OPINION

米陸軍退役大将に聞く、ウクライナでの戦争はどのように終結するか

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ロシア軍の陣地に向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士=15日、ウクライナ・ドネツク州/Oleksandr Ratushniak/Reuters

ロシア軍の陣地に向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士=15日、ウクライナ・ドネツク州/Oleksandr Ratushniak/Reuters

(CNN) ウクライナでの戦争は膠着(こうちゃく)状態に陥っているが、変化がないわけではない。米国のデビッド・ペトレイアス退役陸軍大将の予測によれば、戦争は今年、異なる様相を呈するようになる。双方が著しい攻勢を仕掛ける公算が大きいためだ。全般的に、戦争では引き続きロシア軍の基本的な弱点が浮き彫りになる。かつてロシア軍と言えば、世界で最も有能な軍隊の一つに数えられていた。

ペトレイアス氏は数十年にわたって戦争を研究し、実際的な応用にも取り組んできた。アフガニスタンとイラクの戦争では米軍と有志連合の司令官を務め、その後中央情報局(CIA)の長官にも就いている。米プリンストン大学で博士号を取得した論文のテーマは、ベトナム戦争及び米軍がそこから得た教訓についてだった。英歴史家、アンドルー・ロバーツ氏との共著「Conflict: The Evolution of Warfare from 1945 to Ukraine(仮訳『紛争:戦争の進化 1945年からウクライナまで』)」が、近日刊行予定だ。

ロシアによるウクライナ侵攻から1年となる2月24日を前に、筆者はペトレイアス氏に対し、この戦争のより幅広い教訓についての検討を求めた。

同氏によればロシアが多くの戦闘で敗れているのは、同軍の行動様式や原則、組織としての構造、訓練、装備に幾つもの機能不全があるからだ。同氏は今回の戦争について、あらゆる点で史上初のオープンソース情報に基づいた戦争だと指摘しつつ、別の側面では冷戦時代の戦術や兵器が用いられているとする。ただ兵器の機能は高度化しており、ドローン(無人機)や精密兵器も使われている。

ロシア軍がハルキウ攻撃に使用したミサイルの残骸/Aleksey Filipov/AFP/Getty Images
ロシア軍がハルキウ攻撃に使用したミサイルの残骸/Aleksey Filipov/AFP/Getty Images

ペトレイアス氏はバイデン政権のアフガニスタン撤退を批判していたが、ウクライナに関しては論調を異にする。大統領のチームは非常に目覚ましい仕事ぶりで北大西洋条約機構(NATO)と西側諸国を主導し、ロシアの侵攻に立ち向かったというのが同氏の見方だ。とはいえ何度か、特定の兵器システム(西側の戦車や長距離精密兵器など)の供与を巡っては、実際よりも迅速な判断を下すのが望ましかったとするケースもあった。

ペトレイアス氏の見るところ、米国と西側によるウクライナへの支援は巨大な規模だ。つまりロシアが新たな攻勢を準備するに当たり数十万の兵士をウクライナへ送り込む可能性があるにせよ、彼らは今後数カ月のうちにより練度が高く組織化されたウクライナ軍兵士と対決することになる。しかも後者は米国製の長距離ミサイル、装甲車両、膨大な量の弾薬で武装している。だから同氏は依然として、ウクライナに勝機があるとの立場を崩さない。

一方でペトレイアス氏が指摘するように、ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻を通じて「ロシアを再び偉大に」しようと試みるものの、実際にここまで再び偉大にできたのはNATOの同盟の方というのが実情だ。

我々は電子メールでインタビューを行った。

バーゲン:戦争で勝利しているのはどちらか?

ペトレイアス:ロシアではない。ロシアは結局のところキーウ(キエフ)、スムイ、チェルニヒウ、ハルキウの各戦闘で敗れている。南部沿岸の残りの地域も掌握できていない(オデーサの主要な港はおろか、ミコライウさえ突破していない)。

ハルキウ州での戦果も失った。またヘルソン州でドニプロ川西岸に唯一展開していた部隊も、撤退を余儀なくされた。ウクライナ軍がそれらの部隊との重要な連結部となる橋を通行不能にしたからだ。部隊を支援する本部も、兵站(へいたん)の拠点も排除された。彼らはドニプロ川の東岸に位置する残りのロシア軍から孤立した。

とはいえ、戦線はドニプロ川西岸から部隊が撤退した昨秋以降、かなり固定化している。他方でロシア軍は過酷な戦いを繰り広げつつじりじりと、非常に多くの犠牲を出しながら、南東部の要衝バフムート周辺の村落で戦果を挙げてもいる。これを受けウクライナ軍は追加の軍勢を送り込み、圧力のかかる中で周辺地域を防衛せざるを得なくなっている。

壊れた橋を通ってキーウ(キエフ)近郊のイルピンから避難する住民/Aris Messinis/AFP/Getty Images
壊れた橋を通ってキーウ(キエフ)近郊のイルピンから避難する住民/Aris Messinis/AFP/Getty Images

つまり戦況は、現時点で事実上の膠着状態だ。それでもロシアは複数の地域で犠牲の多い攻撃を仕掛けており、両軍ともに戦力を増強し、冬の後半や春もしくは夏に予想される攻勢に備えている。ロシア軍は冬季中に攻勢に出る公算が大きく、ウクライナの場合は春か夏になるとみられる。

大変に有能で練度が高く、装備も充実した部隊をその時までに用意できた側が、最も重要な戦果を挙げるだろう。それに関して私はウクライナに賭ける。

バーゲン:戦争の未来の姿を考えた時、ウクライナ戦争から得られる教訓は?

ペトレイアス:我々が認識すべきだと思うのは、いくつか例外はあるものの、ウクライナは戦争の未来の姿ではないということだ。大部分において、それはかつて我々が目にしていたと思われる状況に他ならない。仮に冷戦が1980年代半ば、実際の戦闘へと激化していたなら、現在のような戦争が繰り広げられていただろう。使用されているのはほとんどが冷戦時代の兵器システムだ(一部は近代化されているが)。

しかしながら、戦争の未来の姿がどのようなものになり得るか、その兆候もある程度は垣間見える。ウクライナ軍はドローン(飛行範囲や性能の面で控え目な機体のみだが)を駆使し、空中からロシア軍の本部や他の標的を特定。米軍が供与した精密兵器による攻撃を行っている(これらの兵器の射程は、現行の70~80キロから150キロに倍増する予定。最近供与が発表された米国製の精密兵器が到着するとそうなる)。

他にも我々は、西側の供与する精緻(せいち)な自動追尾機能を備えた携帯型の対戦車及び対空ミサイル、中距離対艦ミサイルの選択的な使用の威力も目の当たりにしている。ロシア軍によるサイバー攻撃の事例も確認しているが、こちらは大きな成功を収めるには至っていない。

恐らく最も顕著な特徴は、当然ながら、ある一定の背景、状況の中で起きた史上初の戦争だったという点だ。つまりスマートフォンやインターネット接続、ソーシャルメディア、他のウェブサイトが広範に存在する中で戦われている最初の戦争ということになる。

それでもやはり、これらは先進国同士の戦争の未来に関する予測の手掛かりでしかない。そのような紛争においては、情報や監視、偵察のシステムが比較にならないほど高性能になっており、精密兵器の射程、速度、爆発力も格段に増しているだろう。

そしてそこには、比較にならないほど膨大な数の、格段に高性能化した無人システム(遠隔操作型もあればアルゴリズムによって稼働するタイプもある)があらゆる領域に存在しているはずだ。空のみならず海上と海中、宇宙、そしてサイバースペースも。そうしたシステムは個別にだけでなく、群れを成して作戦行動に従事するだろう!

またあらゆる情報及び打撃の能力が、先進的な指揮・統制・通信・コンピューターシステムによって統合、連結されることになる。

ロシアがキーウ攻撃に使用した、イラン製とみられるドローンの残骸に目を向ける住民/Vladyslav Musiienko/Reuters
ロシアがキーウ攻撃に使用した、イラン製とみられるドローンの残骸に目を向ける住民/Vladyslav Musiienko/Reuters

冷戦時代の格言を思い出す。いわく「見られれば、撃たれる。撃たれれば、殺される」。実のところ、当時の我々は、この格言を真に「作動させる」のに必要な偵察用アセットや精密兵器などの能力を有していなかった。将来はしかし、とにかくあらゆるものについて、それこそ全てのプラットフォーム、基地、本部が視認されるようになる。そして攻撃や破壊の危険に晒(さら)されるだろう(実質的な防御のためのアセットを強固にしない限りは)。

こうした想定が強調しているのは、言うまでもなく、無数の取り組みによって我々の軍隊やシステムを変革していかなければならないということだ。将来の紛争を抑止するには、我々の能力とそれを行使する意志に何の問題もないことを保証しなくてはならない。同時に可能な限りの手段を駆使し、大国同士の競争が決して紛争へと発展しないように努めなくてはならない。

バーゲン:数年前には、NATOを時代遅れだという人もいた。そうだろうか?

ペトレイアス:この問いは、現状にまつわる皮肉の一つに行き着く。プーチン氏は「ロシアを再び偉大に」しようとしている。ところが同氏は、NATOを再び偉大にしてしまった。今や2つの極めて有能な、歴史的には中立だった国々(フィンランドとスウェーデン)が、NATOへの加盟を目指している。既存の加盟国は防衛費を大幅に増やした。最も顕著なのがドイツだ。NATO軍はバルト諸国と東欧で増強され、加盟国同士の結束は冷戦終結以降最も強固になっている。

プーチン氏のおかげで、NATOを「脳死状態」としたマクロン仏大統領の2019年後半の評価は、単に時期尚早だったという話では済まないほどになった。

バーゲン:ロシア軍のウクライナでの戦いぶりに驚きはあるか?

ペトレイアス:そこまでの驚きはない。侵攻直前に刊行されたアトランティック誌とのインタビューで、私はロシア軍が相当な困難に直面すると予想した。また19万ほどの兵力からなる侵攻部隊は、実際に必要になるとみられる規模を大幅に下回っているとも指摘した。ウクライナ軍が私の想定通り、断固とした意志を持って戦闘に臨めばなおさらだ(彼らの実際の覚悟はそれ以上だった)。

しかしその点を別にすれば、私でさえもロシアの戦いぶりがいかに悲惨なものになるかは予見できなかった。

ウクライナ東部ドンバス地方でフランス製の自走砲を発射するウクライナ軍の兵士/Aris Messinis/AFP/Getty Images
ウクライナ東部ドンバス地方でフランス製の自走砲を発射するウクライナ軍の兵士/Aris Messinis/AFP/Getty Images

バーゲン:ロシアの失敗の原因は、情報の失敗だろうか? 徴兵の失敗か? ロシア軍の組織文化の失敗か? それらの全てなのか?

ペトレイアス:全てであり、他にもある。挙げればきりがない。質の低い軍事作戦の策定、全くもって不適切な訓練(ウクライナの北部、東部、南部の国境に配備されていたあの数カ月間、彼らはいったい何をしていたのか?)、質の低い指揮・統制・通信と不適当な規律(加えて戦争犯罪や地元住民への虐待を見逃す組織文化)、貧弱な装備(内部で発火すると砲塔が吹っ飛ぶ戦車が典型例だ)、不十分な兵站能力、諸兵科連合(地上及び航空戦力の全てを組み合わせて効果的に使用する)で成果を出す能力の欠如、不適切な組織の構造、職業意識の高い下士官集団の不在、トップダウン型の命令システムで下位の人材には自発性が生まれず、汚職の蔓延(まんえん)は軍のあらゆる側面を弱体化させる。支えとなる軍産複合体にも害が及ぶ。

バーゲン:では、ロシアを「強国」として懸念する必要はもはやないのか?

ペトレイアス:それは全く違う。ロシアには依然として巨大な軍事力があり、今なお紛れもない核大国だ。同時に膨大なエネルギー、鉱物、農産物の恩恵を受けている国でもある。人口(約1億4500万人)は、次に大きい欧州の国々の2倍に迫る(ドイツとトルコの人口はそれぞれ8000万人をやや上回る程度)。

さらに今もってこの国を率いる収奪政治の独裁者は、数え切れないほどの不平不満と行き過ぎた報復主義的見解を唱えている。それらは本人の意思決定に深刻な悪影響を及ぼす。

バーゲン:スターリンが言ったともされる言葉で「量はそれ自体に質を有する」というのがある。ロシアは人口でウクライナを圧倒的に上回る。これは長期にわたってウクライナ戦争に重大な差を生み出すか?

ペトレイアス:プーチン氏が全ロシア国民を首尾よく動員すれば、そうなるかもしれない。しかしこれまでのところ、動員は部分的なものだ。プーチン氏は全面的動員に対して国からどんな反応が出るか、不安を感じているように見える。実際、報道によると、最近の予備役の部分動員令を受け、国外に脱出したロシア人男性の方が動員に応じた男性よりも多かったという。

そうは言っても推計では、新たな徴集兵と動員された予備役の合わせて最大30万人が前線に送られている。さらに最大10万~15万人もこれに続く見通しだ。これは取るに足らないことではない。量は確かに重要だからだ。

ポーランドで独製戦車の訓練を受けるウクライナ軍兵士を取材するCNNのニック・ロバートソン記者/CNN
ポーランドで独製戦車の訓練を受けるウクライナ軍兵士を取材するCNNのニック・ロバートソン記者/CNN

バーゲン:しかしこの場合、ナポレオンの言ったことは正しいのではないか。「戦争において、士気は物質的要素の3倍の重要性を持つ」。ウクライナ人の方が、士気が高いように思える。

ペトレイアス:それは極めて大きな要素だ。ウクライナ人は現行の紛争を自分たちの独立戦争だと考えており、そのように対応している。ゼレンスキー大統領は英国のチャーチルのように、全ウクライナ人を自国への奉仕に結集させている。国の存亡をかけて戦う時だというわけだ。

だからウクライナ人には、自分たちが何のために戦うのかが分かっている。一方で多くのロシア人兵士にも同じことが当てはまるかどうかは判然としない。彼らのうち、ロシア連邦内の民族的、宗教的少数派の占める割合は不釣り合いに高くなっている。

さらにウクライナはここまで、ロシアよりも徴集や訓練、装備の供与、組織化、追加の配備で優れた仕事をしている。それが可能なのは米国と他のNATO加盟国、西側諸国が尋常ではない支援を行っているからだ(米国は今回の侵攻開始以降、260億ドルを超える規模の武器、弾薬、その他安全保障面の支援を提供している)。このことを示すより多くの証拠は今後、ウクライナが春もしくは夏に反転攻勢を仕掛ける際、明らかになると思う。

バーゲン:この戦争で、ウクライナの成功の鍵となったテクノロジーとはどのようなものか?いくつかの新味のあるテクノロジーが重要性を証明したように思える。ロシアが通常の電話システムを部分的に破壊し妨害した後も、イーロン・マスク氏の提供する衛星インターネット端末「スターリンク」により、ウクライナ人の通信網は維持された。米国が供与した高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」は、ロシア側の標的に大打撃を与えた。顔認識テクノロジーの「クリアビューAI」は、米警察の一部で使用され物議を醸したが、この技術によりウクライナは戦場でのロシア軍兵士らの特定を可能にしている。トルコの無人攻撃機「バイラクタルTB2」は、ロシアの標的にとって壊滅的な被害を与えることを証明した。また安価な商業用ドローンも、ウクライナ側が標的を見つけるのに寄与している。

ペトレイアス:そうしたあらゆるテクノロジーが極めて重要であることが分かった。ウクライナ人は途方もないスキルを見せつけて多種多様な技術並びに商用アプリケーションを導入し、情報収集や標的設定をはじめとする軍事任務を可能にしている。

実際ウクライナ人は類まれな能力を発揮し、アクションドラマ「MACGYVER/マクガイバー」さながらの解決策で様々な問題に対処する。西側のミサイルを戦闘機「ミグ29」に転用したり、戦争で破壊されロシア軍が戦場に放棄した装甲車両を修理したり(鹵獲<ろかく>したロシア軍の兵器をウクライナのトラクターが牽引<けんいん>する光景を思い出そう)、ロシア側の通信を妨害したりする。

ウクライナ人が示した驚くべき能力はまだある。彼らは新たな兵器や車両の使用法を、周囲の予想を格段に上回るスピードで習得してしまう。新しい能力を可能な限り迅速に身に着け、戦いに戻りたいと考えている。

バーゲン:バイデン政権のウクライナ戦争へのアプローチをどのように評価するか?

ペトレイアス:バイデン政権はNATOとそれ以外の西側世界を大変見事に主導し、ロシアの侵攻に対応していると思う。膨大な量の武器と弾薬、その他の資材を提供し、経済支援も惜しまない。同時にロシアの経済や金融、個人への制裁に取り組み、輸出規制でも先頭に立つ(このような見方はしても、私はとある政党のメンバーというわけではない。アフガニスタン撤退の決定とそのやり方に対しては厳しく批判したことを指摘しておく)。

昨年12月の訪米時、ホワイトハウスでバイデン氏(右)と共同記者会見を行うゼレンスキー氏/Kevin Lamarque/Reuters
昨年12月の訪米時、ホワイトハウスでバイデン氏(右)と共同記者会見を行うゼレンスキー氏/Kevin Lamarque/Reuters

確かに、多様な戦力の供与を実際よりもっと早く決断するべきだったと感じたことは何度かあった。(例えばHIMARSや長距離精密兵器、戦車など)

それでも、ホワイトハウス西棟にあるシチュエーションルーム(危機管理室)のテーブルを囲んで座っていた身としては、外野で後からとやかく言う方が在職中に厳しい選択をするよりずっと簡単だというのは理解している。とはいえ、一部の追加の戦力(最新式のドローン、さらに射程の長い精密兵器、戦闘機、追加の防空並びに対ドローン戦力)についてはすぐにでも供与を実現してもらいたい。

例えば、ここへ来てウクライナは、ミグ29のような東側の航空機からF16のような西側の航空機に移行せざるを得なくなっている。もはや彼らに供与できるミグはなく、伝えられるところによると現在はパイロットの方が機体よりも多い状態だという。

つまり、移行のプロセスは始まっているも同じだが、パイロットや整備の人員を訓練するのには何カ月もかかるだろう。そうは言ってもやはり、バイデン政権は非常に見事な仕事をしており、こうした特定の状況下で米国が不可欠の国であることを証明したと考える。これは世界中で起きるその他の状況にも、重要な影響を及ぼす。

バーゲン:この作戦でプーチン氏をどのように評価するか? 正しかったところはあるのか?

ペトレイアス:ここまでは落第点だ。思い出してもらいたいが、戦略的なリーダーの第一にして最も重要な任務は、「大掛かりな計画を正しく進めること」だ。それは全体的な戦略と基本的な決定を正しいものにするということに他ならない。プーチン氏は明らかにそうした任務で途方もない失敗を犯し、結果として戦争を通じ自身とその国とをのけ者にしてしまった。ロシア経済を10年以上前まで後退させ(国内の優秀な人材の多くを失い、1200以上の西側の企業はロシアから撤退するか業務を縮小した)、ロシア軍とその評判に壊滅的な損害をもたらした。自らの業績は深刻な危機に見舞われている。

とはいえ、我々はプーチン氏を過小評価するべきではない。同氏は今もなお、「苦難に耐える」ことにかけてはロシアの方がウクライナや欧州、米国よりも上だと確信している。かつてのロシア人が、ナポレオンの軍隊やヒトラー率いるナチスのもたらした苦難に耐え切ったのと同様に。米国とNATOをはじめとする西側の同盟国、提携国は、できる限りのことを可能な限り迅速に行ってウクライナを助け、プーチン氏の間違いを証明しなくてはならない。

バーゲン:準民間の軍事会社ワグネル・グループの部隊はプーチン氏によって最も戦闘の激しい地域に送り込まれ、大きな犠牲を出している。傭兵(ようへい)を戦術として用いることをどう考えるか? 彼らの多くは囚人でもあるが。

ペトレイアス:ロシアが事実上の傭兵を使ってやっていることは、あなたも気づいているように、多少は革新的だがその本質は非人道的でもある。結果として、戦場に投入される兵士(多くは元囚人だ)は大砲の餌食になり、生存できるかどうかは、ゼロとは言わないまでもほとんど顧みられない。

こうしたことは戦術でも訓練でもない。本来それらは最終的に練度や規律、能力に優れたまとまりのある部隊が出来上がっていくのを助ける。そうした部隊には、自分たちのリーダーや周囲の兵士に対する信頼がある。

バーゲン:中国人にとってウクライナの教訓とは何か? 中国が台湾に侵攻した場合、地続きの国境ではなく幅160キロの海峡を越えることになる。ロシア海軍黒海艦隊の旗艦モスクワが沈没したことで、中国はこの問いを巡って考えを新たにするだろうか?

ペトレイアス:一般的な観測として、困難な軍事作戦を検討している国ならどこであれ、ウクライナで起きていることを教訓ととらえる必要があると思う。その国が何十年も大規模な戦闘を(もしくはいかなる種類の戦闘も)行っていなければなおさらだ。

また、とりわけそうした作戦の標的となる人口が生存のために激しく戦う意志を持ち、大国によって支援されているとすれば、しかもその支援が軍事のみならず、相手国の経済、金融、個人を対象にした実質的な制裁と輸出規制を伴うものだとしたなら、なおのことウクライナの教訓を重く受け止めなくてはならないだろう。

侵攻の数週間前に北京で会談したロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席/Kremlin Press Office/Anadolu Agency/Getty Images
侵攻の数週間前に北京で会談したロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席/Kremlin Press Office/Anadolu Agency/Getty Images

バーゲン:プーチン氏はウクライナでの戦術核兵器の使用をほのめかしている。その可能性は高いのか? それが実際に起きた時の米国の対応はどのようなものになるか、あるいはどのような対応を取るべきなのか?

ペトレイアス:確かにプーチン氏がウクライナでの戦術核使用を命令する可能性はあり、我々はその点について懸念するべきだ。しかしながら、それはプーチン氏の側にとっても信じられないほど悪い決断となるだろう。そのような武器の使用は結果的にロシアを一段と不利な状況に追い込む。使用前よりも状況がよくなることはない。

さらに極めて重要なのは、米国をはじめとする西側諸国のほか、中国やインドの首脳らがはっきりと、再三にわたりプーチン氏に対して伝えているという点だ。つまりロシアが核を使用するなら、その結果は間違いなく、サリバン米大統領補佐官の言葉を借りれば「壊滅的」なものになると。

バーゲン:これは史上初となる真の意味でのオープンソース情報による戦争なのか?ウクライナでの戦争はある部分で、ゼレンスキー氏によるソーシャルメディアを通じて展開している。商用の衛星がロシア軍の戦闘群の動きをリアルタイムで捉え、ワグネルに所属するロシア人傭兵のソーシャルメディアアカウントに彼らの行動が記録されている。

ペトレイアス:そうだ。そう確信している。これはスマートフォンとソーシャルメディアが非常に広範囲に利用可能となり、かつ実際に使用された初めての戦争だ。その結果、過去に例のない透明性が生まれ、途方もない量の情報を手に入れることができるようになった。全てがいわゆる「オープンソース」と呼ばれるものを通じた現象だ。

バーゲン:プーチン氏は何を望んでいるのか?

ペトレイアス:長期的には、プーチン氏は依然としてウクライナの主権を否定し、ロシア連邦の一部にしたがっている。同氏の怒りに満ちた歴史修正主義的見地では、ウクライナに独立国として存在する権利はない。

とは言え短期的には、キーウを制圧できず、ゼレンスキー氏と親ロシア派の人物との入れ替えにも失敗したことで、現在はウクライナにおけるロシア軍の支配地域を広げようとしている。とりわけ南東部で、ロシアとクリミア半島をつなぐいわゆる「陸の回廊」と呼ばれる複数の州での支配強化を念頭に置く。ここを押さえれば、ロシアはクリミア半島との接続でクリミア大橋だけに頼る必要がなくなる。

バーゲン:プーチン氏にプランはあるのか? それとも単なるその場の思い付きか?

ペトレイアス:プーチン氏は最近、軍制服組トップのゲラシモフ参謀総長をウクライナでの戦争の総司令官に任命した。恐らくロシア軍と国防省に可能な限りのことを確実に行わせ、追加の部隊を準備してウクライナの戦場に送るのが狙いだろう。ロシアはまた、武器や弾薬、兵器システムもイランや北朝鮮といった他国からの輸入で増やそうとしている。国内の軍需産業の生産不足を埋め合わせる措置で、これらの企業は輸出規制により制約を受けている。

その上、ロシアは見たところ、南東部ドネツク、ルハンスク両州の支配下に入っていない地域を奪取する攻勢を仕掛けようと、補充の兵士や追加の部隊を集結させているようだ。一方で、南部の支配地域では縦深に守備陣地を構築してもいる。

そうは言っても、取り立てて革新的なプランがそこにあるとは思えない。ロシア軍のプロフェッショナルな能力には限界があり、「諸兵科連合の効果」を生み出せないことも露呈している。諸兵科連合とは、戦車の作戦行動を歩兵や大砲/迫撃砲、工兵、爆発物処理、電子戦、固定翼機もしくは回転翼機による近接航空支援、防空、有効な指揮統制、ドローンなどと統合する運用を指す。

それが不在の場合、過去に目にした状況が再現される公算が大きい。ロシアの司令官らは、最近動員したばかりで適切な訓練を施さず、装備も貧弱な兵士たちを過酷な戦闘に投入する。そして大規模な大砲とロケット砲の支援を受けつつ(大砲の砲弾やロケット弾の供給を維持できると仮定して)、多大な犠牲を払いながらじりじりと戦果を挙げていく。恐らく大幅な局面の打開は限定的だろう。

そしてこれらは全て、ウクライナの攻勢を待つ間に起きるはずだ。春か夏に仕掛けられるこの攻勢は、格段に質の高い訓練を積み、装備も充実した有能なウクライナ軍が実施する。

バーゲン:戦争の次なるステージは、1年目からどのように変わるのか?

ペトレイアス:今年はいくつか新たな特徴が生まれるだろう。最も顕著なのはウクライナ側に加わる戦力だ。西側の戦車と歩兵戦闘車。射程が長く大型の精密兵器が米国の供与するHIMARSに使用される。これにより150キロ先まで正確な爆撃が行えるようになる(現行の精密兵器で届く射程の2倍)。様々な種類の追加の防空システム、防空技術の増強と追加の装輪装甲車、それから膨大な数に上るありとあらゆる種類の弾丸だ。

ハルキウの墓地にあるウクライナ軍兵士の墓の区画を訪れた女性/Dimitar Dilkoff/AFP/Getty Images
ハルキウの墓地にあるウクライナ軍兵士の墓の区画を訪れた女性/Dimitar Dilkoff/AFP/Getty Images

その上で、ウクライナ軍はロシア軍よりも格段に優れた能力を示すと考える。前述の諸兵科連合のような戦術の効果が表れるからだ。これにより、格段に有効な攻撃が可能になり、ロシアの防御を部分的にこじ開けることができるだろう。しかし、これらの全ては春か、場合によっては夏まで実現しないかもしれない。ウクライナ軍が新たな西側の戦車やシステムを入手し、それらを訓練するにはかなりの時間を要するからだ。

一方ロシアについては、前述の攻勢に加え、ウクライナのインフラに対するミサイルやロケットによる新たな攻撃を行うと危惧している。攻撃にはイランの供与したドローンも使用されるだろう。これが浮き彫りにするように、可能な限りの手段を駆使してロシアのみならずイランの軍需産業に対する抑制も強化していくことが重要になる。

バーゲン:2003年のイラク戦争開戦時、あなたがひねりを効かせてこう質問したのはよく知られている。「教えてほしい、どんなふうに終わるのか?」。ウクライナでの戦争に関してはどうか。この事態はどのように終わるのか?

ペトレイアス:交渉による解決で終わると思う。それはプーチン氏がこの戦争について、戦場においてもロシア国内においても持続不可能だと悟る時だ。ロシアが1年目の戦闘で被った損害は、ソ連時代の約10年間、アフガニスタンで被った水準の何倍にも達する公算が大きい。国内では各種制裁と輸出規制の悪影響が重くのしかかる。

一方でそれは、ウクライナがミサイルとドローン攻撃に耐え得る限界に達する時でもある。その際米国と主要7カ国(G7)はかつてのマーシャルプランのような計画を策定して、ウクライナの復興を支援する。安全保障上の枠組みも鉄壁のものとなる(NATOへの加盟か、それが不可能なら米国主導の同盟がそれを保証する)。

安全保障の確約は、復興の取り組みを成功させ、外部からの投資を引き付ける上で極めて重要になるだろう。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授も務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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