ANALYSIS

米中首脳会談実現で緊張和らぐ、ただし対立の構図は変わらず

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握手をかわす米国のバイデン大統領(右)と中国の習近平(シーチンピン)国家主席=14日、インドネシア・バリ島/Kevin Lamarque/Reuters

握手をかわす米国のバイデン大統領(右)と中国の習近平(シーチンピン)国家主席=14日、インドネシア・バリ島/Kevin Lamarque/Reuters

(CNN) 米国のジョー・バイデン大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が14日に首脳会談を終え、世界はほんの少し安堵(あんど)することができた。

だが、21世紀の二大超大国による対立の構図は今も変わらない。

米国側によれば、インドネシアで行われた首脳会談で2つの大きな成果がもたらされた。ロシアはウクライナで核兵器を使用してはならないという共通の立場と、米中の気候変動協議再開の見通しだ。エジプトで開催の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)にも大きく弾みがついた。

バイデン氏は、太平洋地域が警戒を高めている北朝鮮の不穏な核やミサイルの動きについて、中国にはこれを抑制する義務があることを習氏に強調したことも明らかにした。

世界の二大超大国の首脳はこの数カ月、こうした問題に協力して取り組んでこなかった。今年に入ってからも米中の溝は依然として深く、全世界が被るであろう影響の大きさがうかがえる。

両国の公式声明を見た限りでは、米中は対立関係の本質を互いに認識しつつも、少なくとも現時点では戦争に発展させるつもりはないという基本原理が示唆されていた。現在両国は定期的な対話を再開する方向で進んでおり、来年にはアンソニー・ブリンケン米国務長官の中国訪問が予定されている。こうした交流は、8月にナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問して以来中断していた。中国は下院議長の訪台に激しく反発し、大規模な軍事演習を行って、台湾を孤立させる力を高めていることをアピールした。

数々の危機が迫る時期に、両首脳が顔を合わせたことは重要だ。仮に南シナ海で米中海軍が衝突したような場合、習氏とバイデン氏の間に生まれた何らかの理解と信頼がものをいう可能性もある。とくに習氏が中国の代名詞となり、「習近平思想」が国の公式な方針となった今、バイデン氏が古くから習氏と付き合いがあり、中国政府高官とチャンネルを持っていることは極めて重要だ。ウクライナをめぐってロシアと西側諸国が危機的状況にある背景には、これまで両首脳の間でこうした交流がなかったこともその一因だ。

米大統領顧問や国務長官、中央情報局(CIA)長官などを歴任し、長年にわたって米中関係に携わってきたレオン・パネッタ氏は、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の会期中に行われた今回の首脳会談を受け、慎重ながらも楽観的との見方を示した。

「会談の結果、米中関係が外交的な段階に戻り、互いにやり合うのではなく、協力が必要な問題で対話を始めることができれば、今回の会談は転換点だと言えるだろう」とパネッタ氏はCNNの取材に答えた。

首脳会談の限界

首脳間の人間関係が、国家間の交流の雰囲気を左右することはある。だが同時に、そうした人間関係は当人によって、また会談後の分析でも、過剰評価されがちだ。米中は互いに相手を国家安全保障の最大の脅威とみなしてきたが、その背景にある力関係を突き動かしているのは首脳の人となりではなく、国家利益だ。中国国内で最高権力を手にして前例のない3期目に入った習氏にとって、米国に対して強硬姿勢を示す政治的理由が以前ほどないとしても、そうした事情は変わらない。

だがインドネシアのバリ島で開かれたサミットで明らかになったことは、米中が衝突を避けようとする一方、基本的に両国が掲げる目標は依然として相いれないということだ。中国はアジアで、可能であれば世界で頂点に立とうとしているが、米国は同じく世界のリーダーを目指している。

バイデン氏は中国に台湾をすぐに攻撃する意図がないことを理解したと述べたが、ホワイトハウスによると、台湾に対する「強制的かつ次第に攻撃色を強める行動」については非難した。会談後に出された中国政府の公式声明には、バイデン氏の外交政策の前提である民主主義と専制主義の対立構造と、そうした色眼鏡で米中関係をとらえるバイデン氏の傾向に対する苛立ちが現れていた。

中国外務省は「米中いずれも、相手国を勝手なイメージに押し込め、相手国の制度を変えたり、ましてや覆そうとしたりするべきではない」と述べた。

「米国は言行相反ではなく、具体的な行動で約束を守らなくてはならない」と、公式声明は付け加えた。

同様に、習氏も会談に先立って「政治家は国の方向性について考え、熟知しているべきだ。また他国や世界全体との対応についても考え、熟知していなくてはならない」と公式に発言した。いまや世界の主要大国の仲間入りを果たした中国が負う新たな責任を認識したと見ることもできそうだ。だがかつて米国が中国指導者に発信してきた訓戒を、ここぞとばかりに習氏が米国に突き返しているともとれる。

会談を終えてバイデン氏は、習氏の印象についてこう述べた。「前より対立的でも、懐柔的でもない。これまで同様、直接的で率直だという印象を受けた。我々は互いに相いれない点、それぞれの立場について不明な点について、非常に率直に話し合った」

こうした発言からうかがえるのは、非公開の会談の場で台湾問題や貿易、人権など、米中関係の最もデリケートな分野で大きく意見が分かれたことをうかがわせる。だが、少なくとも、中国が台湾に侵攻した際には米国が台湾防衛に乗り出すことを示唆するバイデン氏の最近の発言によって台湾問題に関する米国の戦略的曖昧(あいまい)さがさらに色濃くなっていたものの、バイデン氏は、互いの立場について習氏と理解を深められたと述べた。

国際舞台での前進

地球全体の利益のために世界最大の超大国が今も協力関係にあることを示す兆候もあった。

バイデン氏は、米国が気候変動交渉を再開する用意があることを習氏に伝えたと公にした。エジプトで開催中の気候変動サミットには絶好のタイミングだった。会談後に出された米政府の公式声明には、両国首脳が気候変動や、債務救済といった世界マクロ経済の安定化、医療安全保障、世界規模での食料安全保障などについて「政府の主要高官による協議継続を実現し、建設的努力を深めていくことで同意した」とある。

習氏とバイデン氏が「核戦争は決して起きてはならず、核の勝利はありえないと意見が一致したことを再確認し、ウクライナでの核兵器の使用または核兵器使用の威嚇に反対する立場を明確にした」という米国側の声明も重要だ。

ウクライナ侵攻直前に中国がロシア政府との新たな友好関係を打ち出したことで、西側諸国には警戒感が出ていた。米ロ政府関係者が14日にトルコで会談を開き、核問題も含めて協議した中、米中首脳会談が発したメッセージは、中国のロシアに対する自制の重要な兆候であり、米国の外交的勝利といえるかもしれない。

バイデン氏の駆け引きも、中国とロシアの相違点を強調することが外交政策の重要な目的として挙がっていることを示す最新の事例だ。バイデン氏はアジア歴訪に先立ち、中国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領にもロシア国家にもそこまで敬意を払っていないとの見方を示していた。

米国の外交政策は振り出しに戻った。米ソ冷戦が冷え込んでいた1970年代にリチャード・ニクソン大統領(当時)が中国へ歩み寄った背景には、中国とロシアの間の戦略的な溝をさらに拡大させるという意図もあった。

そうした事情は今もさほど変わらない。ただし、中国とロシアの力関係は逆転した。今では中国が世界の大国で、ロシアはそれに従うパートナー国だ。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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