ANALYSIS

北の国境に神経とがらせるウクライナ ロシア軍がベラルーシに再流入

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ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とベラルーシのルカシェンコ大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領(左)とベラルーシのルカシェンコ大統領

(CNN) 先週、ベラルーシのルカシェンコ大統領が自国とロシアによる合同部隊を結成し演習を行う意向を発表すると、ウクライナの首都キーウ(キエフ)に緊張が走った。

前回ロシアとベラルーシが合同軍事演習を行ったのは今年2月。ロシア軍の多くはその後ウクライナとの国境を越えて不成功に終わったキーウへの進軍に踏み切った。

ベラルーシが強力な軍隊を持っているわけではない。しかしウクライナの北側に伸びる長い国境線が今年再びロシア軍の通り道になるという予測は、すでに目一杯の戦いを強いられているウクライナ軍にとって悪夢に他ならない。ウクライナとベラルーシが共有する国境は長さ1000キロ。大半は人がほとんど住まず、深い森林に覆われている。

新たにベラルーシの部隊に加わるロシア軍兵士の第1陣が15日、ベラルーシに到着した。同国の国防省が明らかにした。国際軍事協力部門のトップによると、駐留予定のロシア軍兵士は合わせて9000人弱になるという。

現在、ウクライナ軍は東部と南部で攻勢に出る一方、ドネツク、ザポリージャ両州の一部ではロシア軍を食い止めている。戦争開始から7カ月が経過する中、ウクライナ軍も敵と同様に消耗しており、北部防衛のため軍を動かせばすでに数多くの前線で戦う部隊をさらに酷使することになる。

ベラルーシは前述の合同部隊について、あくまでも防衛のためのものだと主張。ルカシェンコ氏は先週、部隊はベラルーシに対するウクライナからの攻撃に備えた抑止力であり、そうした攻撃について警告を受けていたと明らかにした。

またマケイ外相も14日、対テロ作戦を実施中と説明。「隣国による挑発行為が差し迫っているとの報告」を受けての措置だとした。

ウクライナはこうした主張を激しく否定。外務省はロシア側の挑発の一環である可能性が排除できないと指摘した。

ゼレンスキー大統領も主要7カ国(G7)首脳とのオンライン会合で「ロシアはベラルーシを直接この戦争に引きずり込もうとしている」と非難した。

ベラルーシの鉄道を利用した装備の移動が大幅に増えているのは間違いない。ソーシャルメディアに上がった動画には、多数の鉄道車列が戦車などの装備を乗せ、国内を移動する様子が映っている。1台の車両にはモスクワ軍管区のものとみられるマークがある。

アナリストらはこれらの装備の大半について、おそらくロシアに帰属するものであり、ベラルーシ国内の備蓄から持ち出していると分析。ロシア軍がウクライナで被った損失の埋め合わせに使用されると考えている。先月は特にこうした動きが顕著だったともしている。

ルカシェンコ氏は、自国の軍隊をロシアの特別軍事作戦に投じると明言はしていない。また大半のアナリストは、仮にベラルーシ軍が投入されても影響はほとんどないとみている。

ポーランドに拠点を置く独立系の国防アナリスト、コンラッド・ムジカ氏はベラルーシ軍をつぶさに調べ上げたうえで、その戦力について「比較的弱い」と確信する。

同氏によれば現在のベラルーシ軍の人員は平時に必要とされる戦力の50~60%で、上限を満たすには少なくとも2万人の動員が必要になるという。

それでもルカシェンコ氏は先週、いかなる動員の発表も計画していないと改めて述べた。

ムジカ氏の想定するシナリオは3つある。1つは演習が北大西洋条約機構(NATO)加盟国による攻撃に備えるものだということ。もう1つはウクライナ軍をベラルーシ国境に引き付けるためのものだということ。さらにはウクライナ襲撃への準備という見方だ。

最初のシナリオは発生する見通しがなく、最後の選択肢もベラルーシ国内で大変な不評を買うだろう。同国におけるウクライナへの敵意は、ロシア国内でかき立てられているレベルに遠く及ばない。

だが、ウクライナが北の国境に神経をとがらせるという状況はロシアにとって都合がいい。キーウが近いという大きな理由もある。

ウクライナ統合軍のセルヒ・ナイエフ司令官によれば、ベラルーシはすでにロシアのミサイル配備にとって重要な役割を果たしている。ウクライナが推計したところ、そこには弾道ミサイルシステム4基、「S400」地対空ミサイルシステム12基が配備され、先週には複数のイラン製ドローン(無人機)が国境の北から到着していた。ロシア軍の戦闘用航空機もさらに到着しつつあると、ベラルーシ国防省は明らかにしている。

ウクライナの当局者が推計するベラルーシ国内のロシア軍兵士の数は1000人程度だが、これが急増すれば再び攻勢の脅威が北部作戦地域で生まれると、ナイエフ氏は警鐘を鳴らす。とりわけキーウに対してはそうだという。

一方、最近の部分的動員令にもかかわらず、米シンクタンクの戦争研究所は14日、現時点でのロシアについて、北からウクライナを攻める軍勢を形成する能力はないと分析した。東部ドンバス地方での戦闘で消耗を続けていることが要因だとしている。

ルカシェンコ氏は戦争を通じて微妙な一線を守っている。プーチン氏の「特別軍事作戦」を支持しながら、自国軍は関与させていない。

先週には特別軍事作戦への参加を明言し「それを隠していない」としつつ、「我々は誰も殺していないし、どこにも軍隊を派遣していない。我々の義務に違反していない」と強調した。

ただルカシェンコ氏の動ける余地は小さくなりつつあるかもしれない。2020年の大統領選で物議を醸す再選を果たした後、ベラルーシ国内では大規模な抗議行動が勃発し、同氏はロシア政府への依存を一段と強めている。同政府がウクライナでの何らかの「勝利」を必要とする状況に拍車がかかれば、同盟国ベラルーシには協力を迫る強い圧力がかかるかもしれない。

同時にルカシェンコ氏には、経験の浅い自国の軍隊がウクライナで大損害を被る事態を避けたい思惑もあるだろう。自らの治安部隊が戦争に割かれたり弱体化したりすれば、混迷を増す一方の国内で我が身が危険にさらされるからだ。

本稿はCNNのティム・リスター記者の分析記事です。

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