ANALYSIS

なぜトルコは北欧2カ国のNATO加盟に水を差すのか

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北欧2カ国のNATO加盟に難色を示したトルコのエルドアン大統領/Burhan Ozbilici/AP

北欧2カ国のNATO加盟に難色を示したトルコのエルドアン大統領/Burhan Ozbilici/AP

トルコ・イスタンブール(CNN) 北欧のフィンランドとスウェーデンによる北大西洋条約機構(NATO)加盟が目前とみられたちょうどその時、トルコが水を差して同盟国を驚かせた。

トルコのエルドアン大統領は、北欧2カ国のNATO加盟への要望について「前向き」には考えられないと語り、この2カ国は「テロ組織のゲストハウスのようなもの」と非難した。エルドアン氏は18日、トルコ首都アンカラで、自党の議員に対し、NATO加盟国がトルコの安全保障の課題について「理解し、尊重し、支持する」ことを期待すると述べた。

フィンランドとスウェーデンは18日、NATO本部のあるベルギー首都ブリュッセルで、ロシアによるウクライナ侵攻に押される形で、正式にNATO加盟を申請した。この決断はロシア政府にとっては失敗を意味している。ロシアはウクライナに侵攻することでNATO拡大を阻止しようとしていたが、ウクライナでの戦争がNATO拡大の引き金となったのだ。

しかし、NATOへの新規加盟には既存の加盟国の意見の一致が求められる。その中にはトルコ政府も含まれる。

トルコは、NATOが1949年に誕生してから3年後に加盟し、NATO内では2番目の軍事力を持つ。トルコは自国の要求が満たされなければ北欧2カ国の加盟を支持しないとしている。

エルドアン氏は北欧2カ国について、トルコからの分離独立を目指す非合法武装組織「クルディスタン労働者党(PKK)」のメンバーの潜伏先となっているとして非難した。PKKは、トルコと何十年にもわたり武装闘争を繰り広げており、トルコや米国、欧州連合(EU)からテロ組織に指定されている。

今回の危機によって、トルコが西側諸国やNATO加盟国に対して長年抱いてきた不満があらわになったが、一方で、トルコ政府にとっては、譲歩を引き出すためにNATO内での立場を利用する機会ともなった。

トルコは、少数民族クルド人との戦いについて、受け取っている支援が足りないとして不満を表明している。トルコ政府はクルド人との戦いを国家安全保障に対する最大の脅威ととらえている。トルコは、敵対勢力を潜伏させ、シリア北部のクルド人武装勢力に支援を与えているとしてスウェーデンを非難している。トルコはシリア北部のクルド人武装勢力についてPKKと一体とみなしている。

国営メディアによれば、トルコ政府は北欧2カ国が容疑者の身柄の引き渡し要求に応えていないと語った。指名手配中の個人はPKKや「FETO」とつながりがあるとされる。FETOは在米のイスラム教指導者ギュレン師が率いるグループで、トルコはギュレン師が2016年のクーデター未遂事件の黒幕だとみているが、ギュレン師側はこれを否定している。

トルコ政府はまた、スウェーデンとフィンランドに対し、19年のシリア北東部での軍事攻撃を受けてトルコに科した武器の禁輸措置について取り下げるよう要求した。

トルコはクルド人武装組織「人民防衛隊(YPG)」に対して攻撃を仕掛けた。YPGは米国や西側諸国とともに過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦っていた。トルコによる攻撃は米国やEUから非難を浴び、欧州諸国の一部がトルコ政府に対して武器の禁輸に踏み切った。

エルドアン氏は16日、「我々はトルコに制裁を科す国々にNATO加盟について、『はい』とは言わないだろう。なぜなら、そうすれば、NATOは安全保障の組織であることをやめ、テロ組織の代表者が集まる場所になるからだ」と述べた。

エルドアン氏が激しい言葉遣いをするのはよくあることだ。特に選挙の前後など、強い言葉が国内での投票に役立つ可能性があるときは。トルコでは来年、選挙が予定されている。専門家は、記録的な水準のインフレや過去1年で価値がほぼ半減した通貨など現在の経済状況がエルドアン氏にとって選挙時には重荷となるとみている。

専門家によれば、トルコのNATOでの拒否権の行使は、将来の加盟国だけでなく、現在の加盟国にも影響力の行使のために使われる可能性がある。

欧州外交評議会のアスリ・アイディンタスバス上級研究員は「エルドアン氏はほぼ確実に、これを既存のNATO加盟国に対して自身の不満を述べるのに適切な機会だとみている。特にトルコと距離を置いているバイデン米政権に対して」と述べた。

主要な問題はエルドアン氏の失望感にあるかもしれないと、アイディンタスバス氏は分析する。エルドアン氏は現状、バイデン米大統領との間で前任者ほどの協力関係を構築できていない。

4月には報道陣に対し、自身とバイデン氏にはトランプ前米大統領やオバマ元米大統領と築いたような種類の関係性がないと不満を漏らしていた。

アイディンタスバス氏は、トルコが新しい加盟国に対して異議を申し立てたのは今回が初めてではないと指摘。以前も行った拒否権の脅しに言及しつつ、「エルドアン氏が特定の政治的な目標を念頭に置いていたとは考えにくいが、今後甘い言葉や説得を期待するのは間違いない。最終的には、自身の協力に対する見返りを得られると考えるだろう」と述べた。

トルコには安全保障上の懸念があり、NATOのストルテンベルグ事務総長でさえ対処する必要があると認めている。人々の見る目が好意的とは程遠い中で、同国は自らの不満をぶちまけることを選択し、状況を台無しにしているように映る。NATOの団結がかつてないほど重要になった可能性がある、まさにそのタイミングで。

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