イエメン沖の放置タンカー、石油流出の恐れ強まる 壊滅的な影響を懸念

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イエメン沖に放置されたタンカー/Maxar Tech/AFP via Getty Images

イエメン沖に放置されたタンカー/Maxar Tech/AFP via Getty Images

(CNN) 中東イエメン沖の紅海で放置されたまま老朽化が進むタンカーから、大量の石油が流出する可能性が強まっている。流出が起きれば約900万人分に相当する水の供給に混乱が生じかねないとする報告書がこのほど発表された。

放置されたタンカー「FSOセイファー」は110万バレル(約17万キロリットル)の石油を搭載している。これは1989年に「エクソン・バルディーズ2」から流出した量の4倍以上。FSOセイファーは2015年以来、イエメン沖に停泊したまま老朽化が進んでいる。

11日の科学誌ネイチャー・サステナビリティーに発表された報告書では、船体に亀裂ができれば中身が直接海に流出すると予想。同船からの流出による環境や経済への影響や人道的な影響は、これまでの予想より広範に及ぶ可能性があるとしている。

報告書では、「予想される流出によって、900万~990万人が1日に使う量に匹敵する浄水の供給が妨げられる可能性がある」と指摘。さらに、最大で840万人が食糧供給から切り離される可能性があると述べ、特にイエメンの漁業が脅かされるとした。

7年間にわたって内戦が続き、飢餓状態の瀬戸際にあるイエメンでは現在、主に漁業が170万人の生活を支えている。

流出が起きればイエメンの紅海の漁業は最初の1週間で66.5~85.2%が脅かされ、3週目までには93~100%が脅かされると報告書は予想。ただでさえ苦境に陥っている業界が、壊滅的な影響を受ける恐れがあると指摘した。

タンカーが放置された場所は、フダイダやサリフなどの主要港に近い。人道援助の68%はこの港を経由してイエメンに運ばれている。同国の人口の半数以上は港から届く人道援助に依存する。

流出を原因とする大気汚染によって入院のリスクも増大する恐れがある。心血管系の疾患や呼吸器系の疾患で入院するリスクの平均は、流出ペースが遅い冬季で6.7%、ペースが速い夏季は42%と推定される。

流出が起きればこの地域全体で環境や経済、健康に壊滅的な影響を及ぼしかねねず、その影響は何年あるいは何十年も続くと研究チームは予想、そうした事態を避けるために国際社会が緊急に行動する必要があると訴えた。

特に紅海のサンゴ礁は脅かされる恐れがあり、世界の貿易船の10%が通過する要衝バベルマンデブ海峡の通行も妨げられると指摘している。

FSOセイファーは16年に分類外に指定され、イエメン内戦が始まって以来、メンテナンスも行われていない。20年5月には海水パイプ漏れが原因でエンジンルームに浸水し、消火システムも作動しなくなった。

「流出や壊滅的な影響は、石油を降ろせば防止できる」と研究チームは指摘、壊滅的な事態が差し迫っているとして、緊急行動の必要性を訴えている。

イエメンでは、イランを後ろ盾とする武装組織「フーシ」と、サウジアラビアやアラブ首長国連邦を後ろ盾とする有志連合の間で衝突が続く。座礁したタンカーはフーシの支配地域にあり、フーシはかつて国連調査団による同船の調査を阻み、サウジ率いる有志連合が国連調査団を妨害していると主張していた。

国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長によると、20年11月にはフーシとの間でタンカーの安全確保に関する合意が成立した。しかし今年6月に同事務局長は、「政治的、物流的障害のため」調査団を派遣することができないと説明。結果的に、タンカーの状態を把握することも、老朽化したタンカーに積まれた110万バレルの石油をどう処理すべきか判断することもできないと述べていた。

紅海は海洋生物やウミガメ、海鳥といった野生生物の宝庫だとアンダーセン事務局長は指摘。「たとえ石油が流出した直後に責任ある行動が開始されたとしても、生態系の回復や経済の復興には何年もかかるだろう」と警告している。

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