。

この発言は、3カ国がアジアの軍拡競争を煽(あお)っていると非難する中国側の心情とは対照的だ。

中国外交部の汪文斌報道官は13日の定例会見で、AUKUS関係国は「国際社会の懸念を度外視し、危険かつ誤った方向に歩みを進めた」と述べた。

同報道官は今回の協定について、「軍拡競争を促進し、国際的な核拡散防止制度を軽視し、地域の平和と安定を損なうものだ」と述べた。

シドニー大学米国研究センターで外交政策と国防を担当するピーター・ディーン氏に言わせれば、中国の主張は度を超している。

「インド太平洋で軍拡競争があるとすれば、競争している国は唯一つ、中国だ」と、同氏はCNNに語った。

米国は最大5隻のバージニア級原潜を豪州に売却する計画だ/General Dynamics Electric Boat/US Navy
米国は最大5隻のバージニア級原潜を豪州に売却する計画だ/General Dynamics Electric Boat/US Navy

アジア地域の他の国々は、自国の領海でAUKUSの存在感が高まれば、思いもよらぬ紛争にいたる可能性を懸念しながら、この計画を見守っている。こう語るのは、オーストラリア国立大学戦略防衛研究センターのリスティアン・アトリアンディ・スプリヤント氏だ。

「米英の潜水艦が代わる代わるオーストラリアに頻繁に姿を見せるようになれば、中国にとってもこれら艦艇を監視する必要が高まり、結果として海上での事故や事件が起きる可能性も高くなる」(スプリヤント氏)

バイデン氏は13日、今回の協定は「原子力についての話し合いであり、核兵器ではない」ことについて、「世界の理解」を求めると改めて強調した。

ホワイトハウスのファクトシートによれば、米英は燃料補給の必要がない密閉式の「溶接パワーユニット」でオーストラリアに核物質を提供するという。オーストラリアは核廃棄物を国防省所有地で自己処理すると約束している。だが実際に廃棄処理が行われるのは、50年代末にバージニア級潜水艦が引退した後だ。

オーストラリアは核物質を核兵器レベルにまで濃縮する能力は保有していないとし、今後も保有するつもりもなく、国際原子力機関(IAEA)の不拡散原則を順守する意向を明らかにしている。

原子力潜水艦が必要な理由

オーストラリアは今回のAUKUS計画で、長期的かつ高性能の潜水艦なしではインド太平洋で中国に対抗する準備が到底整わないことを認めた。

「極めて複雑かつ危険だ」と、ニューサウスウェールズ大学のダンリー氏は言う。

「だが、21年に最初の発表と決定がなされた時点では、オーストラリアにはあまりいい選択肢が残されていなかった。できる限り最善の案を出したのだと思う」と同氏は付け加えた。

これほどの規模のプロジェクトには課題もある。具体的には、流動的な部分が多く、日程や費用の面で波及効果が生じる恐れがある点だ。

協定には、オーストラリアのコリンズ級潜水艦の運用期間を40年代まで延長するなど、原子力への移行に向けた港や艦艇の改修も盛り込まれている。

「改修のためにかなり長い時間潜水艦を陸揚げしなければならない。もし計画の遅延や問題が五月雨的に起これば、オーストラリアの潜水艦が不足して、海軍能力の増強はおろか、現状維持さえ難しくなる可能性もある」(ダンリー氏)

関係3カ国が艦隊増強にいそしむ中、十分な数の兵士を訓練することも大きな課題になるだろうとダンリー氏は言う。

安全保障の要素を帯びる役割である点は、熟練の要員の層が必然的に薄くなることを意味する。1回の任務で数カ月間も水中生活を送る訓練兵の確保に3国は必死で取り組んでいるが、競争力の激しい労働市場で売り込むのはおそらく難しいだろう。

加えて資金の問題もある。

オーストラリア政府は毎年国内総生産(GDP)の0.15%を充て、今後30年間かけて最大2450億米ドル(3680億豪ドル、約32兆円)を計上するとしている。

戦略国際問題研究所(CSIS)で欧州問題を担当するマックス・バーグマン氏によれば、結局のところ今回の協定では健全な経済が必要になる。だが3カ国はいずれも生活費の圧力に追われている状態だ。

「英国経済はかんばしくない。計画の一環として今後欠かせないのは好調な経済だ。必要な支出の水準を維持できるだけのものが求められる」と、同氏は記者団に語った。

長い道のり

中国トップの地位に生涯留まろうとする習氏は、英豪が最新のAUKUS潜水艦をお披露目するときには90代に近づきつつあるとみられる。

その頃には、インド太平洋の情勢が大きく様変わりしている可能性もある。

現在69歳の習氏は、台湾問題を後世に持ち越すわけにはいかないと明言している。中国共産党は、民主主義下で自治を行う台湾を一度も支配したことがないが、それでも主権を主張している。

目下のところ、オーストラリアは米国議会が党派を超えてこの計画を今後も支持するだろうと確信している。今回の計画では、米国からの核物質の移動や兵器関連機密の継続的な移行が頼みの綱になるだろう。

マールズ国防相は13日、「かなりの確信をもって協定を締結した」と語った。

だがリスクはいまだ残る。この先米国でドナルド・トランプ前大統領のような国内志向の指導者が出てくれば――あるいはトランプ氏本人が再選を果たせば――協定が危機にさらされる可能性もある。

今回の協定には、安全保障環境に関する中国の公算を変える相互努力以上の意味合いがある。こう語るのは、CSISの上級顧問を務めるチャールズ・エデル氏だ。

「3カ国の産業造船能力を変革すること、これをもって技術力を加速し、インド太平洋における力の均衡を変えることがねらいだ。そして最終的には、米国がもっとも近しい同盟国といかに連携し、力を与えていくのか、そのモデルをも変えることにある」(エデル氏)

本稿はCNNのヒラリー・ホワイトマン、アンガス・ワトソン両記者による分析記事です。

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