OPINION

イランからウクライナまで、ダビデがゴリアテを見下ろす

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メキシコのロシア大使館前で侵攻に抗議する現地のウクライナ人コミュニティーの女性/Rodrigo Arangua/AFP/Getty Images

メキシコのロシア大使館前で侵攻に抗議する現地のウクライナ人コミュニティーの女性/Rodrigo Arangua/AFP/Getty Images

(CNN) 今月2日、ほとんど偶然にではあるが、2つの抗議デモのグループが英ロンドンで合流した。一方はウクライナ国旗を、もう一方はイラン国旗をそれぞれ振っていた。顔を合わせた際、両グループはお互いに声援を送り、スローガンを連呼した。「みんな一緒に勝利する」

フリーダ・ギティス氏
フリーダ・ギティス氏

イランでの抗議行動とウクライナでの戦争は、表面上全く別個の衝突に映る。しかしその核心において、それらを戦っているのは自らの生命を危険にさらす覚悟を決めた人々だ。自分たちの選ぶ生き方をする権利を守る選択をした彼らは、暴力性により確立した独裁体制への抵抗を試みる。

数十年にわたり独裁国が地歩を獲得していく一方、民主主義国はほぼ力尽き、退却を余儀なくされているように見える。それがここへ来て突然、全く予想だにしないタイミングで、猛烈な反撃が2つの最も横暴な専制国家に対して繰り広げられることとなった。ウクライナとイランで、人々は劣勢をはねのける決意を固めた。自分たちの尊厳と自由、そして自己決定権を守るために。

このダビデ対ゴリアテの戦いに見られる勇敢さは、我々他国の人間にとってほとんど想像を絶しており、同じくらい勇気あふれる支持表明をアフガニスタンのような国で引き起こしてもいる。

これらのもたらす結果は、広範囲に及ぶものとなる可能性がある。

死亡したイラン人女性、マフサ・アミニさんの肖像を掲げるデモ参加者=トルコ・イスタンブール、9月20日撮影
死亡したイラン人女性、マフサ・アミニさんの肖像を掲げるデモ参加者=トルコ・イスタンブール、9月20日撮影

イランでの引き金は、22歳の女性、マフサ・アミニさんが先月死亡したことだった。アミニさんは道徳警察による拘束中に死亡。拘束の理由は女性に対して控えめな服装を義務付ける執拗(しつよう)かつ暴力的、強制的な規定への違反だった。

高揚感に満ちた反抗の現場で、イラン女性たちは夜に火を囲んで踊り、頭を覆う布「ヒジャブ」を脱いで炎の中へ投げ入れた。ヒジャブは体制によって着用を義務付けられている。

彼女たちの平和的な反乱は、実際のところヒジャブについてのものではなく、圧制の束縛を断ち切ることを意味する。男性が大勢抗議に加わっているのはそれが理由だ。体制側がますます多くのデモ参加者を殺害しているにもかかわらず、こうした抵抗は続いている。

だからこそ女性たちは車に上り、ヒジャブを振り回す。さながら自由の旗のように。そして支持者と群れを成して街路や大学に繰り出す。そこでは治安部隊が銃を発砲し、彼女らを黙らせようとする。

だからこそ高齢の女性であっても抗議に加わり、残虐性を帯びた体制側の取り締まりをもってしても今のところ、この反乱の火をかき消すまでには至っていない。

プーチン氏の最強ならざる軍隊

もし成功の見通しがイランでの「女性、命、自由」を叫ぶ蜂起に関して不透明であるというなら、ウクライナについての予測がどのようなものだったか考えてみるといい。当時は世界でも最強クラスと目される軍隊が、同国の制圧に踏み切った状況だった。

結局のところ、今から10年足らず前にロシアのプーチン大統領の軍はシリアの長期内戦に突入し、同国の独裁者、アサド大統領の救済に一役買っていた(過去のイランのように)。

軍を増強していたプーチン氏は、民主主義を掲げる隣国のウクライナを2、3日のうちに征服できると考えていた。米国の諜報(ちょうほう)機関でさえ、首都キーウ(キエフ)は数時間とは言わないまでもほんの数日でロシアの手に落ちると予想した。だからこそ報道によると米国は、ウクライナのゼレンスキー大統領に対して安全な場所に避難するよう申し出た。ロシア軍の侵入直後の提案だったが、ゼレンスキー氏はこれを拒んだ。

米政府がゼレンスキー氏こそ「ロシアによる侵攻の第1の標的」と警告すると、同氏は自国と世界に向かってメッセージを発信。ウクライナ国内にとどまることを約束した。

「我々が自分たちの国を守るのは、我々の武器が真実だからだ。我々にとっての真実とは、ここが自分たちの土地であり国であるということ。ここにいるのが我々の子どもたちだということ。我々はこれら全てを守る」と、ゼレンスキー氏は結論した。「そういうことだ。私が言いたいのはそれだけだ。ウクライナに栄光あれ」

あれから7カ月余りが過ぎ、ロシアがたどっているのはさながら戦争犯罪の道だ。被弾した病院や学校などの建物、民間人の車列は数百を数え、集団墓地はウクライナ人の遺体であふれている。

ウクライナ軍が解放した北東部イジュームで、集団埋葬地の調査を行う警察官と専門家/Gleb Garanich/Reuters
ウクライナ軍が解放した北東部イジュームで、集団埋葬地の調査を行う警察官と専門家/Gleb Garanich/Reuters

そして今なおウクライナは前進しており、実際のところ非常によく戦っている。おそらくこの戦争に勝利するだろう。

西側諸国からの支援と武器がかぎを握っているのは間違いない。しかしウクライナ側のこれまでの成功に不可欠な要素は、彼らの闘争心だ。イランの女性たちと同様、彼らは道徳的に優位に立っている。彼らが戦っているのは自分たちの命のためであり、自由のためだ。相手の戦う理由は権力と、他者に対する支配に他ならない。

道徳的な優位を保っているからこそ、ウクライナ及びイラン国民の苦闘は世界中からの支援を呼び起こす。民主主義と人権を擁護する人たちが彼らを支えている。ソーシャルメディアの時代にあって、彼らの歌う反ファシズムの賛歌は急速に拡散する。それは敵側の残忍さについても同様だ。

モスクワとテヘランに拠点を置く抑圧的な政権は今や孤立し、世界の大半からのけ者扱いされている。これらを公然と支持するのは、ほぼ少数の専制国家に限られる。

ウクライナでの戦争開始以降、プーチン氏が最初に外遊に出かけた旧ソ連圏以外の国がイランだったことに何の不思議があるだろう? イランがロシア軍に訓練を施し、今やウクライナ人を殺傷するための先進的なドローン(無人機)も供与しているとみられることに何の不思議があるだろう?

これらの2つの政権はイデオロギーこそかなり異なるものの、抑圧のための戦略と他国に国力を誇示する意欲にかけてはほとんどが共通している。

どちらも民主主義国を装いながら、誰が権力を握りルールを作るのかについて、真の意味での選択権は存在しない。

イランの刑務所は、政権に批判的な人々や勇気あるジャーナリストらであふれている。前出のアミニさんに起きたことを最初に報じた記者もそこにいる。ロシアにおいてもまた、ジャーナリストは命がけの職業であり、プーチン氏への批判についてもそれは言える。反政権派指導者、アレクセイ・ナバリヌイ氏の殺害を試みて失敗した後、プーチン氏の息のかかった人々は起訴をでっち上げ、ナバリヌイ氏を囚人の流刑地から出られないようにした。無期限の措置として。

プーチン氏に批判的な何人もの人々が、これまで謎の死に見舞われている。多くは窓からの転落だ。イランとロシアはともに、国をまたぐ抑圧を率先して実行するようになった。批判者らを外国の地で殺害するこうした行為については、フリーダム・ハウスなど民主主義を調査・擁護する団体が明らかにしている。

ロシアとイランの両政府は、自分たちのイデオロギーを他国で盛り上げることを目指してきた。だからこそウクライナとイラン両国国民の苦闘は、それぞれの国を越える影響をもたらすはずだ。

レバノンやシリア、イラク、イエメンの人々にとって、ことは一時的な興味にとどまらない。イランの政権が倒れる可能性は明らかに低いとはいえ、それが実現すれば同国政府の重大な影響下にある彼らの国と生活は一変するだろう。結局のところイランの憲法は、イスラム革命の拡大を呼び掛けている。

プーチン氏の支援を受ける専制国家に暮らす人々にとって、ウクライナの戦争はありとあらゆる変化を自国にもたらす可能性がある。

世界のそれ以外の国々について言えば、今は不確実さの中で予想を巡らせる時だ。7カ月前には、プーチン氏をちょっとした天才とみなす人たちもいた。そのような説はもう跡形もない。反乱の抑え込みを助け、戦争に突入し、世界中の選挙を操作しようとした人物は、ここへ来て窮地に立たされているように見える。

次に何が起こるのかは誰にも分からない。これまでの全てがどのような終わりを迎えるのか、知る者はいない。ウクライナとイランの人々が自らの自由と自己決定権のために戦う中、世界は1つの転換点に立つ。歴史は、書き記されるのを待っている。

フリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストでCNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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