ANALYSIS

「これは誰にでも起こりうる」、女性の頭を踏みつける映像に衝撃 中国

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食事中の女性グループに殴る蹴るの暴行、防犯カメラ映像に憤り噴出

香港(CNN) 中国の成都に住むタタさん(34)は10日午後、会社のデスクでSNSのフィードを眺めていた際、体の芯まで震えるような恐ろしい動画に出会った。

監視カメラが捉えた映像には、焼き肉店で一緒に食事をしている女性3人のテーブルに男が近づき、女性のうち1人の背中に手を置く様子が映っている。女性は男を押しのけたものの、男は引き下がらず、再び女性の顔に手を伸ばした。女性が男の手を払いのけると、男は平手打ちを加え、懸命に自分の身を守ろうとする女性を地面に押し倒した。

女性の友人たちが助けに入ろうとしたが、その友人も男や騒ぎを受け店に入ってきた男の仲間に暴行を受けた。男たちは髪をつかんで最初の女性をドアから引きずり出し、瓶や椅子で殴打したうえ、歩道に横たわる女性の頭部を繰り返し踏みつけた。女性の服は血で染まっていた。

映像のあまりの生々しさと暴行の激しさに、タタさんは途中で動画を止めた。「すぐに憤りと恐怖で胸がいっぱいになった。彼女があの瞬間に感じていたはずの恐怖に心から感情移入できた」とタタさんは語り、記事では英語名でのみ表記するよう求めた。「これは誰にでも起きうることだ」

中国のSNSで動画が野火のように拡散するにつれ、衝撃と怒りが広がっていった。襲撃は10日午前2時40分ごろに中国北部の唐山市で起きたが、夕方には全国で大きな騒ぎになり、動画は数億回視聴された。週末のネット上の議論はこの話題一色となった。

女性が男性のセクハラを拒んだだけでこれほど激しく殴打されたことに、多くの人はがく然となった。事件の情報が拡散するまで対応しなかったとして警察を批判する声も上がった。

抗議の声を受け、唐山警察は10日に声明を発表し、容疑者はすでに特定したと説明。逮捕のための「努力を惜しまない」と述べた。11日午後までに襲撃に関与した容疑者9人全員が逮捕され、そのうち4人は約965キロ南の江蘇省に逃走していた。

警察によると、女性2人が病院に搬送されたものの命に別条はなく、容体は安定しているという。

今回の襲撃を受け、中国では女性に対する暴力やジェンダーの不平等をめぐる議論も再燃した。若い女性の間ではジェンダー問題に対する意識が高まっているものの、中国は依然として女性差別がまん延する家父長制の色濃い社会だというのが批判派の主張だ。

SNSで広く共有された記事では「唐山の焼き肉店で起きたことは単発的な出来事ではなく、構造的なジェンダー暴力の一環だ。私たちは女性へのジェンダーに基づく暴力を支持、奨励、促進するような環境に依然として生きていることを認める必要がある」と指摘。

「もちろん、個々の襲撃犯や実行犯を罰するための法的措置を講じる必要はある。ただ、構造的なジェンダー抑圧に対処し、男らしさと暴力を奨励する社会規範を変えなければ、次の事件でまた怒りを覚えるだけになるだろう」としている。

だが、活動家の逮捕や口封じ、ネット上の議論の検閲により国内のフェミニズム運動を長年取り締まってきた中国政府にとって、こうした議論は受け入れがたかったようだ。対話アプリ「微信(ウィーチャット)」で公開されたこの記事は、ジェンダーの問題に関する他の投稿とともにネット上から削除された。

中国版ツイッターの微博(ウェイボー)は11日の声明で、唐山で起きた襲撃について議論する際に「意図的に男女間の対立を引き起こす」などの違反があったとして、992個のアカウントをブロックしたと発表した。

一部の国営メディアの報道は当初、男のセクハラ行動は「会話を始めようとしてのもの」だったとして重大視しない姿勢を示し、女性読者の反発を買った。

当局や国営メディアは襲撃を単発的な事件と位置づけ、ジェンダーの問題から地元ギャングの暴力へと論点をすり替えようとしている。中国国営ラジオによると、容疑者のうち5人には不法拘束や故意の傷害などの前科があったといい、唐山当局は12日、組織犯罪を取り締まる2週間のキャンペーンを開始した。

ニューヨークを拠点に活動する著名な中国人フェミニストのリュー・ピン氏は、唐山の事件をジェンダーの観点から切り離すことにより、中国政府は責任から距離を取っていると指摘。社会に存在するジェンダー不平等と暴力の問題に対処できなかった責任を同政府は負うべきだと述べた。

北京を拠点にする女性の権利擁護団体の創設者フェン・ユアン氏は、ジェンダー絡みの暴力を根絶するには、中国は男女平等に関する内容をもっと教育に取り入れるところから始めなくてはならないと語った。

また、法執行機関はジェンダー絡みの事件に対応する際、受け身の姿勢を捨てるべきだと指摘。「家庭内暴力の案件では警察の対応がおざなりになることが多く、性的暴行の訴えは多くの場合、十分な証拠がないという理由で退けられがちだ」(ファン氏)

ジェンダー暴力に対する刑罰が比較的軽いことも、違反者を抑止できていない現状につながっている。唐山の事件の後、SNSのユーザーは2020年に起きた同様の事件に関する国営メディアの報道を再度拡散した。浙江省東部で起きたこの事件では、25歳の女性が飲食店でセクハラを拒んだ後、男のグループに失神するまで殴られ、15日間入院する被害を受けた。男らは10~13日勾留されたものの、それ以上の罪には問われなかった。

成都で事務職に就くタタさんは、唐山で起きた食事中の女性客への襲撃は、性暴力が誰にでも起こりうることを示していると語る。

「中国の女性は長い間、ジェンダー暴力の被害者でありながら非難される目にあってきたが、唐山で暴行を受けた少女たちは『完全な』被害者といえる。ひとりで外出していたわけでも、露出の多い格好をしていたわけでもない」

「彼女たちはただ自分と友人を守ろうとしただけだ。何ひとつ非が無かったにもかかわらず、激しい暴力を振るわれた。私たちの多くにとって怖いのはその点だ」

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