共産党員に忠誠を求める習主席、厳格さが裏目に出る恐れも<下>

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Lintao Zhang/Getty Images

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香港(CNN) 20代後半のジュリアン・リー氏は、軍事施設内で育ち、自宅の壁には毛沢東の肖像画が掛けられていた。リー氏の祖父は文化大革命期に人民解放軍(PLA)に勤務していた。また父も北京の中国政府に勤務し、リー氏も自分と同じ道を歩むことを望んでいた。

そのためリー氏の共産党入党は、ほぼ当然の帰結だった。

リー氏は18歳の時に共産党に入党したが、入党の理由は、党員になることや中国政府に勤務することに特に関心があったからではなく、父を喜ばせるためだった。

リー氏の両親は、共産党員の地位がリー氏のキャリアに役立つと考えた。米ジョージ・ワシントン大学の政治学、国際問題の教授で、中国共産党の専門家でもあるブルース・ディクソン氏によると、これは共産党入党のごく一般的な理由だという。

中国共産党が100年前に創立された時の党員は、都会の知識人たちだった。その理由についてディクソン氏は、当時のブルーカラーの労働者たちはドイツの思想家カール・マルクスの著書をあまり読まなかったためだと説明する。マルクスのイデオロギーは、初期の共産党のイデオロギーの形成に寄与した。

しかし、中華人民共和国の「建国の父」とされる毛沢東の下、多くの農民が入党し、中華人民共和国が建国された1949年に400万人だった党員数は、毛沢東が死去した直後の1977年には3500万人に急増した。

1989年に共産党総書記に就任し、最高指導者となった江沢民元国家主席は、民間企業家や中流階級を共産党の党員として歓迎する新たな政策を導入した。

中国経済が急成長する中、党員募集の対象は再び都市部のエリート層へと変わり、毎年、最も有能な人材が入党した。党のデータによると、2020年1月1日から21年6月5日までに入党した470万人の新党員のうち、4割に当たる190万人が学生だった。

そのため一部の党員にとっては、共産党は中国で最も野心的な若い専門家たちの優れた人脈作りのための集まりにもなっている。

ディクソン氏によると、中国の国有企業では権限のある地位には共産党員が就くのが一般的で、民間企業でも共産党員は教養があり、「世間に知れると困る秘密」もないと考えられているという。

「ほぼどのセクターでも、共産党員でない人は見えない障壁に直面する」とディクソン氏は付け加えた。しかし、例外も存在する。アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)氏は共産党員だが、騰訊(テンセント)の創業者兼最高経営責任者(CEO)の馬化騰(ポニー・マー)氏と百度(バイドゥ)の共同創業者、李彦宏(ロビン・リー)氏はどちらも共産党員ではない。

しかし、習近平(シーチンピン)国家主席は、党員の地位が出世の手段として利用されるのを止めたいと考えており、代わりに党員らが自分の教義を信じることを望んでいる。

入党の影響

ジュリアン・リー氏は現在、英ロンドンで金融の分野で働いているが、党員資格は職歴にも人生にもほとんど影響を及ぼさなかったと語った。しかし、英国へ入国する際には多少物事がやっかいになった。

リー氏は英国のビザ(査証)を申請する際、自身が共産党員であり、何らかの中国の機密情報を扱っているか申告する必要があった。「非常にわずらわしかった」と振り返ったリー氏は、そもそも欲しいと思わなった党員資格を保持していることでさらなる行動が必要となったことにいら立ちを感じると付け加えた。

中国の国外では、共産党員は偏見の目で見られることが多い。著名人が共産党員であることが明らかになると、世間は懸念の原因とみなす。米国は昨年、中国共産党員とその家族が米国に入国する際のビザ(査証)の有効期間を大幅に短縮した。その際、米当局は「中国共産党の有害な影響力から米国を守るため」に、(中国共産党員の)渡米を制限する措置を講じたと述べた。この中国共産党員に対する懸念は、最近、中国軍とつながりのある中国の当局者や研究者らが米国でスパイ活動を行っていたとの疑惑が明らかになったことで、さらに高まった。

しかし、ドイツのシンクタンク「メルカトル中国研究所(MERICS)」のシニアアナリスト、ニス・グリュンベルク氏は、欧米の一部のメディアや政治家のこれまでの中国共産党員の描写の仕方は公正さを欠いていたと指摘する。

多くの共産党員は愛国者にすぎず、党員は全員スパイではないかと疑うのは適切ではないという。

ディクソン氏も、共産党員に対する懸念は、「党員」という言葉の意味の「読み違い」が原因と見ている。「約9500万人の共産党員のうち、実際に役職に就いているのは1割に満たない」とディクソン氏は言う。

しかし、習氏が党員らに党への絶対的忠誠を求めていることも党員が疑いの標的となっているひとつの要因だ。党員は、少なくとも表向きは、常に党の方針に従い、党の利益のために尽くすことが義務付けられているからだ。

しかし、仮にある党員が自発的に離党したいと考えた場合、その党員がどのように実行し、どのような結果に直面するかは定かではない。ディクソン氏によると、習政権の初期に活動的でない党員の一掃について議論されたことがあるが、多くの党員が離党する可能性が明らかになったため、その構想は撤回されたという。

つまり、共産党は最高水準の教養を身に付けたエリート集団という側面と、国家の実態を把握できるよう、広く一般住民を代表する組織という側面を両立させる必要がある、とグリュンベルク氏は指摘する。

今後有能な人材を集めるには?

習氏による規則の厳格化により、今後党員の地位の重要性が増す可能性はあるが、党が今後も有能な人材を集め続けたいのであれば、党員のメリットが義務を上回る必要がある、と専門家らは指摘する。

ディクソン氏も、仮に党員が党の勉強会のために週に数時間を費やさなくてはならないとしたら、一部の党員は自分の時間が食われることにいら立ち、そこまでして党員の地位を維持する必要はないと考える可能性もあると指摘する。

ディクソン氏は「習氏は、すべての党員を忠実な党員にしようとしているが、人々は多忙な日々を送っており、うまくいくかは不透明だ」と言う。

ディクソン氏は「(党員に日課を押し付ければ)生まれるのは党への忠誠心ではなく、党に対する恨みだ。よって習氏の取り組みは裏目に出る可能性が高い」と述べ、「最も有能な人材が入党を希望しなければ、党は忠誠心を重視する現在の方針の見直しを迫られるかもしれない」と付け加えた。

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