プーチン氏の戦術核兵器がもたらす破壊、日本の原爆に匹敵する可能性

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ロシアのプーチン大統領=9月20日、モスクワのクレムリン大宮殿/Contributor/Getty Images

ロシアのプーチン大統領=9月20日、モスクワのクレムリン大宮殿/Contributor/Getty Images

(CNN) ウクライナでロシア軍が撤退する中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は改めて核兵器使用を示唆して脅しをかけた。ここでいう核兵器とは、しばしば戦術核兵器と呼ばれるものになる公算が高い。

プーチン氏は先週の演説で「我が国の領土保全が脅かされた場合、ロシアおよび国民を守るために、当然我々は利用可能なすべての武器システムを使用する。これははったりではない」と警告した。

米国科学者連盟によれば、ロシアの武器システムには配備核弾頭と貯蔵核弾頭が合わせて4477基ある。そのうち約1900基は「非戦略核弾頭」、いわゆる戦術核兵器だ。

だが戦術核兵器とは何なのか? 通常の核兵器とはどう違うのか?

以下、知っておくべき点を挙げる。

戦術か、戦略か

戦術核弾頭とは、限定された戦場での使用を目的とした兵器を指す。たとえば戦車の隊列や、海上で使用する場合は空母打撃群の壊滅が目標となる。こうした兵器は破壊力がTNT換算で10~100キロトンで、「低出力」とも呼ばれる。

これに対し、ロシアが保有する中でもとくに強力な「戦略」核兵器の破壊力はTNT換算で500~800キロトン。複数の都市全体、さらにそれ以上の範囲を壊滅させることが目的となる。

戦術核兵器を「低出力」と呼ぶのは、いささか誤解を招く。破壊力が10~100キロトンでも、大規模な破壊を引き起こすには十分だからだ――1945年、米国が広島と長崎に投下した原爆で世界が目にした光景がまさにその例だ。

この時の破壊力はTNT換算でそれぞれ15キロトンと21キロトン。おおむねロシアの戦術核兵器の範囲内だ。

米国政府の公文書館によると、広島と長崎では最初の爆発でそれぞれ約7万人と3万5000人の命が瞬時に奪われた。その後さらに数万人が放射能の影響で亡くなった。

ニュージャージー州のスティーブンス工科大学で科学技術研究の責任者を務めるアレックス・ウェラースタイン氏いわく、核兵器を分ける本当の違いは破壊力の大きさではなく、何を目標に据えるかにあるという。

「日本の原爆は、士気を打ち砕き、日本の最高司令部を恐怖で降伏に追い込むことに主眼をおいた『戦略的』攻撃だった。15キロトンが『戦略的』出力になりえたのは、その目標をどこに置くかによってだ」とウェラースタイン氏は今年初め、安全保障関連のブログ「Outrider」に投稿した。

他にはジェームズ・マティス元米国防長官のように、そうした違いなどは全く存在しないと言う人もいる。

「私の考えでは『戦術核兵器』などというものは存在しない。いかなるタイミングで使用されるいかなる核兵器も、戦略的に流れを一変させるものとなる」と18年に議会公聴会で語っている。

ロシアが1発でも展開したらどうなるのか?

ロシアはソビエト連邦の時代から、戦術核兵器を大量に製造し、備蓄してきた。

米国の科学者団体「憂慮する科学者同盟」によると、当初の考え方は、戦場での核兵器使用は指導者に対して、自国が持つ最大級の核兵器に訴えずに敗北を回避できる、決定的な攻撃をしかける選択肢を与えるというものだった。最大級の核兵器については、反撃を受けて「文明を壊滅させる核戦争」につながると考えられていた。

同団体はウェブサイトで、そうした考え方は「欠陥があり危険」だと述べた。

「戦術核兵器は……さらなる不透明さをもたらす。限定的な攻撃をしかけても逃げ切れると考える国が出てくる可能性がある」と同団体は述べた。

専門家の中には、こうした理論を支持する者もいる。

英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシダース・コーシャル氏、サム・クラニーエバンス氏がこの夏発表した情勢解説には、欧州の司令部や空軍基地で戦術核兵器を使用しても、周辺地域の民間人の死者数は限定的になるだろうとある。

このRUSIの報告書によれば、北大西洋条約機構(NATO)同盟国であるポーランドとリトアニアの陸の国境で、ロシアの飛び地カリーニングラードと隣国ベラルーシを隔てるスバウキ回廊で仮に戦術核兵器が使用された場合、民間人の死者は数百人規模にとどまるという。

だが現実はこれをはるかに超えるだろう。

「米国の机上作戦演習によれば、戦術核兵器を伴う紛争はあっという間に歯止めが利かなくなるだろうと予測される」と憂慮する科学者同盟はブログに投稿した。

「プリンストン大学が戦術核兵器を発端とする米ロ紛争をシミュレーションしたところ、事態は急速にエスカレートし、9000万人以上の死傷者が出ると予測された」

プーチン大統領の先週の脅しを受け、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)は核兵器の使用について、2022年の欧州は1945年の日本よりもはるかに危険な場所だと述べている。当時の日本は今の欧州より人口も少なく、他の地域からも比較的隔絶されていた。

ICANは今日の欧州について、「たった1回の核爆発で、民間人の死者が数十万人、さらにそれ以上の負傷者が出る可能性がある。放射性降下物で、複数の国にまたがる広範囲な地域が汚染されうる」とウェブサイトで述べた。

さらに「救急隊も事実上対処することができず、パニックが広がって大規模な集団移動が発生し、深刻な経済的打撃に見舞われるだろう。もちろん爆発が複数回に及べば、はるかに悪い事態になる」と続けた。

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