ANALYSIS

完璧にそろったポピュリスト復活の条件、欧州の今

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イタリア総選挙、極右の女性首相誕生へ

(CNN) 25日夜、イタリア総選挙後の出口調査によると、ジョルジャ・メローニ氏がイタリア初の女性首相になることがほぼ確実となった。

首相に確定すれば、女性というだけでなく、ベニート・ムッソリーニのファシスト政権以降、イタリアの主要な政治動向において、最も右寄りにかじを取る政党のリーダー誕生という点でも歴史的な出来事となるだろう。

同氏の基本的政策は、ここ数年極右の主張を支持してきた人々にはおなじみのものになるだろう。同氏はLGBTQ+(性的少数者)や中絶の権利を公然と疑問視し、移民削減を目標に掲げる。グローバリゼーションから同性婚まであらゆる理由から伝統的な価値観や生活様式が攻撃を受けているという考えに取りつかれているようにもみえる。

同氏の最大のファンの一人が、スティーブ・バノン氏であることもさして驚くことではないだろう。米国のドナルド・トランプ前大統領の政治的思想を形作り、米国における「オルト・ライト(オルタナ右翼)」運動を生んだ人物だ。

メローニ氏の勝利の背景には、近年欧州のあちこちで見られる極右の大成功がある。

マリーヌ・ルペン氏はフランス大統領選挙でエマニュエル・マクロン大統領に敗れたものの、欧州各地のルペン氏支持者は、同氏が一般投票でかなりの票を獲得したことや、フランスの政治を中道から右寄りに大きく方向転換させたことに大満足だった。

トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏(左)はメローニ氏のファン/Tiziana Fabi/AFP/Getty Images
トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏(左)はメローニ氏のファン/Tiziana Fabi/AFP/Getty Images

スウェーデンでは反移民的な「スウェーデン民主党」が今月初めの総選挙で2番目に多い議席を獲得し、新政権でも重要なカギを握ると見られている。今や主流派となった同政党は、もともとネオナチに起源がある。

欧州の保守系右派は間違いなく、静かな数年を経た後に復活を果たしたと感じている。

「間違いなく流れが変わっている。フランスからイタリアといった欧州大国からスウェーデンまで……目に見えて衰えゆく汎ヨーロッパの主流派を拒む動きが市民の間に広まっているようだ」と語るのは、「ドイツのための選択肢」(AfD)所属の欧州議員、グンナー・ベック氏だ。

AfDはナチス時代以来初めて、ドイツ政府から監視対象に指定された極右政党だ。当時、ドイツのユダヤ人中央評議会はこの決定を歓迎し、「AfDの破滅的な政治観は、民主主義制度をないがしろにし、市民間に広がる民主主義の信用をおとしめる」と述べた。

2017年のドイツ連邦選挙でAfDが3番目に高い12%の得票率を記録し正式な野党勢力になると、欧州中に衝撃が走った。

こうした勢いの源はどこにあるのか?

「生活費高騰の危機が政府や欧州の制度を揺るがしている。もちろんウクライナの戦争で事態は悪化したが、戦争以前から欧州グリーンディールや欧州中央銀行の金融政策などがインフレを助長していた。生活水準が落ちてくれば、人々が政府や政治体制に不満を抱くのは当然だ」とベック氏は付け加えた。

マリーヌ・ルペン氏は今年のフランス大統領選決選投票で41%の得票率を記録/Yves Herman/Reuters
マリーヌ・ルペン氏は今年のフランス大統領選決選投票で41%の得票率を記録/Yves Herman/Reuters

危機というものは野党勢力にとってつねにチャンスとなる。それは政治的思想を問わない。だが、危機の文脈における恐怖感に基づく政治は、右寄りのポピュリストに容易につながる傾向がある。

「メローニ氏や同氏の政党の場合、選挙を経ずに首相に据えられた技術官僚マリオ・ドラギ氏という体制側の人間や、同氏の連立政権を支えたポピュリスト政党の両方を批判することができた」と語るのは、ロンドン大学キングス・カレッジ欧州・国際研究学部の講師、マリアンナ・グリフィニ氏だ。

グリフィニ氏いわく、イタリアは同国を襲った近年の苦境が原因で、とりわけ既存体制への反発につながりやすい状況にあるという。「我々の国はパンデミックのとくに早い段階から甚大な被害に見舞われた。大勢が亡くなり、多くの企業が倒産した。欧州連合(EU)諸国からの援助を得るのが難しい時期があった。それからというもの、既存体制やコンテ・ドラギ両政権はいともたやすく石を投げつける標的となった」

危機が右派ポピュリストに特有のチャンスとなるのはなぜなのだろう? 「多くの研究から分かっているように、保守的な有権者は確実性や安定を強く求める。社会が変化すると、保守派は心理的にこれ(変化)を脅威とみなすようになる。エネルギー危機やインフレ、食料不足、移民といった現実の変化や脅威に対して人々を団結させることは、はるかに容易になる」と、NPO団体「Defend Democracy」のエグゼクティブディレクター、アリス・ストルマイヤー氏は言う。

そして今、ポピュリスト政党が脅威とみなし、批判の矛先を向ける対象は山のようにある。

「食費や燃料費の高騰、民主主義体制への信頼の揺らぎ、広がる格差、社会流動性の減少、移民に対する懸念。こうした事象から生まれたある種の焦燥感は、あくどい政治家に利用されかねない」と、英イングランド中部バーミング大学のニック・チーズマン教授(民主主義専攻)も言う。

メローニ氏はイタリアのポピュリスト政治家として成就した人物の最前列に/Gabriele Maricchiolo/NurPhoto/Getty Images
メローニ氏はイタリアのポピュリスト政治家として成就した人物の最前列に/Gabriele Maricchiolo/NurPhoto/Getty Images

現在の危機の組み合わせは「自由民主主義とって最悪の嵐」であり、「共生社会や責任ある政府、人権を信じる人々がこの嵐を乗り切るには、かなりの労力を要するだろう」(チーズマン氏)

我々は今ポピュリズムの最新の波を話題にしているが、それはすなわち、過去にも右寄りのポピュリストが権力の座に就き、その後敗れたという事実があることを意味する。そうであれば、再び押し寄せると予想されるポピュリズムの波について、反対派がここまで危機感を募らせているのはなぜなのか?

「ポピュリズムのパラドックスとして、ポピュリストはしばしば本当の問題を特定するものの、それをさらに悪いものに置き換えようとする現象がある」と語るのは、ポピュリズム研究の権威で、「From Fascism to Populism in History(ファシズムからポピュリズムへの変遷史)」の著者、フェデリコ・フィンチェルスタイン氏だ。

「政治エリートや政治制度の失敗を、ポピュリストは強力なカルトじみた指導力で置き換えようとする。この点でトランプ氏は天性の才能を備え、エルドアン氏やボルソナーロ氏、さらにはオルバン氏までも助長した」とフィンチェルスタイン氏は続け、トルコ、ブラジル、ハンガリーの権威主義的な指導者に言及した。これらの国々ではここ数年、民主主義の規範がひどくむしばまれている。

同氏はさらに、「(ポピュリストは)概して非常にまずい政権運営をする。我々が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の中でトランプ氏や他の人物で目の当たりにしたようにだ」とも語った。

要するに、これがポピュリストの波がはらむ危険性となる。深刻な危機のさなか、解決策があると主張する面々は、最終的に仕える国民に対して事態をもっと悪化させてしまう可能性がある。事態が悪化すればさらなる危機は避けられず、当然ながら恐怖が煽(あお)られることも避けられず、ポピュリストにますますチャンスが与えられる。

イタリアの場合、メローニ氏はポピュリストとして成就した大勢の政治家の列に加わる最新の事例に過ぎない――仮に最も極端な人物であっても――という点は特筆に値する。同氏の前に成就して政権入りした人物は、同氏が反対の矛先を向ける標的となってきている。

欧州で繰り返される危機のサイクルがこのまま続けば、今から数年後、市民の恐怖を利用する別の過激ポピュリストの台頭を議論していてもおかしくない。欧州の政治観を注視してきた人々は痛いほど知っている。仲間が体制に盾突いて勝利を収めるたびに、意気盛んとなり、自信をつけるそうしたポピュリスト予備軍の人物が大勢いることを。

本稿はCNNのルーク・マクギー記者の分析記事です。

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